第12話:『境界の断崖、すべてを喰らう虚無の門』
雷雲龍の心臓をエンジンに組み込んだ『テツクズ・マークII・アブソリュート』は、青い雷光を撒き散らしながら、大陸の最北端へと辿り着いた。
「……見て。……世界が、落ちてる」
ミーニャが息を呑む。
眼下に広がるのは、海さえも巨大な滝となって虚空へと流れ落ちる、世界の終焉。そこにはもはや「地平線」など存在せず、ただ無限の暗闇が広がっていた。
そして、その断崖に突き刺さるように屹立する、全高数千メートルの巨大な漆黒の門――『虚無の門』。
「……リィネ。視えるか」
「ええ、シュウ様。……あの門の向こう側、この世界のすべての『因果』が泥となって煮込まれていますわ。……あれは門ではなく、神の『大鍋』の蓋ですわ」
リィネの千里眼が、門の奥にある絶望的な真実を射抜く。
その時、漆黒の門がゆっくりと開き、そこから「神の給仕」と呼ぶに相応しい異形が這い出してきた。
純白の法衣を纏い、顔には目も鼻もない、無機質な三対の翼を持つ天使――『虚無の代行者・メタトロン』。
それは感情を持たず、ただ世界を「神の口」へと運ぶためだけに存在する、システムの掃除屋だった。
「――不浄なる者。神の晩餐を乱す塵芥は、無へと還るべし」
メタトロンが六翼を広げると、周囲の空間そのものが「泥」へと変換され、テツクズ号の装甲を溶かし始めた。
「……ガハハ! 俺の最高傑作を溶かそうたあ、いい度胸だ! シュウ、ハッチ全開だぜ!」
「フィオナ、重力で空間を固定しろ! エレイン、雷風で泥を吹き飛ばせ!」
シュウが、テツクズ号から虚空へと飛び出した。
メタトロンが放つ「無の光線」を、シュウは『神殺しの黒包丁』で真っ向から受け止める。
「……無だと? ……笑わせるな。……お前は、ただの『最高級の香辛料』だ」
シュウの魔力が、漆黒の包丁に収束する。
メタトロンの放つ「無」は、あらゆる物質を消し去る力。だが、シュウの【万象晩餐】は、その「概念」さえも食材として認識する。
【境界解体:概念剥離】。
シュウの一閃が、メタトロンの三対の翼を根元から切り落とした。
翼は泥に還る間もなく、シュウの包丁によって「透明な結晶」へと変質していく。
「……お前の『無』の味……隠し味に使ってやる」
シュウがメタトロンの胸元にある、光輝く『虚無の核』を掴み取り、一気に握りつぶした。
世界の端を支配していた沈黙が、一瞬で晴れ、断崖に清浄な風が吹き抜ける。
戦闘後、断崖の縁に停車したテツクズ号。
シュウは、メタトロンから得た『虚無の結晶』を粉末にし、雷雲龍の肉に振りかけた。
「……名付けて『境界の氷彩カルパッチョ』だ。……お前の『無』を、最高の『透明感』に変えてやったぞ」
一口食べたエレインの耳が、かつてないほどの激しさでパタパタと震える。
「……っ! ……味が、しないのに……旨味がすごすぎる! ……頭の中が、真っ白になるくらい美味しい!」
「……不思議。……食べてるのに、お腹がもっと空いてくる。……力が、際限なく溢れてくるわ」
フィオナも、その神秘的な味に、王女としての品位を忘れて貪り食った。
【今回のキャンプ飯バフ・ステータス更新】
メニュー:虚無の代行者の「氷彩カルパッチョ」
獲得効果:【概念浸食】(神のバリアを無視してダメージを与える)、【全魔力10倍】
名前:シュウ
レベル:測定不能(神域・上位)
新スキル:【概念解体】(形のない法則や魔法を直接切り刻める)
パーティ状況:
リィネ:【真・因果律】覚醒。神の「次の攻撃」を完全に予知。
ミーニャ:影の翼が「純白」へと反転し、光速移動が可能に。
「……よし。……門は開いた。……ガストン、突っ込むぞ。……神が口を開けて待ってるうちに、そいつの喉ちんこを切り裂きに行く」
テツクズ号が、漆黒の門の向こう側――世界を外側から包み込む「深淵の大鍋」へと突入した。
いよいよ物語は、最終決戦の三連戦、その第二幕へ。




