人形
人形のお話。
楽しんでいただければ幸いです。
見えますか、あそこにある人形を。
見えますか、あそこにある人型を。
見えますか、あそこにある■■を。
そこは真っ暗で何もない世界。暗く暗くどこまでも無明の闇が続く世界。
その果てには何があるのかわかりません、きっとここより深く思い漆黒の無があることでしょう。
人形は夜風を浴びて髪を靡かせます。そこには人形しかありません。
人形は喋る事が出来ません。人形は喋る事が赦されません。人形は動く事も赦されません。人形はただ動いています。
人形は御堂に入りました。闇が巣くうその場所に、人形が開け放った扉から氷のような風が入り込んできます。人形はその冷たさを気に止めましたが、人形は冷たかったので閉めました。
人形には感情はありません。人形はそれが悲しかった。誰とも感情を分かち合う事が出来ないのですから。寂しかったのです。
人形がこの場所に来てから数百年という歴史が流れました。人形はここに来てから人に合った事が有りません。もうどんな姿であったかも覚えていません。人形はそれが悲しい。
人形はご飯を作りました。お腹が減ったのでした。ご飯が出来上がりました。
人形はご飯を食卓に並べました。そしてしばらく闇を見続けました。
闇から帰ると、ご飯は食べられていました。しかたなく人形はそれを食堂に持っていき片付けます。それは嬉しい事だったから鼻歌も混じっています。よく見ると、残していた分の食事も全て平らげられています。仕方ないので食事を作った調理器具を全て洗う事にしました。だって人形は嬉しかったのですから。
片づけを終えると、人形を見つめます。
人形は人形を見つめます。
やがて人形は人形になりました。
感覚なんてありません。感情なんてありません。何もかもが空っぽで、まるで底なしの闇であるかのような人形がいました。人形は嬉しく思いました。人形にこれ以上嬉しい事はなかったのです。
人形は無感動に人形を見つめました。人形は嬉々とした目で見つめ返しました。
人形は足早に去っていきました。振り返る事なんてあるはずもありませんでした。
人形は悲しかった。しかしやはり嬉しかった。
だから目を閉じました。
次に目を開けると、人形は感情を喪失っていました。人形は嬉々とした目で人形をみつめていました。
<完>