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二月の最後、寒い夜の帰り道と乙女のヒミツ

 流石は一番短い月である。

 あっという間に二月が通り過ぎる。

 寒さは心なしか和らいできたように思うが、春を目の前にしても、コートを手放すことは出来ない。


 寒風吹きすさぶ帰り道である。

 電車から降りた郁己と勇太は、すっかり日が落ちた道を行く。

 文芸部がある日は帰りが遅い。

 別に強制参加ではないし、これといって重要な事をするわけでもない。思い思いに本を読んだり、文を書いたり。

 気が早い者は、今から四月からの新入生歓迎文集用原稿を書き出していたりする。

 そんなこんなで、とっぷりと日も暮れてしまう。

 すこしずつ日没の時間が遅くなっているのだが、まだまだ最終下校時刻よりも随分早く、日は落ちてしまう。

 今日は、来月卒業する三年生の先輩方が顔を出してくれたので、思わず話し込んでしまった。

 それも、遅くなった一因。


「まだまだ寒いねえ」


 マフラーに顔をうずめながら、勇太が言う。

 暑さ寒さ全般に強い彼女だが、寒いものは寒いのだ。風邪一つ引かない健康優良児は、ぴったりと身体を郁己に寄せて風を除けようとする。


「俺が風に当たってしまうじゃないか。こう、もっと勇太は密着してだな」

「やだ、郁己のえっち」


 勇太の声には多分に笑いが混じっている。

 照れも少しあるが、それでも郁己の言葉に従い、ぎゅっと身体を寄せてきた。

 歩くのが少し大変になるが、これはこれで大変暖かい。

 随分と背が伸びた恋人の顔を横目に、ゆっくりと家路を行く。

 すると、勇太が首に巻いていたマフラーをするすると解いていくではないか。


「ふふふ、一度やってみたかったことがあったんだった。さあ郁己、ちょっと屈んで」

「なんだなんだ」


 僅かに膝を曲げると、勇太はマフラーを郁己の首に回し、自分の首にも回し、そしてむぎゅうっ!とばかりにひっついてきた。


「一つのマフラーを二人で! 恋人っぽい!」

「勇太、もしや天才……!?」


 身体ばかりではない、心まで温まってくるようだ。

 一年前までだったら、中学生の男同士である。どこか少女じみてきていたとは言え、勇太は男とくっつくなんて、と嫌がったことだろう。内心はどうあれだ。

 それに、もっと身長差があった気がする。

 例えこうやってマフラーを一緒にしたとして、つむじが見えるくらいの差が……。


「あれ……? 勇太、かなり大きくなってるよね?」

「うん? そうだねえ……すごく伸びたのは確かだと思う。確か、入学した時は148センチだったけど、今は157センチあるから……」

「めちゃくちゃ伸びてるじゃないか……! 制服は大丈夫だったのか?」


 改めて聞くと、ぶっ飛んだ成長ぶりである。

 男子は中学、高校とぐんと成長するから、一年で十センチ以上伸びるのだって珍しく無い。

 だが、女子はある程度の年齢で成長なんて止まってしまうはずなのだが……よりによって、女子になってからぐんと伸びた勇太である。

 もう、成人女性の平均身長くらいに達している。

 だが、制服を新しく誂えたとか、そういう雰囲気はない。確かに思い出してみると、春先の勇太の制服はちょっとダブっとしていた気がしたが。


「少しだけ大きめのを買ってたんだけどね。流石にシャツは大きさが変わっちゃって、サイズをひとつ上にしたよ。あとブラのサイズは三つ上がって」

「三つ!!!!」

「み、三つだよ!? それがどうしたんだよ! そこだけ超反応するなよお!」

「いつそんなに育ったんだよ!?」

「いやあ、その、体重も一気に増えちゃって、言いづらくて……。冬になってから5センチ位伸びたし、ブラもきつくなって……って、なんで俺赤裸々にそういうこと教えてるのさ!」


 強烈な肘打ちを喰らって、郁己は呻いた。

 ともかく、大きめに買ってあった制服に、今は身体がピッタリとフィットしているらしい。

 胸のサイズは……見立てでは……。


「Fカップくらい……?」

「うわ、郁己キモい! なんでピッタリ当ててくるわけ!? 可愛いデザインが少ないし、お高いしで結構たいへんなんだよ……」


 Fのアンダー70くらいかな、なんて思ったのは心にしまっておく。ちなみにそうだとすると、なんとトップバスト93センチくらいになるらしい。恐ろしい。

 ちなみに、利理はEカップなのだそうだ。ついにあれを超えたのか。


「私の場合、結構日本人体型だからそこまで大きく見えないんだって。利理ちゃんってフィリピン人のクォーターらしいよ? だからスタイルがいいから、より大きく見えるの」

「な、なるほど……!!」


 下世話な話をしながらも、ぴったりくっついて歩く。

 傍から見ると、仲睦まじいカップルであろう。乳のサイズの話で大盛り上がりだとは分かるまい。


「で、自分的にはどうなんだよ」

「あのさ、もうそろそろ、自分が女であることが日常になって来てるんだよね……。正直夏ほどの興奮は無い」

「ほうほう」


 二人の家の明かりが見えてくる。

 もうすぐ、それぞれの家に分かれる時間である。


「なので、あまり大きくなると、きちんと体を鍛えておいて肩こりを防がないとなーなんていうのが気になるし、メンテにも気を使うかなあ」

「ほほーーーー」


 実に興味深い。

 勇太は日頃からキッチリと身体を鍛えていて、身体に脂肪を纏いながら、その下にしっかりと筋肉を宿している。

 見た目は出るところは出て、引っ込むところは引っ込んで、太ももなんかはむっちりしているわけだが、膝からふくらはぎはしっかりと引き締まっている。

 二の腕はあまりぷよぷよしていなくて、シュッとしていてかっこいい。だからこそ、胸元からお尻にかけてのギャップが男心に来るわけなのだが。

 そういう意識までして身体を鍛えていたとは。

 ちなみに聞き出した体重は結構増えていた。筋肉っていうのは重い物なのである。

 秋から8kgほど増量していたことだけは記述しておこう。


「まあでも、おかげで冬を無事に過ごせました。皮下脂肪って凄い」

「勇太、お前……日々段々抱き心地が良くなってきてると思ったら、肥えてきてたのか」

「一度つくと落ちないんだよね……。太ることはないけど、ぷよっとしたのがデフォルトになる感じ」

「おや、勇太に郁己さん」


 学校帰りらしい心葉とも遭遇した。

 彼女の制服は、ブラウンのコートと、由緒正しいセーラー服である。


「心葉も一緒だったかー。それじゃあ郁己、またね!」


 二人が手を振り、家の中に消えていく。

 ああして並んでいると、心葉と勇太の身長差もそれなりについてきたように見える。

 心葉は150センチちょっと、勇太よりも5センチくらい低いかもしれない。


 とりあえず、今日は、何だか女子の秘密をたくさん聞いてしまった。

 主に勇太の体の変化なんかをしっかり、データとして聞いてしまい、そういう所非常に記憶力が良い郁己は、その数値をしっかりと脳に刻み込んだのである。


「……Fか!」


 郁己の心は暖かだった。

二月終わり。いよいよ次は、最終月の三月です。

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