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【短編小説】おやすみMAD CITY TOKYO

掲載日:2025/12/21

 田舎はどうか知らないが、都会の道路と言うのは清掃車が走る。

 田舎と言うのは外山手とかって話じゃなくて、目抜き通り以外にロクな店のないような街のことだ。まぁ殆どの市区町村はそんな感じだろう。

 だから教えてやる。

 都会には清掃車ってのが走ってるんだ。



 それは灰燼収集車の事じゃない。黄色い大きな車体に回転するブラシをつけた黄色いトラックだ。

 見たことが無いだろ?

 そいつは白い光りで道路を照らしながら走る。清掃車の前には散水車が走っていて、そいつはあまり格好良くない。ガキのションベンみてぇな水をチョロチョロ撒きながら走ってるだけだ。

 その散水車が撒いた水で、清掃車が道路を掃除してくんだ。知らなかっただろ。


 都会は汚れている。

 自殺する若者が増えているし、自分でパンツも履けない老人が増えている。

 だから、清掃車くらいで都会の汚れが落ちるはずも無い。


 だがその黄色い車体はとにかく美しく見えた。

 子どもの頃の俺が、深夜帯に走るその清掃車をどうやって知ったのか覚えていない。

 とにかく親にせがんで夜中に起こしてもらってまで見に行ったのを覚えている。もしかしたら真夜中でも無かったかも知れない。

 とにかく、幼い俺にとって一度寝て起きる夜は真夜中っだんだ。


 寝巻きのまま大きな通りに立って、俺は清掃車が来るのを待っていた。

 しかし俺が見たのは、足を4の字固めにされた巨大なプロレスラーがロープに這い寄るようにして道路を進む姿だった。

 巨大なプロレスラーだった。

 あの頃は巨人の様に見えたが、いま見たらどうなのだろうか。やはり黄色いロングタイツを履いた巨大なプロレスラーなのだろうか。


 もしかしたら、俺が星だと信じていたのはトップロープから降る1億のプロレスラーたちなのかも知れない。

 シューティングスターダスト、プランチャ、スワンダイブ。そうでないならば体育館の天井にあるライトだ。

 だがもしそれらがプロレスラーなのだとしたらどこに降っていくのだろう。彼らが降り注いだ地表はどうなってしまうんだろうか。


 俺は道路を這い回る巨大なプロレスラーを見ていた。母親もそこにいたはずだ。

 俺は疑問に思わなかった。

 幼かったし、夜中だったからだ。

 それはプロレスラーでもあったし、清掃車でもあった。物の見方だ。角度を変えれば、世の中は違って見える。


 子どもの頃に読んだ「はたらくくるま」はプロレスラーの選手名鑑だったのかも知れない。

 ありうる話だ。

 幼い頃に親しかった友人の家には、成人女性のヌードが掲載された雑誌があった。ヰタセクスアリスはそれだった。

 その中で好みの女性をせーので指差す、いわゆるエア合コンはその頃からやっていた。流行の最先端。早すぎる存在。


 あんな家はいまなら児童虐待で裁判にでもかけてしまった方が良いに決まっている。

 俺の脳味噌が精液に浸かったみたいになっているのもきっとあの家で見た週刊誌のせいだ。


 夢見が悪いのもそのせいだ。

 この間は酷い夢を見た。

 高級風俗店に行ったら出迎えも無く、和風の部屋に入ったところにいた嬢は顔が綺麗な女性なのに肉体は完全にプロレスラーだったのだ。

 俺はその嬢の頭突きに似たキスを受けながらどうしたら帰れるか考えていた。


 その夢から目を覚ますと、家の目の前にある街道を清掃車が走っていく音が聞こえた。

 カーテンを開けると黄色いロングタイツを履いた巨大なプロレスラーが這って行っている様な気がして厭になり、俺は寝がえりを打って窓に背を向けた。

 田舎はどうか知らないが、これは都会の話だ。歩いて30秒でコンビニに行けるような街の話だ。

 道端の不法投棄すら回収できない田舎の話をしてる訳じゃない。



 だいまい田舎の道なんてのは、いまだに三段シートと竹槍マフラーを積んだ改造バイクを自慢げに乗り回したおじさん達が、毎週末になるとパトカーと追っかけっこをしているんだろ?

 クラスの半分はヤクザのガキで、残り半分は片親と移民だ。

 そんな田舎にはプロレスラーが来ないから清掃車だって知らないだろ。

 きっと星もプロレスラーたちのプランチャーじゃないし、体育館の天井についたライトだとかでもない。

 でもそれは全て俺が見た夢かも知れない。



 どちらが美しいのかは知らない。

 俺が起き上がる頃には、東京と言う街がプロレスラーたちのプランチャーに押しつぶされて終わっているさ。

 だから安心して眠ってくれたらいい。

 俺はもうそこにいないし、お前らが棲む田舎の町にもプロレスラーたちが巡業に来るよ。

 約束する。

 だから、おやすみ。

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