表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

Side:マイルズ

 執務室に一人残ると、マイルズ=チェインバーズは椅子を引き直し、机の上を見渡した。


 淡いシルバーグレーの髪を持つマイルズは、鋭い灰色の瞳を光らせて机上に目を走らせた。

 細身の体つきは一見すると線が細いが、その身のこなしには獣じみた無駄のなさがある。

 袖口から覗く手首は意外なほど太く、硬く節立った手は、軍人として鍛えられた日々を隠しようもなく刻んでいた。

 一見冷ややかだが、その眼差しには確かな判断力と責任感が宿っていた。


 マイルズは執務室を一瞥し、椅子を引き直す。

 ここを臨時の司令室に整える――それが自分に課された役目だ。


 部下を呼び入れると、彼は短く指示を飛ばす。

 「伝令が出入りしやすいように、経路を確保する。報告はここへ集約だ」


 命令を受けた兵たちは素早く動き、空気が慌ただしく変わっていく。


 彼はまず報告書を三つに分けた。

 左には領地全体の動向、右には兵舎からの記録、中央には王都から届いた密書。

 緊急時にすぐ参照できるよう、整然と並べ替えていく。


 次に地図を広げ、机上の書類の隣に置いた。

 街道、補給所、連絡所を赤で囲み、想定される移動経路を墨線で引く。

 その上に小さな駒を並べ、どの部隊がどこにいるか一目で分かるようにした。


 「倉庫の備蓄を確認しておけ。水と保存食、それと油樽だ」

 「武器庫の在庫も照合しろ。もし差分があれば部隊長に報告を上げておけ」


 矢継ぎ早に命令が飛び、控えていた書記や兵が次々と走り出す。

 報告を受けるたび、マイルズは羽根ペンで数字を記し、地図の駒を動かした。


 几帳面な字で埋められていく帳簿と、整理された机上。

 整然と響く指示の声に、部屋はただの執務室から、屋敷の心臓部へと変貌していった。


 「……これで最低限は揃ったな」


 窓外を見やれば、まだ日は沈んでいない。


 マイルズは椅子に腰を下ろし、深く息をついた。

 だが、その胸の奥には小さな空洞が残っていた。


 ――自分だけが留守を預かる。


 クラウディア様も、タリヤも、キミトフも、皆外へ向かう。

 屋敷を守る役割は誇るべきものだと理解している。

 それでも、仲間と肩を並べて進めない寂しさは消えなかった。


 「……まったく。これでは子どもと変わらん」


 自嘲気味に呟き、視線を机上へ戻す。

 すぐに冷徹な目が戻り、羽根ペンが走り出した。

サイドエピソードはこれで完結です。

登場人物を動物にたとえるなら、タリヤは犬、マイルズは狼、キミトフは熊。

そしてクラウディア様は――フェンリル

物語本編も、どうぞお楽しみに。


尚現時点で頂いたリアクション数で見ると人気はタリヤ>マイルズ>キミトフです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ