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執務室を後にしたクラウディアは、自室へと戻った。
まとめていた髪をほどき、無造作に衣服を脱ぎ捨て、そのまま浴室に入りシャワーを浴びた。
水が髪を濡らし、肩を伝って床へと落ちていく。
流れる水音の下でも、思考は止まらない。
わずかな身支度の間さえ、彼女の頭は次の手を描き続けていた。
太陽があと半刻ほどで地平に沈む頃。
館の大扉を押し開けたクラウディアは、前庭に立つ影を見て思わず瞬きをした。
「……早いな。私が一番だと思っていたのだが」
そこにはキミトフ、マイルズ、護衛の兵たちがすでに整列していた。
その列の端に、小柄な男が一人、緊張を隠しきれない様子で立っている。
だがその眼差しには、初々しいながらも前へ進もうとする意志が宿っていた。
周囲の兵たちもどこか柔らかな表情で彼を見守っており、その存在はまだ若葉のように頼りないが、確かな成長を期待されているのが伝わってくる。
クラウディアの視線を受け、少年は慌てて一歩前に出た。
「ロニー=デイと申します。一年前に部隊に加わりました。……よ、よろしくお願いします」
短い自己紹介に、キミトフが補足する。
「地獄の部隊長が太鼓判を押した程の新人です。腕は確かですよ」
クラウディアは小さく感嘆の息を洩らす。
「ほぅ……ならば心配はないな」
視線を全体に戻し、静かに告げる。
「では、出発する」
その時、マイルズが一歩進み出て深く頭を下げた
どこか影を落とした声音で言葉を絞り出す。
「どうか……お気をつけて」
クラウディアは振り返り、彼を真っ直ぐに見据える。
「不在の間は任せたぞ、マイルズ。万が一の事があっても、お前だからこそ私は安心して任せられる。……出来るな」
その言葉に、マイルズの背筋がわずかに震えた。
落ち込んでいた顔に力が戻り、勢いよく胸に拳を当てる。
「はっ! クラウディア様に万が一の事があれば――その時はキミトフを指名手配して、一生鉱山労働に叩き込んでやります!」
クラウディアは小さく笑みを浮かべ、横目でキミトフを見やった。
「だそうだぞ、キミトフ」
急に話を振られたキミトフは、呆れたように肩を竦める。
「――行くぞ」
号令とともに、一行は夕陽を背に街道へと踏み出した。
実は主要キャラにはクラウディア=フォン=シュトラール様以外にも苗字がある設定なのですが……勢いで書き進めているため、まだ細部まで決まっていません。
タリヤやマイルズ、キミトフもいずれきちんと苗字を提示できればと思っています。
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