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卒業式予行。いよいよ最終月!

 今月の前半、卒業式が行われれば、三年生は学園を去っていくことになる。

 もっと奥にある大学部のキャンパスに内部進学する者も多いが、それだって山一つ隔てた距離だ。おいそれとは会えなくなる。

 文芸部の先輩たちとはこれでお別れである。

 感動的な卒業式に、予行練習なんて、なんとなく興ざめという感じだが。


「うっ、先輩と、これで、お別れ、なんですね」


 今から涙ぐんでいるのは楓である。

 夏休み前には、文芸部唯一の一年生だった彼女は、色々と三年生たちから可愛がってもらい、お世話になっていたのだ。


「ちょ、ちょっと水森さん早いって……」


 クラスの女子が慌てているようだ。

 郁己としては、特に三年生との付き合いがあったわけではないので、感慨なんてものも全く無い。

 それは勇太も同様な様子。むしろ彼女は、この退屈な予行練習の中、今にも寝てしまいそうである。

 背丈の順番が一番近い利理が、慌てて五分ごとくらいにゆすり起こしている。

 基本、何か外部からの刺激が無いと、すぐ寝る子なのだ、あれは。


 予行練習はお台本通りに進行。

 問題なく、送辞と答辞も読まれる。

 卒業式に参加する度に思うが、一体これはなんなのだろう。

 卒業生のための卒業式なのだろうか。それとも、参加する父兄のための卒業式なんだろうか。

 いや、きっと父兄が主役の卒業式なのかもしれない。

 結婚式のようなものだ。

 私たちはこうやって立派な式で送り出されます。今まであなた達が学校に通わせてくださっていたことは無駄ではなかったんですよ……的な。

 結婚式だって、花嫁の一生に一度の晴れ舞台だし、両親にその姿を見せて、今まで育ててくれたことがこうやって実っています……なんて見せるためのものだって話だ。


「いや、それでも俺は結婚式あげるけどな」

「どうした坂下?」

「や、なんでもない」


 訝しげに和泉が見てくる。

 やばい、勘付かれるところだった。というか、元々勘がいい和泉のことだ、内心では何のことだか分かっているに違いない。

 そんなこんなで予行は終わり。

 みんなわいわいと教室に戻ってくる。


 学校によっては、卒業式に一年生は参加させないところもあるようだが、人数が少ない城聖学園は、基本全員参加である。

 吹奏楽部が色々音楽を担当しているところは中学の頃と変わらない。

 今日は、ロングホームルームの時間を使って予行練習となったわけだ。

 本番はあと数日後。

 三年生の先輩方は、受験に成功したり、もう一年間の苦行が決定したり、就職したり、夢破れたりと色々であろう。

 だが、その日ばかりは等しく主役なのであった。



「とまあ、そういうことでだ」


 文芸部の活動を終えて帰る途中である。

 郁己、勇太、楓、上田の四人組。上田はだいたい、楓が終わるまで待っている。


「卒業式っていうのは結婚式に似てる思ってさ」


 郁己が言うと、上田と楓がぎょっとした顔で立ち止まった。

 そして、お互い目を合わせると、赤くなって動きがぎこちなくなる。


「どど、どういう風の吹き回しだよ!? なんで卒業式予行が結婚式になるんだよ?」

「いや、だってな。卒業式は本番が大事じゃないか。そこで感動を味わったり、答辞や送辞でサプライズがあって涙腺にぐーっと来るもんだと思うわけよ。でも、予行練習で全部やったら、もうあれじゃん? 本番なんか二回目じゃないか。茶番じゃないか。じゃあ、誰のための卒業式なんだよっていう」

「三年生の人たちのためじゃないの?」


 勇太が首を傾げた。


「その三年生が予行に出てるんだぜ? 中身も進行も全部わかったものをやるわけだよ。儀式じゃん。だから新鮮な気持ちで式に臨めるのって、父兄しかいないわけよ」

「あー、確かに」

「でも、送り出される、先輩、たちは、何回目でも感動、するとおもうな」

「それはそうかもしれないけどなあ……」


 楓の言葉には、実際に予行で感激したからこそ込められる感情があった。

 自分のようにひねくれてはいないなあ、なんて思う。


「それで、郁己はなんで結婚式みたいなんで思ったのさ」


 そこが本題である。


「結婚式って、本人たちの希望でやるけど、親のためにやるものでもあるって言うじゃん? 卒業式もそうなじゃないかって思ったんだよ。だって予行までやって、つまり本番でうまく行かせるためだろ?」

「なるほどー。それで茶番だと。郁己は結婚式とかは嫌いなの?」


 あくまで、勇太の質問は淡々としている。

 だが、郁己はこの子が何よりも、そういうイベント事大好きな子だと言うことをよく知っている。

 ちなみに学校行事の式関係は全部苦手らしい。


「俺は結婚式にどうだっていうイメージはないけど、やるつもりだよ。っていうか絶対やる。だろ、勇太」

「うんうん、そうだよね、やっぱ!」


 二人で盛り上がる。

 つまり、そういうことで。


「え、二人、とも、今から、考えてるの?」

「早くね……!?」

「いや、だってさ、考えてみろよ」


 郁己は強く拳を握りしめた。


「俺たち、法律上は18歳で結婚できるようになるだろ? 意識しないほうがおかしくねえ?」

「待てよ、ほら、もっと色々経験してからとかあるじゃんか……。結婚したら遊べなくなる、とか、決断するのが早いとか」

「え、何か? 上田、お前、水森さん以外の女の子と付き合ったりしてから結婚するとかそういうこと? 色々経験って」

「いやいやいやいや!」


 郁己の曲解に、真顔になって首を横に振る上田。


「水森さん以外ありえねえよ!」

「う、上田、くん……!?」

「だよな! そうだよな! だったらさっさと結婚しちゃってもおかしくなくね? だって結婚してからだって幾らでも遊びに行ったり、色々なこと体験できるじゃん」

「うんうん」


 郁己、勇太組に押されまくる、上田、楓組。


「大体さ、好きってのは分かりきってて、他の誰にも渡したくないのに、なんで結婚を悩むわけ?」

「……言われてみれば……」

「私はウエディングドレス着たいなー」

「わ、私、も」


 まあ、世の中色々事情はあるかもしれないのだが、郁己にとっては卒業式予行練習から、そこまで思考が飛躍してしまったということである。

 郁己と勇太はこの点において、完全な見解の一致を見た。

 ただその事に満足な郁己である。

 まだまだ、そんなことを考えるには早いという向きもあるだろう。

 だが、わずか一ヶ月後には二年生、一年と一ヶ月後には三年生となり、十八歳ともなれば、郁己は法律的に結婚できるようになるのである。

 郁己には、とても早すぎるなんて思えなかった。

 何より、今年一年だって、あれだけの決断を連続して迫られたのだ。間違いなく、人生にとって大事な決断だったと思える。

 来年、同じように重大な決断を次々に迫られないなどと、誰が保証できるだろう。

 ならば人生の大まかな方向性を、今から決めてしまってもいいのではないだろうか。

 何、あとで方向修正すればいい。

 そんなふうに考えて、彼は帰途につくのであった。


 ちなみに、卒業式は予行練習通り、つつがなく行われたらしい。

 予行で泣いてしまった楓は、本番では何故か泣けなかったらしく、しばらくお悩みの様子であった。

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