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第七話

入学から一週間が経った。

訓練、講義、礼法、そして点呼。規律に反すれば即座に叱責が飛ぶ。

軍式教育の時と大して変わらない生活だった。

だが、アントンを疲弊させていたのは、この生活ではなく、同級生たちの無言の距離感だった。


初日の講義のあとから、空気はより明確になった。

彼は常に中央列の最後列。そこにポツンとできた独立席であった。


食堂でも同じだった。

大きな長机には、五名ずつが向かい合って座る配置が基本だ。

だが、左奥の長机の一角が大公殿下専用として事実上いつも空いていた。


時折同郷の貴族候補生が隣に呼ばれるも、誰かと食べるのはその時だけだった。



ある日の訓練の後、洗濯場で軍靴を磨いていると、二人の候補生の会話が聞こえてきた。


「大公殿下の隣は、誰が座る?」


「いやだよ目を合わせるだけで緊張するし。何言っても記録されそうだしな」


「敬礼ひとつでも間違えたら、後で教官に呼ばれるかもな」


アントンは手の動きを止めた。

彼らが悪意から言っているわけではないことはわかっていた。


実際に記録されることはないのだろう。だが、記録されるかもしれないという感覚が、彼らを遠ざけていた。

近づけば不利益があるという空気が、学校内にすでに根を張っていたのだ。 


夜、消灯前のわずかな自由時間に、アントンは読書をしようと寮の共用室へ足を運んだ。

だが入った瞬間、室内にいた数人の候補生たちが立ち上がり、ぎこちなく敬礼をすると、次々に退出していった。


敬意も含まれているのであろう。しかしそれは彼らなりの無言の退避だった。


その場に残されたのは、開いたままのチェス盤と、誰もいない沈黙だった。


彼は机に本を置き、ゆっくりと深呼吸した。


皇族であることは多くのものを守れる壁になる。しかし同時に、それは人と人との間を断ち切る壁でもある。


扉の外で誰かが通りかかった足音が聞こえる。

しかし、その足音が扉の前で止まることはなかった。

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