表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1.懇願

 誤字脱字があれば気軽におっしゃって下さい。

 高校へ入学し早くも半年が経過していた。気弱で、根暗な僕、山田信也やまだしんやにもその手の仲の良い友達が一人できた。その手の話で盛り上がり充実した高校生活を送っていると言っても過言ではない。「その手」とは何かと言うと、仮想の美少女達との恋愛シュミレーションゲーム、仮想の美少女達と付き合っているかの様な体験のできるライトノベルのことである。

「あの回はめっちゃ神回だよなぁ。信也もそう思うだろ!?」と僕に勢い良く西野一貴にしのかずきは教室の端で語っていた。

「分かる、分かる。・・・けどさぁ、一貴ってイケメンなのにどうしてこっちの世界に入って来てしまったの?」と僕は一つの疑問を半分ニヤけながらぶつけた。

「あのなぁ。そういう角のとがった質問はやめてくれないか?」と一貴は、僕とは打って変わって容姿が整った顔で言った。怪訝そうな顔をしているにも関わらずミディアムカットの髪をポリポリと机の上に座って掻いている姿は、彼女が二、三人いてもおかしくない。

「悪かったよ。それでなんで?」と僕は椅子の上の体を一貴に向けて再び聞き返した。意外と興味がある話だからだ。

「お前なぁ。現実を見てみろ。もし現実の女子と付き合うこととなったら・・・もーう面倒くさいことばかりだ!しかし、ギャルゲーとラノベの美少女はどうだ?あんなに可愛くて、性格も良いのに全然面倒くさくない!デートするだけで喜んでくれるし、やって欲しいことを直接言ってくれるし、更には何もしなくても寄って来てくれるじゃないか!」

 一貴はいつもの五割増しのテンションで僕に説法した。

「ま、まあ。確かにね。じゃあ現実の女子には興味なしってわけなんだね」と僕は苦笑いで言った。

「そういうことだな!リアル女子には全然興味が無い!」

 一貴の顔はにっこり笑っていて完全に吹っ切れているようだ。そう、こっちの世界に入るということは吹っ切れているということ他ならない。こんな優秀なイケメンを失うなんてリアル女子達も可哀そうだ。すると、教室の前の戸を荒々しく開ける音がした。学年一の美少女、いや、学校一の超絶美少女である白崎香織しらさきかおりが不機嫌そうな顔をして姿を現した。

「もう、最悪!!」

 そう言うと栗色である髪を乱して、自分の机に突っ伏した。連れである女子達は機嫌取りで忙しい。

「香織ちゃん。あたしのジュース半分あげるからさ!ね、元気出して」

「そうそう。あたしもあげるからさ。自販機にお釣り忘れて盗られるなんて、よくあることだよ」と女子達はいかにも作った笑いを振りまいている。

「880円!!そんなのそうそうない!」

 白崎香織はそう言うとまた机に顔を伏せた。その荒い性格がゆえかは知らないが恋人は今いない。だが、彼女の下駄箱には恋文がひと月に少なくとも2通以上は入っているという噂がある。また、ホワイトデーにはチョコをあげてもいないのにお返しのプレゼントで机の中が埋まっているという伝説もある。挙げればきりがないほど言い伝えがある。あの荒い性格を知っててまで、付き合おうという精神状態は僕には不明だ。

「見たかよ信也。俺の言った通りだろ。リアルの女なんてああいうやつばっかりさ」

「ちょっと、声が大きいって」と僕が小声で言うと、不味いことに彼女の耳はその声を拾ってしまった。一貴の地声の大きさには定評がある。

「今・・・なんて言った?」

 白崎香織は立ち上がると机にあった消しゴムをなぜか握っている。

「おい!伏せろ!」と一貴が言うと、僕のおでこにはもう激痛が走っていた。

「いってぇ!」

 僕はおでこを抱え、もだえ苦しんだ。その間に彼女は教室からどこかへ姿を消した。残りの昼休みの時間中、痛みが引くことはなかった。恐ろしい剛腕の持ち主である。

 学校の授業が終わり一貴と僕は一緒に下校することにした。僕の高校は部活動に入るかは自由であるから、悠々と自分の趣味に没頭する人も少なくない。そう、帰宅部とは僕達のことだ。

「信也、おでこ大丈夫か」

「うん。少し腫れてるけど・・・」

「そうか。それにしても女ってやつはなんでああいう奴ばっかりなんだろうな?」

「皆が皆、白崎さんみたいじゃないと思うよ」と僕は苦笑した。

「お前は心が広いなあ。そこだけが長所だな」と一貴は笑った。

 自宅に帰ると唯一の兄妹である妹(紗希)が蒼い顔をして居間で座っていた。

「どうしたの?そんな暗い顔して?」

 僕がそう言うと、紗希が僕に向かって静かに言った。

「話があるから・・・そこに座って」

 どうやらとんでもないことをこれから告げられるらしい。僕は腹を括った。

「あのね、お兄ちゃん。・・・」

 沈黙が数分程度続いた。

「お兄ちゃん。白崎香織さんと付き合って!」

「え・・・?」

「お願いだから、白崎香織さんと付き合って!・・・じゃないとお弁当のおかず毎回一個抜きにするからね!」

 完全に意味不明である。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ