第3話:『銀色の再会と、獣人国の異変』
北の街道を突き進む『テツクズ・マークII』の車窓から見える景色が、荒涼とした岩場から、巨大な樹木が立ち並ぶ原生林へと変わり始めていた。
獣人国『アイアン・ファング』。
力こそが正義とされるその国の国境が、目前に迫っていた。
「……空気が、重い。……懐かしいけど、嫌な匂い」
助手席のミーニャが、窓の外をじっと見つめながら呟いた。彼女の銀色の猫尻尾が、心なしか落ち着きなく揺れている。
「ミーニャ……。大丈夫ですわ。今の貴女には、私たちがついています」
後部座席からリィネが優しく手を重ねる。リィネの千里眼には、国境の検問所に集まる兵士たちの殺気だった様子が、すでに映し出されていた。
検問所に到着すると、重武装した狼の獣人兵たちが、槍を突きつけてテツクズ・マークIIを包囲した。
「止まれ! この先は、現在『戒厳令』下にある! 許可なき人間と……――なっ!?」
兵士の一人が、窓から顔を出したミーニャを見て絶句した。
「……その銀の毛並み。……数年前、里を呪ったとして追放された『忌み子』か!」
「……っ!」
ミーニャの肩が小さく震える。だが、その震えを止めるように、運転席から降りたシュウが、兵士の槍の穂先を素手で掴んだ。
「……道を開けろ。……俺たちは、旅の調理師だ。……この泥の匂いを、掃除しに来た」
「な、何を……ぐわっ!?」
シュウが軽く手を振るうだけで、屈強な狼兵たちが木の葉のように吹き飛ぶ。レベルはリセットされても、限界突破した基礎ステータスは、もはや常人の理解を越えていた。
「騒がしいわね。王家の紋章を見せれば、少しは大人しくなるかしら?」
フィオナが黄金の髪をなびかせながら車から降りると、兵士たちはその気高さと圧倒的な魔力に圧倒され、膝をついた。
「……待て。争いはそこまでだ」
低い、地響きのような声が響いた。
奥から現れたのは、全身に古傷を持つ巨大な虎の獣人――獣人国近衛隊長、タイガだった。
彼はミーニャを鋭い目で見据えた後、視線をシュウへと移した。
「……その包丁。……お前が、アスモデウスを解体したという例の『魔物喰い』か」
「……ああ。……腹を空かせた客なら、歓迎するが」
「ガハハ! タイガの旦那じゃねえか! 相変わらず強面だな!」
ガストンが車から顔を出すと、タイガの表情がわずかに和らいだ。
「ガストンか。……今のこの国に、もてなす余裕はない。……迷宮から溢れた『黒い泥』が、我らの誇りである『牙の聖域』を侵食している」
タイガによれば、獣人国の力の源である聖域の泉が泥に汚れ、戦士たちが次々と狂暴化し、理性を失っているという。
「……ミーニャ。お前を追放した里も、今は泥に飲まれ、滅びの淵にある。……それでも、行くというのか」
ミーニャは一瞬、伏せ目がちになった。
かつて自分を「銀色は不吉だ」と石を投げ、追い出した故郷。
だが、彼女はシュウの服の裾をぎゅっと握りしめ、顔を上げた。
「……シュウの料理、食べさせたい。……泥なんて、美味しくないから」
シュウはミーニャの頭を無造作に撫でた。
「……決まりだ。……タイガ。……その聖域とやらを案内しろ。……最高に不味い『泥』を、俺が最高の『晩餐』に変えてやる」
一行はタイガの案内で、獣人国の深部へとテツクズ・マークIIを走らせる。
道中、一行を襲ったのは、泥に侵食された『影蜘蛛』の群れだった。
「……ミーニャ、出番だ。……お前の影で、こいつらを捕らえろ」
「……ん。……やってみる」
ミーニャが影を伸ばすと、これまでとは比較にならないほどの巨大な漆黒の網が展開された。前回の『岩塩猪』のバフにより、彼女の影魔法は一段上のステージへと進化していたのだ。
動けなくなった蜘蛛たちを、シュウが閃光のごとき包丁捌きで次々と解体していく。
「……よし。……蜘蛛の糸はガストンの素材に。……足の身は、今夜の天ぷらだ」
【今回のキャンプ飯バフ・ステータス更新】
メニュー:影蜘蛛の脚のサクサク天ぷら(浄化済み)
獲得効果:【影の親和性】(影の中を移動可能に)、【敏捷性+50】
名前:シュウ
レベル:5→12
新称号:【異国を歩む美食家】
パーティ状況:
ミーニャ:新スキル【影の檻】習得
ガストン:新素材【影蜘蛛の鋼糸】獲得(テツクズ号の装甲強化に使用)
「……ん。……美味しい。……少しだけ、勇気が出た」
天ぷらを頬張りながら、ミーニャが小さく微笑む。
一行の目前には、ドス黒い霧に包まれた獣人国の聖地が広がっていた。
ミーニャの過去を「解体」するための戦いが、幕を開けようとしていた。




