入学式の後。二人で感想大会。闖入者あり。
郁己と勇太が入学式を終えました。
いろいろだべります。
「やあ、お疲れ様。勇太、すごくキョドってた。いいものを見た」
郁己の感想に、同じクラスに戻ってきていた勇太が赤くなった。
「だってお前、周りは女子ばっかりじゃん。あれは無理!ぜったい無理だって」
声をひそめるのは、聞かれてはいけないと思っているせいか。
郁己は、勇太のメンタルはまだまだ男なのだと思っている。何せ、ひと月前までは戸籍上も男だったのだ。
「だいたい、今更だけどスカートスースーするし、歩くとき女子の歩き方は難しい」
「研究しないとな」
「研究だな」
ぼそぼそと話し合う。
「それで勇太、一つ聞くけど、戻ってくるとき階段でよろけたじゃない。ガタイがいい女子に受けとめられたけど」
「あれか」
「あれです」
勇太は頬杖をついた。
二人の席はちょうど隣。
「気づかれなかった?」
郁己の言葉に、勇太は深刻そうな顔をしてみせた。
「正直やばかった。柔らかかった。いいにおいだった」
お前だっていい匂いだと思う、とは口にできない郁己。
「やっぱりまだ、男としての欲望とか残ってるわけ?」
郁己は純粋な疑問として投げかけた。
「まだついてるからさ。段々消えてくってお医者さんは言ってるけど、それはそれで、こいつも自己主張するんだよな」
勇太は先刻の感触を思い返すと、また赤くなった。
ふっくらしたほっぺたが、こうなるとツンツンしたくなる可愛らしさだと郁己は思う。
いや、いかん。勇太は一ヶ月前まで男だった親友じゃないか。
顔を寄せ合ってヒソヒソ会話する二人が、周りからどう見えるかなんて当事者たちにはわからない。
話に熱中するあまり、背後から近寄ってきていた巨大な影に二人は気づかなかった。
「お熱いねお二人さん。それとも同じ中学?」
教室の中のざわめきが一瞬遠ざかった気がした。
「ぎゃあ」
「うおお」
郁己と勇太がお互いの距離を離す。
「や、やあ、さっきはありがとう。えーと……岩田……さん?」
勇太がぎこちない笑顔を浮かべて言うと、大柄な少女は鷹揚にうなずいた。
「岩田夏芽。金城さんに、坂下君?仲いいんだ?」
「うん、うちら、同じ中学だから」
夏芽と勇太の会話に、郁己は加わることができない。
郁己は人見知りするのである。
だが、横目でチラチラと、この巨大な少女を見る。
(なるほど、柔らかか……)
目ざといのは勇太であった。
「あ、郁己やらしいんだ」
声を上げて郁己を非難した。
「なぜ、なぜ勇太が言う」
勇太は男ではなかったのか。気持ちを分かってくれる立場ではなかったのか。郁己は裏切られた気持ちだった。我が悪友金城勇太はどこにいってしまったのか。
「浮気はだめよ坂下くん」
笑顔とともに、夏芽が指をピースの形にして、郁己の目を突いた。
メガネに当たる。
「ぎゃあ」
「郁己!」
「峰打ちよ、安心して」
何が峰打ちなものか。メガネがなければ危ないところだった。
郁己は岩田夏芽という少女に潜むバイオレンスに戦慄する。
かくして二人は新たな友人をこさえつつ、会話の続きを下校からのバーガーショップに持ち越すことになるのである。
とりとめもない話が続きます。
バーガーショップで三人の会話へ。