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ショッピング。はたして男の子、女の子?

 ショッピングモールと言えば……ショッピングである。

 各種ブランドショップが軒を連ねていて、例え買わなくても、ウインドウショッピングするだけで充分楽しい。

 郁己は勇太を引き連れて、ちょっと名の知れたガールズブランドの店先を冷やかす。


「へー、最近の女の子ってこういう服着るんだねえ」


 他人事みたいに言ったのは勇太。

 なんだかあまり興味が無さそうだ。

 それはそうか、こいつは3月までは戸籍上男子だったのだ。


「勇太は着てみたいとか思わないのか?」

「ない」


 即断である。ちょっと残念な郁己。

 間違いなく勇太は、こういうコケティッシュな衣装が似合う。

 だが、彼が男であったことを知っている自分がこういうのを勧めるのは、なんだか勇太の男としての逃げ場を奪ってしまうようで心苦しい気がする。


「よし、カジュアルなの見に行こうぜ」

「おー!」


 二人はガールズファッションのチェックもそこそこに、どこのデパートにでもある、被服の廉価量販店へ。


「これこれ、こういうのでいいんだよ」


 郁己が言うと、勇太がぷっと吹き出した。


「なにそれ、あれ? 深夜にやってる奴」

「そうそう、ぼっちのグルメな」


 他愛もない会話をしつつ、さらっと周りを見る。

 勇太の目線を追うと、男の子向けの衣装をじっと見つめている。

 だが、今の勇太は体型的にもかなり女の子。身体だって小さいし、かっこいい衣装はなかなか似合いそうにない。

 だから、郁己は自分なりのコーディネイトで、ユニセックスタイプの衣装を勇太に合わせようとする。

 実はこの日のために小遣いを溜めてある。それほど高くないシャツかジーンズならプレゼントできそうだ。

 わざとおじさんっぽい服を羽織って見せて、勇太を笑わせたりしながら、それらしいのを見繕う。

 ちょっと可愛いジッパー付きベストがある。パーカータイプで柔らかい生地だから、リラックスした時でも着られそう。

 これだな、と郁己は目星をつけた。


「よし、勇太、こっちこっち」

「なんかまた、面白いのあった?」

「これって、勇太に似合いそうじゃん?」


 ベストを見せると、勇太はうーん、どうかな、という顔をした。


「なら、試着してみればいい。大丈夫、覗きはしないぞ」

「覗いたらころす」


 物騒なことを言っているが、勇太もふざけ半分。

 いそいそと試着室に行って、シャツの上から身につけてみた。

 なるほど、サイズもぴったりでこれは可愛い。色合いもグレーっぽいから、そんなに女の子女の子していない。

 いつかは今日みたいな女の子らしい服を、勇太も自然に選ぶんだろうか、と遠い目になる郁己。


「どうよ、似合ってる?」


 わざとらしく、勇太が胸を突き出すようなポーズを取ると、ただでさえ成長途中ながらなかなかのボリュームを誇るふくらみが強調されて、郁己は真顔になる。


「すごく……立派……です」

「なんだよそれー」


 また勇太が笑った。


「気に入ったんなら、俺からプレゼント」

「え、どして?」


 突然のプレゼント宣言に、勇太が首を傾げる。

 ただ、これは下心というか、郁己も前々から考えていたこと。春休みの勇太の努力を知ればこそ。


「入学祝い、何もあげてなかっただろ? 俺だって、勇太が死ぬほど頑張ったの知ってるしさ。 先生からのプレゼントだと思って受け取ってくれ!」


 レジで精算して袋詰めしてもらったベストを、勇太に手渡す。


「うわあ、なんか……すげえ嬉しい。ありがと、郁己」


 そういう、包みを胸にギュッと抱いて微笑むのは反則だと思う。

 勇太にはそんな意識がないんだろうな、と思いながら、郁己は今後、彼女のこの笑顔がどれだけの男に道を誤らせるのだろう、と考える。

 少なくとも、俺は道を誤り始めている気がする、と郁己はひとりごちた。


「それじゃあ郁己、俺からも」

「えっ」


 それは不意打ちだ。

 郁己は唐突に、勇太のポケットから飛び出した小さな包みに目を白黒する。


「郁己、よくパソコンやってるじゃん? 俺の勉強の予定表とかも作ってくれたし。だから、生徒からも先生にプレゼント!」


 中身は、リベンジャーズのキャプテンのUSBメモリ。確か映画館で売ってたやつだ。

 いつのまに……!

 肉々しくもバタ臭い笑顔が眩しいUSBメモリ。

 だが、不思議と嬉しい。


「お、おう、ありがとな」


 あ、これ、道を誤ってもいいや!

 と郁己は思った。

中間テスト編へ突入です。

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