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内気女子から見た小さな友達→閑話休題。

ふと思いつき、カッとなって書き、投稿する

 小さな頃から人見知りする性質で、損ばかりして来たと思う。

 口を開こうとすると、発しようとする言葉は本当にこれでいいのか考えてしまって、出だしてつっかえてしまう。

 初めて話す人の前ではうまく口を開けなくて、声だっておかしいんじゃないかって思えて、そうすると向き合おうとすることさえ億劫になってくる。

 読書は壁。

 誰の気持ちも害さないように、そっと対話を拒絶することが出来る、大切な壁だった。

 そんな、水森楓は、可愛い制服が好きな普通の女の子だった。


 それでも、制服は可愛くても、それを着た私は可愛くないんじゃないか、なんて悩んだ。

 5月になったけれど友達は出来なくて、一人でじっと、教室の片隅。

 図書室から借りてきた文庫本を読んでいる。

 一学期の最初で、クラスの担当や委員を決めることになったから、勇気を振り絞って図書委員になった。

 そうすれば、休み時間の間も一人で教室にいなくていいから。

 中学の頃もそうだったけれど、一人の時間に慣れることはできなかった。


 そんな、ある日。

 一学年の生徒数が少ない城聖学園高校は、よく合同授業がある。

 体育祭になると、城聖学園の別キャンパスの高校との対抗戦になり、もっと賑やかになるそうなのだが。

 その日に行われたのは、調理実習。

 一年生の女子54人が集まっての合同授業で、それぞれチームを作って料理に挑戦することになった。

 当然というか、なんというか、楓はあぶれてしまって、手持ち無沙汰で佇んでいる。

 すると、そこにちょこちょこと近づいてくる人がいる。


「ねえ、2組の人? 手は空いてるのかな。私のところ芋煮なんだけど、人が足りなくって」


 芋煮とはまた渋い。

 年頃の女子の心を引き付ける料理ではない。

 だからなのか、あまり人気が無く、その小柄な少女と何人かの1組、3組の生徒しかいない。


「あ、い……いい、よ」


 なんとかそれだけ絞り出した。

 ああ、だめだ、変な答えを返しちゃった。また、変なものを見るような顔をされる。

 ぎゅっと心臓を掴まれるような気持ちになる。

 だが、その少女はにっこり笑った。


「おおー! ありがとう! これでお腹いっぱい食べられるー!!」


 彼女はぎゅっと楓の手を握って、芋煮班へと招き入れたのである。

 彼女の名前が金城勇というのだと、授業が終わる頃に知った。

 その日、楓は入学して初めての友達が出来た。



 勇はあまり本に興味が無いのか、図書室に遊びに来た時は、いつも図鑑のような写真が多いものを好んで読んでいた。

 彼女は友達が多いらしく、しょっちゅうやってくるというわけには行かなかったが、時折やってきて小さな声でお喋りをするのが、楓にとって何よりも楽しいひと時だった。


 そんなある日、楓は変な男の子と出会う。

 彼は空気を読んだりだとか、上品に振る舞うとか、そういうのが全部苦手なようなタイプの男の子で、今まで話したこともないようなタイプ。

 初めて出会った時も、大講堂へ手を引っ張っていかれて、しかもあんな、あんな内容のことを大声で……!


(終わった、私の高校生活、終わった)


 目の前が真っ暗になった気持ちだった。

 ぐったりと体から力抜ける気がしたけれど、手を引っ張られて席まで案内。

 彼の手はぎゅっと強く握られて、こちらから言わないと離すのも忘れているほど。

 彼がしてくれたフォローは面白いものだったかもしれないけど、パニック状態でよく覚えていない。

 ただ、彼と目が合った時、そんなに悪い人じゃないのかな、と思った。


 彼は何度か図書室に通ってくるようになった。

 私を見に来てる?

 そう思ったけれど、声をかける勇気はないし、目を合わせるのも怖い。

 だから教室でいつもやっていたみたいに、本を読んで顔を隠した。

 どうしよう、どういう風に対応したほうがいいんだろう?


「ねえねえ楓ちゃん! 上田くんが、楓ちゃんのこと好きなんだって!」


 そんな時にやってきたのは、勇だった。

 彼女の言葉はいつも明確で、真正面からの直球勝負。

 分かりやすくて、つまり彼が上田くんという人で、どういう人で、どういう目的があって行動していたのかが一言で分かってしまった。


 だから、心が決まって、保健室で鉢合わせた時も、自分的にはそれなり、ちゃんと答えられたのだと思う。



 さて……保健室から出てくる彼らを待って、楓は並んで歩いた。


「だい、じょうぶ? 勇ちゃん、坂下くんも、けがとか……その、ない?」


 違う違う、かけたいのはそんな言葉じゃない。でも、無意識の内に……。


「わはっ、楓ちゃん、名前で呼んでくれた! うれしいかも!」


 名前で呼んで、良かった!

 勇が喜ぶ姿を見て、こっちも嬉しくなってくる。

 坂下君は優しげな眼差しで、自分と勇のやり取りを見つめている。この人が勇ちゃんの大切な人なんだな、と思って、微笑みを返す。すると、びっくりしたような顔をして、照れ笑いを返して、勇がこっちと彼を交互に見たあと、ぷくっと膨れた。

 申し訳ない気持ちはあったけれど、笑顔が溢れてしまった。

 彼らと行く海の約束。

 今から楽しみだ。


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