インターハイ予選、県大会と夏芽のスパイク
城聖学園の部活事情について、他の高校とはちょっと違うところがある。
言うなれば、学園は少数精鋭。
男子はそれなりの学力だが、女子はこの制服を纏うために全国津々浦々からやってきた、選ばれし女子達である。
今思えば勇太が何で受かれたのか分からないほどの偏差値レベルだった気がする。
さて、少人数ゆえ、部活の数も限られる。
大まかには、運動部は3つ。
サッカー部と、バレーボール部、そして卓球部。
そのどれもが県大会決勝レベルの実力を有しており、この部活に所属するため、越境留学してくる学生もまた多い。
スポーツ推薦枠も存在しており、岩田夏芽はその顕著な例の一つである。
文化部は少人数で維持されており、その数は多く、活動内容には束縛は少ない。
二年目からは、外部編入枠と、亜香里野キャンパスから選抜された好成績メンバーが入ってくるから、人数が増える。
一年は普通科三クラス。
二、三年は普通科三クラスに、特別進学科一クラス。
学年の人数が四割ほど増えるのだ。
岩田夏芽は越境留学者であり、城聖学園のスカウトマンが連れてきた、女子バレーボール期待の星である。
一年時からレギュラーを約束されており、彼女の恵まれた体躯と磨かれた実力は、古豪、城聖学園女子バレーボール部においても、若年にしてレギュラーを勝ち取ることに強い説得力を与えていた。
役割はウイングスパイカー。本来中学で担っていた、点数獲得要員であるスーパーエースは部活のトップに譲ることとなってはいた。だが、彼女の実力は内外に鳴り響いている。
「どうしたの郁己、真面目な顔で語っちゃって」
勇太が首を傾げながら、水筒を差し出してくる。
中身は、律子さん謹製の冷茶である。郁己は水筒の蓋を差し出してありがたくいただく。
「うん、まあ岩田には頑張って欲しいってことだ」
ここは、高校バレー県大会の会場である。
今日、この場でインターハイ出場校が決まる。
城聖学園にとって、この大会からインターハイまでが甲子園みたいなもので、特別進学クラス以外は全校応援でやってくる。
屋外でやるようなスポーツでなくて本当に良かった、と郁己は思う。
「城聖学園の勝利を祈ってー! 三三七拍ぉー子!!」
なんで応援団のポジションに和泉がいるんだろう、と郁己も首を傾げる。
だが、彼の存在で一年女子の心が一つになった……かもしれない。
そして女子バレー部は、すらりとした体格の綺麗所揃いである。選手が登場すると、男たちのボルテージも上がる。
ちなみに、男子バレー同好会はレクリエーションレベルで同好会止まりである。
他校からもざわめきが走る。
城聖学園女子バレー部は、控えも含めた十二名が全員即戦力ともなるレベル。
そしてその十二名全員が容姿のレベルも高い。
「馬鹿な……アイドル集団じゃないんだぞ、なんだあの容姿は羨ましい……!」
「あ、あんな顔してバレーなんか出来るわけないわ。顔じゃない、実力よ実力!」
みたいな念が対抗する学校の応援団席で渦巻いている気がする。
いよいよ試合が始まった。
サービスエースは城聖学園。応援しながら、勇太がこっそり持ち込んだお菓子を食べているうちに、危なげなく夏芽達は勝ち進む。
強い。
容姿端麗、学力優秀、そして優勝候補。
これはずるい。自分たちだって相手側だったら嫉妬する。
それが城聖学園女子バレー部という存在である。
応援したり、お菓子食べたりしているうちに、一回戦、二回戦を危なげなく勝ち上がる。
途中で昨年の優勝校にぶつかったみたいだが、ウイングスパイカー夏芽とスーパーエースの二大主砲が気がついたら勝利をもぎ取っていた。
「ほええ、うちのバレー部って強いんだねえ」
驚きに目を見開く勇太。
「県外から入学者が来るくらいだからなあ。でも多分、スカウトは顔で選んでる」
「そうかもしれないね……お、俺と同じくらいのちっちゃい女の人がコートにいる!」
一人だけ違う色のユニフォームを着た女性、リベロである。
光の反射でオレンジっぽく見える髪の彼女は、飛んでくる相手側からの攻撃をサクサク拾っていく。
とにかく、ちょこまかと動きが早く、決断が早い。
「あー、栗崎先輩すごいよね。去年インターハイに出場した時、一年生ながらトップクラスのリベロだって言われれた人だよ」
隣の女子が教えてくれる。
凄いものである。そうと分かると応援したくなる。
まあ応援しなくとも勝つのだ。
気が付くと決勝である。
二回戦目で優勝候補を破っているのだから、妥当とも言えるのだが、とにかく強い。
「揺れた!」
「……!」
「グフッ」
御堂、境山、伊調の三馬鹿が食いつきで見ている。
なるほど、言われてみれば彼女たちの胸は大きい……。とか思ってると、三馬鹿が女子たちに注意されていた。曰く、真剣に戦っている女子バレー部に失礼だとかなんとか。
「おい、ちょ、待てよ! 俺たちはバレーのルールも知らないのに連れてこられて応援してるんだぜ! 俺たちなりの楽しみ方や応援ポイントを見つけてもいいんじゃねえのか!」
御堂は相変わらず熱い。顔と性格以外はキ○タクに似ている気がする。
彼の勢いに押されてか、女子たちも「まあ、応援してるなら」みたいな感じで引き下がる。
郁己率いる彼らの濃さは、体育の授業などでさんざん見せつけているのだ。彼らの口から出た意見として考えれば、充分にこれは建設的である。
「でも、境山くんクールでちょっといいよね……」
「ええっ!?」
「緑、ちょっと趣味悪いよ!?」
あっちも盛り上がり始めた。
君たち、これは決勝だゾ。
勇太といちゃつきながら応援する郁己が偉そうにそんなことを思う。
城聖学園の応援は、ぶっちゃけるとさほど質が高くない。
やる気がある奴だけ、応援団の音頭に合わせている感じだ。半分はめいめい楽しんでいる。
校風が比較的自由なので、そんな有様でも別にバレー部顧問の大沼女史は怒らない。勝てばよかろうなのだ。
「来たっ、城聖ボール!」
第四セットマッチポイント、城聖学園ボール。
ポニーテールの切れ長な目の先輩が、ジャンプサーブを叩き込む。相手チームも流石は決勝まで来ているだけあって、強烈な一発を拾い上げる。第四セットまで戦って、慣れてきているようだ。
セッターが打ち上げて、向こうのスーパーエースがこちらのコートに叩き込んでくる。
ここで栗崎先輩が動く。ちょろちょろっと走って、スパイクに追いついて差し出した手で落下を食い止めた。
ボールは生きている。
目の大きなセッターの先輩に渡ったボールは、絶妙な位置に打ち上げられる。
巨乳のスーパーエースが飛ぶ。
相手のブロックが跳ねる。だが、巨乳打たない。時間差だ!
飛び上がったのは、ウイングスパイカーの岩田夏芽!
郁己は夏芽の咆哮を聞いた気がした。
打撃音とともに、伊調を一撃で倒したスパイクが相手コートに叩き込まれる。
間に合ったブロックは一枚、それでは夏芽のスパイクは止まらないのだ。
城聖学園がインターハイ出場権を勝ち取った瞬間である。
応援席は大盛り上がり。
「いやったー!! 夏芽ちゃんすごい!!」
興奮して抱きついてくる勇太。
鼻の下を伸ばす郁己。
よくやった、岩田。おかげで俺はいい目を見ているぞ、と一人親指を立てた。




