第13話:『神の胃袋、過去と現在の因果解体』
『虚無の門』を潜り抜けた『テツクズ・マークII・アブソリュート』を待ち受けていたのは、星々が泥の海に浮き沈みし、時間が逆流するように渦巻く狂気の世界だった。
そこは世界の「外側」――神が飲み込んだ万物の記憶が、消化されるのを待つ『深淵の胃袋』。
「……気持ち悪い。……空も、地面もない。……全部、誰かの思い出が溶けてる」
ミーニャが鼻を突き、銀色の尻尾を固く丸める。
「シュウ様、視て……! 因果の糸が、ここではバラバラに解けていますわ。……これでは、未来を視るどころか、自分の存在を繋ぎ止めるだけで精一杯ですわ!」
リィネの瞳が、情報の過負荷で激しく明滅する。
その時、泥の海から無数の影が立ち上がった。
それは、かつて神に挑み、敗れ、喰らわれた「過去の英雄たち」の残影。中には、シュウの包丁を打ったガストンの先祖や、伝説の聖王、さらには若き日のボルグに似た姿まであった。
「――我ラハ、器ナリ。神ノ糧トナリ、永遠ヲ得ル者ナリ」
数千の英雄たちが、泥の武器を手に一斉に襲いかかる。
「……ガハハ! じいさんの偽物までいやがるか! 泣かせてくれるじゃねえか!」
ガストンが叫び、テツクズ号の主砲を放つ。
「フィオナ、この異次元そのものを重力で固定しろ! エレイン、因果の嵐を鎮めろ!」
シュウが、泥の海へと降り立った。
押し寄せる英雄たちの影。彼らは一撃一撃が「世界の歴史」そのものの重みを持ち、並の戦士ならその存在ごと消し飛ばされるだろう。
だが、シュウは『神殺しの黒包丁』を低く構え、静かに息を吐いた。
「……歴史だろうが、伝説だろうが……。……不味いものは、不味いんだよ」
シュウが地を蹴り、影の群れの中へと消える。
【万象晩餐:因果解体・一千本引き】。
シュウの振るった刃は、肉体ではなく、彼らをこの世に繋ぎ止めている「未練という名の泥」だけを正確に切り裂いた。
斬られた影たちは、苦悶の表情から一転し、浄化された光となって霧散していく。
「……お前たちの執着、全部俺が『出汁』にしてやる」
シュウは、戦いの中で霧散していく英雄たちの魂から、微かな「意志の輝き」だけを包丁で掬い取った。
それは数千年の歴史が凝縮された、究極の熟成香味料。
最後の一体を解体し終えた時、泥の海は凪ぎ、神の胃袋の奥底へと続く一本の道が開かれた。
戦いの後、テツクズ号のキッチン。
シュウは、英雄たちの魂から得た「歴史の雫」を、メタトロンの結晶で冷やし固めた。
「……名付けて『英霊の熟成ジュレ・千年の記憶』だ。……これを飲めば、お前たちの『存在』はこの世界のルールに縛られなくなる」
一口飲んだリィネの瞳が、黄金色から透き通るような白銀へと変わった。
「……視えますわ。……今まで視えなかった、神の『喉元』。……この世界の真の『レシピ』が、すべて視えますわ!」
【今回のキャンプ飯バフ・ステータス更新】
メニュー:英雄たちの「英霊熟成ジュレ」
獲得効果:【因果律の超越】(世界の法則を無視した行動が可能)、【全スキルランク:極】
名前:シュウ
レベル:測定不能(因果を統べる者)
新スキル:【概念調理・歴史改変】(斬った相手の過去さえも味として固定できる)
パーティ状況:
リィネ:【真・因果眼】覚醒。世界の「書き換え」を検知可能に。
フィオナ:【重力の王女】から【時空の女王】へ。重力で時間を遅延させる。
「……よし。……胃袋は抜けた。……次は、食道だ。……神が俺たちを飲み込む前に、逆流させてやる」
テツクズ号が加速する。
目の前には、脈動する巨大な暗黒の回廊――神の本体へと続く『終焉の食道』が広がっていた。
いよいよ、物語は神の本体との対峙を目前にする。




