第6話:『エルフ大森林、パタパタ耳の秘密』
獣人国の荒野を抜け、テツクズ・マークIIは視界を埋め尽くすほどの巨木が連なる『エターナル・グリーン(不滅の緑)』へと突入した。
そこはエレインの故郷であり、大陸で最も精霊の力が濃い場所――のはずだった。
「……おかしいわ。精霊たちが、みんな怯えて隠れてる」
車窓から外を眺めるエレインの翠色の瞳が、不安げに揺れる。彼女の代名詞である長い耳は、力なくダラリと垂れ下がっていた。
「……匂うな。……森の奥、世界樹の根が泥に焼かれてる匂いだ」
シュウが鼻を鳴らす。そこへ、木々の間から無数の矢が放たれた。
「止まれ、人間! そして……恥さらしの『欠陥品』エレイン!」
現れたのは、白銀の甲冑に身を包んだエルフの守護隊。その中心に立つ高慢な男――次期長老候補のアルヴィスが、蔑むような視線をエレインに向けた。
「欠陥品……?」
シュウの声が低くなる。
「そうだ。エルフの耳は、精霊の神託を静かに受けるための器。だが、こいつの耳はどうだ? 感情のままに卑しく動き、雑音を撒き散らす。森の調和を乱す呪いそのものだ!」
エレインは唇を噛み、俯いた。彼女が学園へ出た本当の理由は、この「動く耳」を里の者たちに気味悪がられ、居場所を失ったからだった。
「……違うわ。私は、ただ……」
「黙れ! 汚らわしい人間を連れて、今すぐこの森を去れ!」
その時、森の地響きと共に、世界樹の根元から巨大な「泥の化身」――『腐汁の多頭大蛇』が姿を現した。
ヒドラが吐き出す猛毒の霧が、エルフの精霊魔法を無効化し、守護隊を次々となぎ倒していく。
「バカな……精霊の加護が通じないだと!?」
絶望するアルヴィスの前で、シュウは静かに包丁を抜いた。
「……リィネ、隙を視ろ。……エレイン、お前のその耳は、雑音を聴くためのものじゃないはずだ」
「……え?」
「よく聴け。……泥の奥で、泣いている精霊たちの声を」
シュウがヒドラの首を一気に三本、跳ね飛ばす。
リィネが指し示した「因果の隙間」を突いた一撃。だが、ヒドラの再生力は凄まじく、泥を吸い上げて即座に復元する。
「……エレイン、お前の耳は『共鳴』の器だ。……精霊たちと、俺の包丁の音を合わせろ!」
シュウの言葉に、エレインが目を見開いた。彼女は全神経を耳に集中させる。
すると、今まで雑音だと思っていた「風の音」「土の脈動」が、一つの巨大な旋律となって聴こえ始めた。
エレインの耳が、かつてない速度でパタパタと……いや、もはや残像が見えるほどの超高速で振動し始める。
「……聴こえる。……みんな、怒ってる。……汚い泥を、追い出したがってる!」
エレインの耳が振動するたびに、大気中の精霊たちが彼女の周囲に集い、巨大な光の渦となった。
それは静かな神託ではない。**精霊たちと「対話」し、その力を爆発的に増幅させる『精霊の指揮者』**としての覚醒だった。
「行くわよ、シュウ! ……極大精霊砲・バースト!!」
エレインが放った超高密度の光線が、ヒドラの再生を上回る速度でその身を焼き尽くす。
そこへシュウが飛び込み、ヒドラの核――泥に汚染された『世界樹の種子』を鮮やかに解体・浄化し、掴み取った。
戦闘後、テツクズ・マークIIのキッチンからは、香ばしい「ヒドラの肝のソテー」の香りが漂っていた。
「……さあ、喰え。……エルフの森を救った、最高のスタミナ料理だ」
シュウが差し出した皿を、エレインは涙を浮かべながら口にする。
【今回のキャンプ飯バフ・ステータス更新】
メニュー:浄化ヒドラの肝のソテー ~世界樹の若葉を添えて~
獲得効果:【精霊の共鳴】(全属性魔法の威力が2倍)、【全状態異常無効】
名前:シュウ
レベル:35→48
新称号:【精霊の友】
パーティ状況:
エレイン:【真・精霊耳】覚醒。耳の振動で精霊を指揮可能に。
新合体技:【シュウ&エレイン:精霊解体・光彩斬】
「……ふん! どう、私の耳、すごいでしょ!」
耳を誇らしげにパタパタさせながら、エレインがアルヴィスたちを見下ろす。長老たちは、その圧倒的な力と美味しそうな匂いに、ぐうの音も出なかった。
「……よし。……次はドワーフの国、ゴロンドールだ。……ガストン、お前の包丁の『続き』を打ちに行こうぜ」
テツクズ・マークIIは、さらに深く、ドワーフたちが待つ地底の王国へと舵を切る。




