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プール開き後半戦、混乱のポートボール

 ざぶり、ざぶりと、夏の水面に少年少女たちが踏み入っていく。

 水深は1m少々。それなりに深いが、深すぎることはない。


「おおー! 絶景!」


 勇太が夏芽に肩車されて、プールを行く。

 対岸には一面の萌える緑。山々の風景が目に鮮やかだ。

 夏休み時には、この風景を肴に酒なんぞ飲む人たちもいるらしい。

 プール管理者のモラルは高いから、酒瓶やツマミの包装は必ず持ち帰らせているそうだが。

 こうやって、城聖学園からしか見られない光景を眺めていると、そんな酒盛りする人々の気持ちもわかってしまう。


「この風景はオンリーワンだもんねえ。ねえ夏芽ちゃん、夏も一緒に来ようよ!」

「オッケー! 部活が空いたらいつでも付き合うわよ!」


 ちっちゃいのとのっぽが友情を確かめ合っていると、その背後で男たちが怪しく蠢いている。


「さあ、坂下! 勝負だ! 今回は古式泳法で行くぞ!」

「望むところだ。俺は運動音痴だが、古式とか古武術とかナンバ走りだけは得意だぞ……!!」


「不肖、判定はこの上田悠介が承るぜ。さあ、両者見合って見合って……ファイッ」


 両者一斉にスタート!

 二人の男が伸し泳ぎでつるりつるりと進んでいく。

 もとより、流れに逆らってまっすぐ泳ぐやり方である。速度が出る事を前提にしたものではない。


「グフッ、二人共シンクロやってるの?」


 とか伊調に聞かれるのも仕方ないことなのかもしれない。

 だが、本人たちは極めて真剣である。特に何を賭けたわけでもなく、夏のプールという場でテンションが上って、バカをやっているだけなのだが、今この瞬間、彼らは一組の誰よりも真剣だった。

 一部女子達が和泉に注目する中、特になんの盛り上がりも無く勝負が終わる。

 勝利は僅差で郁己だった。


「坂下ァ!」

「和泉ィ!」


 お互いの健闘を讃え合い、熱くハグを交わす。

 暑苦しい。

 そしてテンションが切れてしまうと、体力に劣る郁己は重くなった体を休めるべく、陸地を目指す。

 ゆったり腰掛けて、プールを見渡す。


 大沼女史がボールとバケツを2つ持ってきたようだ。

 どうやらポートボールが始まるらしい。

 ポートボールというのは、ゴール役の生徒を二名決めて、その生徒のチームと別の生徒のチームが、ボールを奪い合ってゴールへとボールを投げる。ゴールを務める生徒は、それを受け止めるというものだ。

 ここは水中ゆえ、ボールキャッチ力を重視して、ゴールはバケツを持った学生が行う。

 むくつけき男子二名が選ばれ、ゴール役となった。

 有志男女がチームに別れ、特典を競い合う。


 仮に、ウサギさんチームとカメさんチームとしよう。

 ウサギさんチームのエースと目されるのは、最強アタッカーである岩田夏芽。

 女子達から圧倒的人気を誇る代わりに、男子を敵に回す諸刃の剣、和泉恭一郎。


 カメさんチームのエースは、水中を高速で蠢く猟奇的な獣、伊調守。

 そして、コンパクトながらも高いジャンプ力と運動性能を誇る、金城勇太である。


 正統派であるウサギさんチームに対し、局地戦に特化したカメさんチーム。

 先の読めない戦いであった。

 暇な郁己、解説を始める。


「さあ、始まりました一組対抗ポートボールマッチ。

 司会は私、坂下郁己と、解説は大沼先生でお送りします」

「うむ」

「大沼先生からご覧になって、どちらが優勢と思われますか」

「やはり全体バランスに優れるウサギさんチームだろうな。スポーツに近道はない。ただ王道あるのみだ」

「含蓄あるお言葉です。

 おっと、審判上田悠介のホイッスルが鳴り響きます。試合開始です。

 ジャンプボールは岩田選手と藤堂選手。藤堂選手は男子ですね。身長差もあまりなく、これは岩田選手苦しいか。

 おっと、取った! 岩田選手、高さでサッカー部の藤堂選手を圧倒! 藤堂選手、上に手を伸ばすという動きに慣れがありませんでした!」

「サッカーだからな。それにあいつ、岩田の胸ばかり見てたぞ。後で正座だな」

「さあ、ウサギさんボールです。岩田選手、果敢に攻めるが……囲まれた! 男子達が壁を作ります。ここからではゴールまでいささかきつい……。

 おっとパスです! 駆け寄ってきた和泉選手、爽やかにパスを要求、カメさんチームの女子が道を開けてパスが綺麗に通りました。流石は男の敵ですねえ」

「スポーツでもドロドロしているな」

「だがカメさんチームも隠し玉を出しました。金城選手が和泉選手に立ちふさがります。

 和泉選手、何やら金城選手を熱心に口説いていますバカヤロウそれは俺のだって言ってるだろやめろ和泉」

「落ち着け坂下」

「しかし金城選手、明らかに身長からはありえない高さのジャンプで和泉選手のパスをブロック!

 今、明らかに横に凄い高さまで飛びましたね」

「うむ、我がバレー部に欲しい逸材だ」

「そして金城選手、ボールを抱えての潜行泳法からの……パアアアアス!

 猟奇の申し子伊調守に渡ったあああっ!

 伊調選手、泳ぐ、いや、這いずる、いや、水上に半ば浮上したまま高速で蠢きます!

 速い、圧倒的に速い!」

「あれはどうやって泳いでいるんだ?」

「さあ、そこはさっぱり……。

 おーっと、誰も止められない暴れ馬、伊調の前に、岩田選手が立ちふさがったーっ!

 あのヌルリとした動きを体を張って食い止め……絡まったーっ!

 なんか伊調のパンツが岩田の腕に絡まって脱げたー!

 落ち着け、岩田落ち着け、確かに今お前の後頭部にくっついてるのは、ああ、そうだ。だが、いかん、いかんぞ暴力は。伊調だって一応多分もしかして人間だ。お前が本気でやったらってやめろこっちに投げるなああああ」

「ゲームセットだ! 試合終了だ!」


 大沼女史の物言いがつき、ポートボールは0-0で終了した。

 大変なものに触ってしまった夏芽がマジ泣きしているのが印象的だったと勇太は後に述懐している。

 この日から、伊調のあだ名が猟奇から邪神に変わった。


 授業後も、涙目で放心状態の夏芽をむぎゅっとハグして癒やしている勇太に聞いてみた。


「あんなんだけど、どうだった?」

「ちょー楽しかったよ! 次の授業が楽しみ! もちろん、海もね!」

岩田夏芽だって乙女なんである

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