血霞
花びらが一枚二枚三枚四枚五枚と舞い落ちる。花びらは樹が血を吹いているように紅く、血の水たまりを木陰に作っていた。
血はやがて固まるだろう。しかしこの血は固まらない。風がある限り撒き散らす。
ここはどこだ。
少女は思案した。血に塗れた景色は明らかに少女に残酷なイメージを植え付け。否、植え付けるでは生易しい、それでは主体が変わってしまう。故に、景色は少女に血のイメージを脅迫し、それ以上は何もしない。
赤い。少女は血がヒラリと舞う景色を見る。
紅い。少女は血がユラリと揺れる地面を踏む。
朱い。少女は血がダラリと垂れる両手を握る。
おかしくなる気はしなかった。強靭な精神故か、はたまた既におかしくなっているからなのか、少女には分からなかったが、そういう気だけは分かった。
血は少女の目に張り付いた。拭うと世界は朱に変わる。朱い世界。少女が成した世界。少女の世界は崩壊していた。しかし世界はまだある矛盾、少女は世界にいながら世界から離れて立っている。
少女に分かるのは景色の色が朱ということ。そして、ふつうではないということ。
少女は愉快を装い笑った。
自分は世界にいないのだから、何をしても世界に当てはまらない。そう思ったから。
血が舞う。これから行われる残忍な舞踊に酔うように、はたまた少女の嗜好に華を添えるように。
少女はドロリとした両手の朱を舐めとった。張り付いた笑みは哀しみの笑みか嗜虐の笑みか、少女ですら分からない。
少女の感情は閉ざされ、捻りくねった幻影が感情を作り出している。
笑う。赤を咲かせるため。
笑う。紅に埋もれるため。
笑う。朱を愉しめため。
笑う。色を失っても。