最終回:『境界線のその先へ、愛と解体のフルコース』
王都の復興記念式典が終わり、街が紫色の黄昏に包まれる頃。
王宮の最上階、地上数百メートルに位置する「星見のバルコニー」で、シュウは一人の女性を待っていた。
「……お待たせいたしましたわ、シュウ。……ふふ、今日は『王女』としてではなく、ただの『貴方の隣にいたい女』として来ましたの」
扉を開けて現れたフィオナは、これまでの重厚なドレスを脱ぎ捨て、シュウとの旅で着ていたあの冒険者装束を、白く清らかなシルクで仕立て直した特注のドレスを纏っていた。
彼女が歩くたび、周囲の重力が優しくひずみ、まるで世界が彼女を祝福するように揺れる。虹色の魔力を宿した瞳には、もはや「独占欲」という名の毒はなく、深い信頼と慈愛が満ちていた。
「……フィオナ。……最後は、お前との約束だ。……世界で一番『重い』、特製のディナーだ」
「……ええ。……覚悟していますわ。……貴方の包丁で、私の心ごと、美味しく解体してくださるのでしょう?」
シュウが用意したのは、テツクズ号のキッチンで数日間かけて仕込んだ、旅の集大成となるフルコース。
獣人国の滋養、エルフの精霊の香り、ドワーフの火の力、そして神の心臓から得た「愛憎のシロップ」。
「……メインディッシュだ。……『境界を越えた恋人のステーキ・真実の愛のソース添え』」
差し出された一皿。それは、不味いものを斬り続けてきたシュウが、初めて「自分のために」作った、最高に甘くて熱い一品だった。
「……っ!! ……ああ、……なんて……なんて重厚な味……! ……口の中で、私の魂が貴方に吸い込まれていくようですわ……!」
一口食べたフィオナの頬を、大粒の涙が伝い落ちる。
かつて、愛を重荷だと感じていた彼女は、今、その重みこそが「生きている証」であることを、シュウの料理を通じて理解した。
「……シュウ。……私、決めたわ。……王位も、義務も、全部貴方と一緒に背負う。……貴方が包丁を振るうなら、私はその重力を支える。……地獄の果てまで、貴方の隣が、私の『境界線』よ」
フィオナがシュウの首に腕を回し、その顔を近づける。
二人の距離が、ついに「0」になる。
重力さえも消え去ったような、永遠に続くかのような長い口づけ。
その時、夜空にはミーニャの影が、エレインの精霊の光が、そしてリィネの因果の煌めきが、祝福の花火となって打ち上がった。
「……ガハハ! 野郎ども、門出だ! ……テツクズ・マークII、新婚旅行モード・フルスロットル!!」
眼下の広場で、ガストンが豪快にエンジンを吹かす。
シュウはフィオナを抱き寄せ、静かに微笑んだ。
「……よし。……下ごしらえは終わった。……さあ、次の『美味い世界』を探しに行こうぜ」
白銀の翼を広げたテツクズ号が、満天の星空へと向けて飛び立つ。
境界の調理師と、彼を愛した四人のヒロイン。
彼らの旅は、これからも「最高の味」を求めて続いていく。
――『魔物喰いの境界線Ⅱ』 完
【グランドフィナーレ・ステータス】
メニュー:永遠の誓い「愛のフルコース」
獲得効果:【真の幸福】(パーティ全員が永遠に結ばれる)
名前:シュウ & フィオナ & ミーニャ & リィネ & エレイン & ガストン
現在の場所:世界の向こう側、新しい旅の空
状態:完食(ごちそうさまでした!)




