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いよいよプール開き! 戦わなくちゃ、煩悩と

 ついに、やってきてしまった。

 プール開きの日である。

 天は高く晴れ渡り、一片の雲も無し。

 この日、気象庁は梅雨明けを宣言し、いよいよ本格的な夏が始まった。

 体育の授業が始まる前から、みんな、ウキウキ、そわそわ。

 泳げない人々も、目当ての人の水着姿を思い浮かべて、落ち着かない様子。

 ここにも一人、大変落ち着かない子がいた。


「水着よーし、UVカットよーし、帽子よーし! うっふっふ」

「おっ、なんか暇があればずっとチェックやってるよな」


 学園では、ウォータープルーフのUVカットのみ許可されている。

 女子たちの日焼け対策問題は切実である。何年か前に、生徒会がUVカット使用を学校側に認めさせ、このような制度になったとのこと。

 勇太は日焼けしても一向に構わなかったのだが、妹である心葉に無言で持たされた。

 塗らないと分かってるわね、くらい言われている気がして、勇太はこいつをきちんと塗りたくるつもりである。


 さて、やってきた親友に、ちっちゃい少女は満面の笑みを浮かべてみせた。


「うふふ、これが喜ばずにいられようか、だよ郁己。あと一時間足らずで、プールだよ……! 俺、今日は泳ぐためだけに学校来てるもん……!」


 城聖学園のプールは屋外にある。

 周囲は開発された山々が連なっていて、校舎奥のやや高台にあるプールからは、緑に萌える山々を望むことが出来る。

 絶景である。

 さらに、このプールは夏休み期間中、市民プールとして開放される。

 入場料などもかかりはするが、学園の施設をある程度自由に使えるようになり、学生食堂はプール専属食堂に、学校と契約した業者が入ってきて、アイスやジュースを売り始める。


「もちろん、夏も来たい」

「いやいや、それは近くのプールに行こうぜ勇太」

「何を言うんだよ! ここは俺達で掃除した思い出のプールだよ!? この夏の間に堪能し尽くさなくてどうするの!!」


 凄い熱弁をされた。

 クラス全体が、なんとなく熱に侵されたようなまま、待望の時間がやってくる。



「おっ、女子が来たぜ!!」


 郁己たち、一年一組の男たちはプール入口に注目する。

 女子更衣室入り口から、城聖学園謹製のスクール水着に身を包んだ女の子たちが次々に登場する。

 城聖学園の女子達は、全体的にレベルが高い、と郁己は思っている。

 入学時に面接があり、さらに可愛い制服を着たいある程度容姿のある女子が努力をして入ってくるから、平均レベルがあがっているのかもしれない。さては面接、顔で選んでいるな、とも思う。

 だが、今は面接万歳である。

 右を見ても左を見ても眼福、眼福。

 郁己が目を細めて頷いていると、非常に見覚えのある娘が姿を現した。

 男どもにどよめき走る。


 身長こそ女子たちの間でも小さい勇太、最近最小サイズを脱したものの、まだまだ身長順ではかなり前の方である。

 だが、その体つきは完全無欠に女の子であった。

 普段の、ともすればボーイッシュで活発な女の子という印象を大きく裏切る、その体型。

 出るところはドーンと出て、引っ込むべきところが引っ込んで、腰回りは筋肉も相まって締まりつつ、その上にふんわりと脂肪が乗っている体型。


「やべえ、金城さん、乳でけえ」

「も、揉みたい、お願いしたい」


 ばかな! あれは俺のものだ!

 郁己は人を殺せそうな視線で周囲を睥睨した。

 と、勇太がなんだか、事前のテンションなど嘘のような大人しさでこちらにやってくる。

 ガン見する郁己の胸板をぺちんと叩いた所で、周囲の男たちから嫉妬ビームが降り注いだ。

 それもすぐに、別の女子が登場したことで発散してしまうのだが。

 岩田夏芽は人気だった。


「どどど、どうした勇太。なんか歩くたびに揺れてるぞ」

「胸の話かよ! いや、そのさ、凄くて」

「……何が凄かったんだい」


 郁己は真剣な顔になった。

 この親友がここまで取り乱すとは、尋常ではない。

 きっと常軌を逸したほどの美味しいハプニングがあったのだろう。


「うん、俺、本当にもうついてなくて良かった……。あれ、絶対耐えられる自信無いよ。だけど、ついてなくて凄く残念だっていう気持ちもあって、俺はとってもフクザツな気持ちなんだ……」


 周囲の女子たちが着替える風景だという。

 周りに男がいない場合、女子達は恥じらいという薄衣を勢い良く脱ぎ捨てる場合が多い。

 例に漏れず、城聖学園一年一組女子もそうであったということだろう。

 勇太は想定していた以上にオープンで、そして大量で刺激的なものを見まくって、しかも自分の体を触られたり揉まれたり担ぎあげられたり、って最後はこれ岩田だな。


「おっ、早速いちゃついてるわね、一組ベストカップルよ」


 噂をすれば岩田夏芽がやってくる。

 180㎝を超える身長の彼女は、全身引き締まり、脚はモデルのように長く、同じ水着を着ていても、他の女子たちとは全く別の存在に見えた。

 これは、これでいい。

 案外胸も……、なんて男子達の注目が集まる。


「だ、誰がベストカップルだよう」


 勇太の抗議が弱々しい。


「お二人さんのことに、決まってるで、しょ!」


 夏芽が勇太の胸を指先で弾くと、すごい弾力で跳ね返して、胸元もぷるっと揺れた。

 男どもに衝撃走る。


「あんっ、胸を突っつくなよう! まだちょっと痛いんだから!」

「勇ってば、キャラに依らず凄いもの持ってるわよね……。これは男の子達には核弾頭だわ」

「なぁ、何がだよおー! んもおー!! みんな見ーるーなー!」

「見ないことは難しいよなあ」


 郁己は親友の胸をガン見しながら呟いた。


「おおっ、凄いな金城さん!」

「きゃあ、俺は見ない、俺は見ない、俺は水森さんの以外見ないぞぉ!」


 うるさいのがやってきた。

 和泉は女の子たちから熱い視線を送られながら、会う女の子、会う女の子、みんなの水着姿を何かしら褒めている。

 そして勇太の番ということだろうか。

 後ろに金魚のふんがくっついている。

 操を通そうとするとは見上げた根性。


「あ、ありがとう和泉君。でも、そんな大したこと無いから……」

「「「あるよ!」」」


 郁己と和泉と上田の声が重なった。上田はもう操を守り通せなかったようだ。


「そうよね、勇のこれはもう凶器だわね。しかもこれで成長途中っていうんだから」

「ああ、岩田さん。君が着ると、スクール水着がモデルが着た今年の流行! みたいになるね。可愛いというか、綺麗だよ」

「どっ……どうも」


 軽口を叩いていた夏芽、和泉にさらっと褒められてちょっと赤くなって静まる。

 岩田を一言で黙らせるなんて、やるな和泉。

 こいつは何をやって鍛えてるのか知らないが、胸板も割りと厚くて痩せマッチョというやつだ。いや、それよりもやや肉が付いているな。実戦用の肉が。


「だけど、俺の考えていたよりも、ずっとみんな綺麗でびっくりしているよ。やはり夏は女の子を磨くんだね」

「クサイこと言ってるなあ和泉」

「何を言うんだ坂下。女の子は褒めるものだ。そうして蕾の内に美しさを伸ばしていかないと、花の命は短いんだぞ。お前も金城さんを褒めろ! っていうか、お前以外に誰が彼女を褒める正当な権利を持っていると言うんだ! 見ろ! あの幼さを残した顔! キャップで髪が抑えられたら、ボーイッシュな感じよりちょっとロリータな印象になるギャップ! そして続くこの胸の柔らかい外見こそ真実だろう! 引き締まるウエスト! 明らかにこのラインはスポーツによって鍛えられた機能美だぞ! 続くヒップから太もものラインなど芸術だ! 脂肪と筋肉がどのバランスで組み合わされば、絶妙な外観になるかを実践してくれている! 何故気づかん坂下ぁ!」


 目を血走らせて語る和泉。

 周りの女子は、きゃー、和泉くんが男子に掴みかかってー、なんて言ってるがそんないいものじゃないぞ!

 郁己は震える。

 この男、これほどまでに熱いパトスを内に秘めていたのだ。ていうか、お前勇太のことかなり気に入ってるだろう。

 和泉の勢いに押されて、「ひええ」とか悲鳴を上げて勇太が後ろに下がった。

 郁己を盾にするように、腕をとって背後にギュッと身を寄せて、


「さ、さあ郁己、私を守って」

「俺が襲う側になりそう」


 物凄い柔らかさが腕全体を包んでいて、郁己は深く息を吐き出すと、勇太をまとわりつかせたまま、前屈みになった。


「オーケー、マイサン、落ち着いていこう。俺はジェントルマンだ。俺はジェントルマンだ、俺はジェントルマン……」


 郁己が煩悩と戦う仲、体育教諭の大沼女史が手を叩いて声を上げる。


「さあみんな! プール開きだ! 今日はフリーだよ、存分に楽しんで来な!」


 パラダイスが始まった。

比較的長くなりましたが煩悩との戦いはまだ続きます

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