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2.ファーストインプレッション

 妹の紗希は僕とは正反対で明朗快活、スポーツ万能、容姿端麗だ。だから紗希の涙目の顔を見るのは久しぶりだ。

「あのね。あたしテニス部に入ったじゃん。白崎香織先輩の代はテニス部の伝説なんだよ。伝説の美女軍団ってね」

 また伝説か、と内心では今日の恐ろしい出来事を思い出していた。

「白崎香織先輩を筆頭とする美女軍団がいた時は、無名の学校なのに中総体で三度も優勝したんだよ。先輩のリーダーシップはすごくて、弱小チームからスパルタ最強チームになったんだよ」

「それで、僕と白崎香織が付き合わないといけない理由は?」

「だからまず仲良くなってテニスのコーチに来てもらう仲になるでしょ。そして付き合って荒い性格を直してもらうという魂胆だよ。スパルタは恐いもん」と紗希は真剣な眼差しで言った。

「なんでコーチに来てもらう必要があるの?紗希も今の部員と頑張ったら良いじゃないか」

「その部員が全然いないんだよ。白崎先輩達が引退してから部員の数はみるみる減って、今では・・・五人だけなんだ」

 紗希が通っている中学は僕も通っていた。その中学の部活動は入学すると強制参加であり、半年過ぎると自由参加という形になる。そのため、半年が過ぎると帰宅部の人数は意外に膨れ上がる。そして部員が五人未満になるか、優秀な成績を残せなければ廃部にされてしまう。

「廃部に追い込まれてるってことか。だけど付き合うまではいかなくて良いでしょ。仲良くなれば、それかせめて知り合い程度になれば・・・」

「・・・言っちゃったんだよ」と紗希は僕の言葉をさえぎって小声で言った。

「ん、なんて言っちゃったって?」

「・・・お兄ちゃんと白井香織さんを三年生になるまでに付き合わせるって言っちゃった。部員皆に・・・」

「なんだって!!」

 僕の顔は青ざめた。妹の顔は溜まっていたものを吐き出せたようで安堵の表情を浮かべている。こうやって大見得を切る所だけを除けば完璧な妹と言えるだろう。しかし紗希は言ってしまったことを今まで確実にやり遂げてきた。可能だから言うのか、言ったから無理やり可能にするのかは兄の僕にでさえ不明だ。

「さすがに今回の件だけは不可能じゃないかな」と僕の脇はぐっしょりと濡れていた。

「・・・いや、こうなってしまったからには絶対に実行する!もう決めた」

 妹の決意は固かった。その中に僕の意志というものは完全に存在していないのであろう。だが、先ほどの話を聞いては僕の情も揺らいでしまった。

「お兄ちゃん、明日から行動に移して!もしやる気が感じられなかったり、全然進展しなかったりしたら・・・お弁当のおかず抜き!」

「わ、分かったよ・・・」

 おかず一個抜きから更にひどくなっていた。両親が朝早く仕事に出かけるので紗希が毎日弁当を作っている。その主導権は絶対に揺るがない。なぜなら僕は朝にめっぽう弱いからだ。

 翌朝、おかず入りは最後になるかもしれない弁当を鞄に入れて学校へ登校した。すると、前方に白崎香織とその取り巻きが歩いていることに気付いた。実際に改めて見ると超絶の美少女だ。今まで女子と目も合わせていなかったし、一生関わりのないものだと思っていたから急に意識してしまった。こんな美人が同じクラスにいるとは、それだけで儲けもんだったのかもしれない。そんなことを考えているとおかしなことに気付いた。というよりも気付いてしまった。白崎香織のバッグにスカートが挟まり下着が見えてしまっていた。

「香織ちゃん、その匂いのシャンプーどこの?良い匂いだね」

「これはねぇ・・・」と女子達が気付く様子はない。このまま高校へ向かう電車に乗ったらきっと大惨事になるだろう。しかし無視すれば一つのチャンスを失い、おかずの生存確率が低くなるだろう。とは言うものの僕だって命が惜しい。ここで僕が言ってあげたとしたら・・・結果は目に見えている。とはいえググる時間はないし、ヤフ知恵に投稿して答えを待つ暇なんかもっとない。自分の貧相な脳みそという検索エンジンで探すしかない。すると答えらしい答えが返ってきた。“ぶつかる”という選択肢だ。ギャルゲーやラノベではヒロインの定番技法だ。さすがその手の物だけに特化した僕の検索エンジンだ。男がやるとなるとエッチなハプニングになるパターンもあるが、ここは現実だ。ラッキースケベなんてことはそうそうないから大丈夫だ。問題ない。僕は前方のグループに向かって走って行った。そして上手い具合に鞄にぶつかった。

「きゃあ!」

 しかし僕は何かにつまずいてこけた。僕の鞄は半開きだったらしく、教科書やらノートが散らばった。

「山田・・・信也?」

 ノートに書いてあった名前を白崎香織に読まれた。絶体絶命だ。僕は手早く鞄に持物を詰め込むと一目散に逃げながら

「ごめんなさい!」と言った。

「こら、山田信也!待ちなさい!!」と後方で怒鳴る声が聞こえた。とにかく名前は覚えてもらったようだ。ひどい形だが成功と言えるかもしれない。

 昼休みの時間になり弁当を開けると中身は悲惨な状態になっていた。やはり無視した方が良かったかもしれない。


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