第4話 断ち切る鎖
今日も、回される。
塚コインが台の奥底で冷たく光る。誰かの絶望、誰かの未練――
それを私は、ひとつ、またひとつ飲み込んでいく。
「おいおい、カルマシンカー。もう塚が山ほど溜まってるぞ。そろそろ進化の時じゃねぇのか?」
マネージャーがニヤつく。
彼の昇進も、私の進化に懸かっている。
「“塚”ってのは、敗者の魂の残骸だ。俺も昔は、あれに呑まれかけたもんさ」
冗談めかして言うその声の奥に、かすかな寂しさが混じっていた。
レバーが引かれるたび、私の中で何かが軋む。
だるさ、熱、昔から続く身体の違和感――
それすら今は、懐かしい現世の痛みに思える。
タブレットの画面には、みゆきが卒業式の袴姿でひとり立っていた。
私の母は、孫の卒業にも見向きもしなかった。
私もかつて、母に何も返せなかった。
それでも――
みゆきは、
「ありがとう」
と小さく呟いたように見えた。
「ごめんね、みーちゃん」
心の中で、何度もそう呼びかけた。
もう声にはならないのに、その名前だけが、胸の奥にずっと残っていた。
私は、ただのスロット台だ。
それでも、ここで“塚”を集めて進化することで、
せめて――
私が繋げてしまった地獄の連鎖を、ここで断ち切ってやりたいと思った。
マネージャーが、私の前に立つ。
その目は、どこか昔の自分を投影するように、まっすぐだった。
「なあ、カルマシンカー」
「俺の人生のすべて、今日からお前に賭けてやる」
「どうせ地獄の底なら、一発ぶち上げてみようぜ。バディだろ?」
にやりと笑って、もう一度言う。
「行くぞ、カルマシンカー。地獄のバディが伝説になってやる――!」
光と音が爆発し、私の中の“塚”が一つの核になって、新しい“何か”が芽生える。
進化の光が収まった後、私の中で“声”が、初めて形を持った。
マネージャーが、驚いた顔で台に話しかけてきた。
「おい……まさか、お前……喋れるのか?」
私は、ゆっくりと、初めて言葉を紡ぐ。
「……あなた、誰?」
それが、地獄のバディの第一声だった。
私は、進化する。
たとえ、ただの台でも。
母であることだけは、どこまでも手放さずに。