12
はっきりと彼女の姿が見えたわけじゃなかった。
それでも、俺は確かに現実とは違う世界で彼女を見つけた。
これは、夢?
俺がみたいと思っていた夢の続き?
「うわっ!」
彼女の声。
その姿が俺の視界から消える。
ピエロが投げてきたボールからの爆風にに身体を跳ね飛ばされたようだった。
俺がいるから?
気が散ったのか・・・。
無表情のピエロの顔がなおも歪んで見えた。
瓦礫のように詰まれたギフトボックスを掻き分けて彼女のは立ち上がった。
何かを呟きながら。
彼女の傷付いていた体が白く光り、傷口を癒していく。
彼女の傷口を見た途端、縫い付けられていた体が動いた。
実体は、まだ透けているのに・・・。
このピエロ?こいつを倒せば君はそんな辛そうな顔をしないですむの?
黒髪の彼女の表情が見えるわけでもないのに俺はそう感じていた。
「待てっ!止めろっ!」
後ろに彼女の声を背負いながら俺は走り出し、目の前にいる大きな黒い影に体当たりをした。
いや、何時の間にか手に携えていた剣でピエロを一刺ししていた。
刺された所から肉体が避けた黒い影は二つに分かれた。
「離れろっ!」
彼女の声に振り向いた時、俺の体は後方に飛ばされた。
背中に大きな衝撃を受けた気がした。
彼女が何か呪文を唱えている。
二つに分かれた影は膨らみ、その膨らみが限界を超え、弾けた。
影から飛び出た血飛沫が彼女に降り注ぐ。
ああ、でも彼女の顔が見えない。
ただ感じるんだ、彼女が血の涙を流しているってことを。
「武瑠、ここに来てはいけない。ここは、武瑠の世界じゃないんだ。魂だけ飛ばしてくるなんて、無茶をしないでくれ。」
彼女が俺の名を言ってくれた。
それだけで心が嬉しいと思っている。
ねえ、君は誰?
どうして、俺の夢に出てくるの?
君の顔が見たい。
君の名前が知りたいんだ。
「ダメだ・・・。さあ、お帰り。」
黒い長い髪の彼女が俺に触れた。
瞬間、俺は目を覚ましていた。
今のは夢・・・?
背中に感じる痛み。
起き上がるのも難しい痛みだった。
けれど、俺は夢の中で彼女と話が出来たことの方が印象に残っているようだった。
なのに・・・やっぱり・・・思い出せない。
彼女の名前も姿も・・・。
覚えているのは、確かに会話したこと。
彼女の黒髪。
そして、異様な空間。
彼女はそんな世界でたった一人戦っていた。
つづく




