第7話:『地底の聖域、神殺しの包丁とガストンの拳』
エルフの森を後にした『テツクズ・マークII』は、北嶺の峻険な山脈の麓にある、巨大な縦穴へと突入していた。
岩肌を削り、激しい火花を散らしながら垂直に近い斜面を駆け下りる装甲車。そのハンドルを握るガストンの太い腕には、浮き出た血管が脈打つほどの力が入っていた。
「……着いたぜ。俺の故郷、鉄と炎の都『ゴロンドール』だ!」
広大な地下空洞に広がっていたのは、かつて数千の槌音が響き渡り、溶岩の河が血管のように流れていた鍛冶の聖域だった。だが、今のそこにあるのは、死に絶えた灰色の静寂だ。
都の中央にある巨大なふいごは停止し、ドワーフたちは泥に汚染された、不気味に熱い「魔放熱」に晒され、熱病のように道端で倒れ伏していた。
「ガストンか……。よく戻ったな。だが、遅すぎたぞ」
現れたのは、ガストンの師匠であり、この国の最高鍛冶師である古老ボルグだった。
かつて巨大な鉄床を片手で扱ったという彼の右腕は、肩口までドス黒い泥に侵食され、まるで腐った岩のように硬直して動かない。
「地底最深部の『始源の炉』が泥に呑まれた。火が消え、この熱気が泥に変われば、俺たちドワーフは終わりだ……」
その時、炉の奥――地底の裂け目から、大地を震わせる咆哮が響いた。
這い出してきたのは、溶岩と泥が混じり合い、全長数十メートルに及ぶ節足を持った異形の巨獣――『熔泥の百足』。
その甲殻は、溶岩の熱を閉じ込めながら泥で固められ、どんな名剣も通さない絶望的な硬度と、触れるものすべてを腐食させる熱を帯びていた。
「……ガハハ! 師匠、見てな。俺が打った最高の『作品』が、その化け物を料理するぜ!」
ガストンが叫び、テツクズ・マークIIのコンソールを叩く。
「ハッチ開放! シュウ、あいつの殻をぶち破れるのは、お前しかいねえ!」
「……ああ。……リィネ、一番『不純物』が溜まっている場所を視ろ」
「視えましたわ。関節の裏、溶岩が泥に変わる瞬間の『温度の継ぎ目』ですわ!」
シュウがハッチから飛び出し、熱風の渦巻く中を弾丸のように突き進む。
百足が放つ灼熱の泥がシュウを襲うが、フィオナの重力がそれを空中で静止させ、ミーニャの影がシュウの足場となって空間を跳ねさせる。
だが、百足の放つ熱量は凄まじい。シュウが手にした包丁の刃が、敵に触れる前に赤く歪み始めた。
「……っ! さすがに、この熱は不味いな。刃が保たん」
「シュウ! その包丁の『真の姿』を呼び覚ませ! それはな、俺の先祖が『神の骨』を削って作った未完成の聖遺物なんだ! お前の『魔物喰い』の魔力を、その骨の髄まで流し込め!」
ガストンの魂の叫びが響く。
シュウは目を閉じ、包丁の柄を強く握りしめた。
自身の内側に渦巻く、これまで喰らってきた膨大な魔物の生命エネルギー。それを、包丁という「器」に叩き込む。
――その瞬間。
歪んでいた包丁の刀身から、一切の光を吸い込むような漆黒の輝きが溢れ出した。
赤熱していた刃は一瞬で絶対零度の冷気を帯び、神々しいまでの鋭利さと、あらゆる理を断ち切る「格」を宿した。
【境界解体:神殺しの黒一閃】。
シュウが閃光となった。
百足の堅牢な甲殻が、まるで熱したナイフを通すバターのように、音もなく両断される。
一撃。
泥の核を正確に断ち割られ、百足は溶岩の飛沫を上げながら、ただの「高級な食材」へと変わり果てた。
戦闘後、シュウは浄化された百足の「最高級の甲殻」を大鍋の蓋代わりに使い、地底の熱源を利用した蒸し料理を仕上げた。
「……師匠、これを食え。……泥の呪いを焼き切る、地底のフルコースだ」
差し出されたのは、地底湖で獲れた『幻の銀魚』と、百足の出汁で蒸し上げた逸品。
「……っ!? ……おお、腕に感覚が……。それどころか、槌を振るう力が……かつてないほどに溢れてくるわ!」
ボルグの右腕から泥が剥がれ落ち、筋骨隆々の太い腕が復活した。ドワーフたちに活気が戻り、止まっていたふいごが再び力強く動き出す。
だが、安堵の空気は長くは続かなかった。
都を揺らす巨大な震動。それは百足の断末魔ではなく、遥か上空――地上から伝わってくる絶望の予兆だった。
「……待て。様子がおかしい」
シュウが鋭く呟く。
その時、テツクズ・マークIIの通信魔導具が、血を吐くようなノイズと共に作動した。
『――緊急事態だ! 卒業式の後、学園の地下迷宮が突如として逆流を始めた! 街が、王都が……黒い泥に飲み込まれていく……助け、て……っ!』
投影されたホログラムには、つい数日前に別れたばかりの学園の校舎が、黒い泥の海に沈んでいく光景が映し出されていた。
フィオナの顔から血の気が引き、彼女の周囲で無意識に放たれた重力が、ドワーフの石床を粉々に砕く。
「……嘘よ。お父様も、学園のみんなも……。まだ旅立ったばかりなのに……!」
「フィオナ、落ち着け。……泥の動きが早すぎる。これは、アスモデウスがいなくなったことで、地上の『境界』が完全に壊れたんだ」
シュウはガストンの打ち直した『神殺しの黒包丁』を鞘に収め、仲間たちを見回した。
「……ガストン、全速力だ。……王都が完全に泥に溶ける前に、俺たちが『不味い根源』を全部切り取ってやる」
「ガハハ! 任せろ相棒! ……野郎ども、掴まってな! テツクズ・マークII、地底突破モード――フルスロットルだ!!」
ドリルを回転させ、地底の闇を切り裂きながら、装甲車は自分たちの始まりの場所へと猛然と引き返していった。
【今回のキャンプ飯バフ・ステータス更新】
メニュー:地底銀魚の溶岩蒸し ~ラーヴァ・エキスのソース~
獲得効果:【不撓不屈】(熱・冷気・状態異常への完全耐性)、【基礎攻撃力+120】
名前:シュウ
レベル:48→62
新武器:【神殺しの黒包丁・真打】(成長する聖遺物。あらゆる因果を断ち切る)
パーティ状況:
ガストン:【神の鍛冶師】覚醒。テツクズ号の機能を完全掌握。
リィネ:【因果の直感】により、世界の綻び(泥の発生源)を予知可能に。




