第3話 カルマシンカー
「……ミツコ777、じゃねぇな。あれはもう、“カルマシンカー”だ」
カジノの片隅で、マネージャーの声が響く。
「三つの地獄をくぐり抜けた“女”は違う。普通の堕ち人じゃない。あれは……業の底まで沈んだバケモンだ」
台の奥底で、何かがじわじわと光を放っていた。私が勝つたび、誰かの絶望が“塚”になって沈んでいく。気づけば、その数が他のどの台よりも多い。
ある日、マネージャーがタブレットを私の前に置く。画面には、春の風に揺れる大学の門。
スーツ姿の,みゆきが少し緊張した顔で歩いていた。
「あっという間に大学生かよ……時間の流れ、めちゃくちゃだな」
マネージャーは、しみじみとタブレットを見つめた。
「お前が勝てば、現世の“縁者”に好機が降ってくるらしいぞ。」
私は返事もできず、ただ画面を見つめていた。時間の流れが違うのか、娘はあっという間に成長していく。
カジノの中では、「カルマシンカー」の噂が一気に広がっていた。
「あの台、ヤバいらしい」
「勝ち続けると現世の家族まで幸せになるとか」
「三つの地獄の伝説台だぞ」
私は“負けの数”でも、“金額”でもない。裏切られて、搾取されて、何度も壊れかけて――
それでも生き抜いてきた、“愚かさ”の積み重ね。
何度も落ちて、何度も立ち上がる――そのしぶとさ、滑稽さこそが、私の唯一の強さ。
「カルマシンカー……地獄に沈んでも、這い上がった化け物か」
誰かがそうつぶやくのが、私には、不思議と誇らしくも、どこか哀しくもあった。
タブレットの画面には、みゆきが明るく笑う姿が映っている。
私はまだ、“台”のまま――
ただ、少しだけ、世界の色が違って見えた。