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#1 差し出された名と札

華神創祈譚、第1話です。

今まで夢小説しか書かなかったしがない絵描きが、オリジナル小説を書きます!わお!

かなり飽きっぽい性格なので、完結できるかどうか自信ありませんが、頑張ります。

 早朝4時。定められた時刻通りに目覚まし時計は、その時を告げるために、やかましい音を奏でる。


「ふえ・・・」


 目が覚めた私はゆっくりと体を起こし、伸びをする。――起きなくては。私たち華月かげつ家の朝は早い。素早く着替て身支度を行う。


 ――突然だが、人の世、つまり世界がいずれ滅ぶという未来を私は知っている。それは私が幼い頃のことだ。花札を使った占いで私はみた。人の世が地獄のような業火に覆われていく光景を。人々が断末魔をあげながら、真紅の炎に喰われるように飲み込まれ、真っ黒に焦げていく姿を。自然も建物も大地も空も世界すらも燃やし尽くし、灰すら残らない光景を。焦げたモノの匂いが鼻をついた。熱風が頬を焼き、私は何もできずただ、その光景を見つめていた。


 花札を使った占いは、自分自身を占うことはできない。だから、まだ小さかった私は、ちょっとした好奇心で世界の行方を占ってしまったのだ。それ以降私には、常に心の底に罪の意識があって、こびりついてとれそうにない。そのような恐ろしい未来にならないよう、毎朝のルーティンとしてあることを欠かさず行っている。


 祈り。


 無力な私にできる贖罪と言ったらそのくらいだ。身支度後、屋敷内にある華神かしんを祀る祈りの間に向かう。華神とは端的に言えばこの世界に実在する神々の総称だ。屋敷にある五つの祈りの間――その最奥にある、最も神威が強い場所。そこには、五大神の一柱・鳳桐神(ほうとうしん)さまが祀られている。


 静寂と神聖に満ちたこの空間に入る度に私は非常に緊張してしまう。そもそも屋敷内とはいえ、基本的に立ち入りはしないよう決められている。この祈りは私が勝手に秘密裏に行っているだけだ。鳳桐神さまに実際に届くかはわからないが、何もしないよりかは精神的に安心する。


 祈りの間の最奥にある祭壇には、鳳凰と鳳桐神さまの像があり、周りには桐の花があしらわれている。私は祭壇の前に静かに正座し、手を組む。ゆっくりと目を閉じて祈った。


 ――鳳桐神さま

 ――どうか、滅びの未来にあるこの世界を救いください、と。


 祈りが終われば次は仕込みだ。私は音を立てないよう、静かに祈りの間の扉を閉める。華月家は代々巫女の家系だ。華神と人々を繋ぎ、華神に祈りを捧げるために存在するが、表向きは(一応)老舗の和菓子屋である。華神さまの信仰が薄れてきている昨今では、この和菓子屋の収入が我が家計の重要な生活費となる。急ぎ割烹着に着替え、今度は和菓子屋の厨房に向かう。


「おはよう!おばあちゃん」

「あぁ、おはよう、澪。そこにある小豆を煮ておくれ」


 厨房では、祖母である華月みことが既に仕込み作業を行っていた。祖母は80をとっくに越えているが、現役巫女だけでなく、和菓子職人としても働いている一家の大黒柱。非常に元気で、年齢を感じさせない尊敬できる人。両親を早くに亡くした私にとっては、大切な唯一の肉親であり、祖母であり、母だ。


 私は祖母の指示通りに、小豆を煮て粒あんをつくる。水を沸騰させ、大きな鍋に小豆を入れ煮る。粒あん作りは私の担当となっている。調理師免許は一応は取得したものの、和菓子職人としてはまだまだ道半ば。これからこの華月家を継ぐ者として、和菓子だけでなく、巫女としての修行も待っている。それは今年から本格的にすると祖母は話していた。煮終えたあんをバットに移して粗熱をとる。その後は、祖母の仕込みを横で手伝う。


 やがて時刻が7時近くになると、私は厨房を一旦抜け朝食の準備に入る。我が家の朝食は私、夕食は祖母が担当している。割烹着を脱ぎ、屋敷側のキッチンに向かい、冷蔵庫から材料を取り出す。今日は昨晩の残りと焼き魚にしよう。魚3切れに少しだけ塩をふり、グリルで焼き始める。その後も朝食をいつも通り3人前用意した。2人暮らしなのに何故3人前なのか。それは、朝食を食べるときにわかるだろう。


 7時過ぎる頃、祖母が仕込みを終えて居間にやってきた。そろそろ、「彼」も現れる頃合いだろう。


「みこと!澪!おはよう!」

「おはよう、飯はもうすぐできる。こっちへ来なさい」


 ひょこっと人懐っこい小さな男の子が姿を現した。彼は祖母の手招きに「わーい!」と元気に返事をして、屋敷の中に入り、いつもの席に座る。体を揺らしながら、まだかまだかと朝食を待っている。


 彼は何者かと言うと、いわゆる「座敷童子」だ。その家に住む者に幸運をもたらすと言われる「人ならざるもの」


 呼びやすさを考えて、祖母はこの座敷童子に朔太さくたと名付けた。本人もこの名前をかなり気に入っている様子だ。私たち華月家の者は、彼のようなあやかしや霊をこの目で見ることが可能だ。この能力によって、悪い妖怪や悪霊に狙われることが多々ある。彼は、そんな私たちを守るために屋敷に結界を張ってくれている。実は昔からこの屋敷に住み着いてるわけではない。わりと最近になってからで、母が数年前事故で亡くなり、しばらく経った後のような・・・気がする。

 私はできあがった3人前の朝食を卓袱台に配膳し、座った。


「いただきまーす!・・・へへ、おいしい」


 朔太は元気よく挨拶し、ご飯を頬張る。私もそれに続いて朝食を食べ始めた。見慣れてしまったので深く考えていなかったが、普通、あやかしのような霊的存在は自ら人の前に姿を現すようなことはしないように思う。ましてや今のように人間と食卓を並べることなんて。最初は非常に変わった座敷童子だとは思った。しかも、祖母の目撃によれば、近所の小さな子供たちに混ざって遊んでいたらしい。――きっと、そういう個体もあるのかな?と深くは考えていない。屋敷を守ってくれている礼だと祖母は、勿論私も彼を大切にしている。


 朝食後、朔太は忽然といなくなっていた。いつものことだし、どこかに遊びに行ったのだろう。私は食器を祖母と片付け、制服に着替える。・・・そろそろ店を開ける準備をしなくては。

 和菓子屋<花月堂>―そののれんと立看板を店前に設置する。その後は店内を清掃。その間に祖母は和菓子をショーケースに陳列する。


 よし、開店準備は完了、花月堂オープン!


「おはよーさん、澪ちゃん、今日も精が出るねぇ」

「あ、定九郎さん、おはようございます。今日も早いですね」


 オープンと同時に入店した長身の男性は、この店の常連客のひとり、斧定九郎さん。有名な投資家で、何か大事な会議等には、差し入れとしていつも店の和菓子を買ってくれている。それ以外のときにもありがたいことに頻繁に店に来ては和菓子を買ったり、こうして雑談したりすることもある大切なお客様だ。


「いつもの、頼むよ」と定九郎さんは和菓子を注文した。私はボックスに出来立ての様々な和菓子を詰めていく。定九郎さんの言う「いつもの」とは、言わば「お任せ和菓子詰め合わせセット」だ。和菓子を10個ほど詰めたら包装し、紙袋に入れ、定九郎さんに手渡しする。


「お待たせいたしました!定九郎さん、どうぞっ!」

「いつも悪いねぇ、澪ちゃん」


 定九郎さんからお代を受け取り、彼を店前まで見送る。


 ――そうだ、いけない。そろそろ学校へ向かわなくては。私は急いで屋敷の玄関に向かった。玄関に準備していた鞄を持って再び店に向かい、カウンター前にいる祖母に挨拶する。


「おばあちゃん、行ってくるね!」

「はい、気を付けるんだよ」


 早足で学校へ向かう。向かう先は、「神苑市立鴇ノ宮高等学校」。私はこの春から鴇高に通っている1年生だ。屋敷から徒歩で通学できる距離なので、受験勉強をとにかく頑張ったのが、今では遠い記憶のように感じる。




 チャイムが学校中に鳴り響く。今日の授業が終わった。私は屋敷へ帰るために教室を後にした。部活には所属はしていない、いわゆる帰宅部だ。部活動に所属しないのは、店番や家事をしなくてはいけないのが大きな理由となる。校門前には先輩たちが私たち新入生に部活の勧誘活動をしていた。もし、私が華月家に生まれなければ、こうして部活動に汗を流すことになっていただろう。恐らく。


 下校時も特にどこかに寄り道せず、まっすぐに屋敷へ向かう。徒歩で20分程の距離を街の風景を見ながら帰る。小学校も中学校も帰宅部だった。あまり変わり映えのない風景、変わり映えのない毎日。別に退屈しているわけではない。この日常が一番大切なんだよ、と祖母はよく話す。それは私もわかりきっている。けど、この何かが変わりそうな予感は何だろうか。


 ――?


 違和感がよぎった。私は辺りを見渡すが、特におかしいところはない。時々、この違和感というか嫌な気配を覚える時がある。私は早足で屋敷へ帰ることにした。


 だが、嫌な気配は私の周りを纏わりつくように漂う。弱い悪霊類なのだろう。普段は無視するように歩き続ければ気配は消えるはずだ。なのに今日は気配が少しづつ強くなってきている気がする。少し恐怖を感じた私は近道を通ることにした。その近道は、薄暗く人通りが滅多に無いところだ。ここを抜ければすぐに屋敷へ着く。しかし、その判断が甘かった。


 私の足先から伸びる影から黒いオーラが現れる。それは私を確認するや否や、恐ろしい声と共に襲いかかってきた。


「きゃっ・・・」


 私はすれすれでかわすことに成功したが、恐ろしい悪霊のそれは再び私に向かってくる。私はそれから逃げるために全速力で走った。ちらっと背後を確認すれば、悪霊は私を追い掛けている。ど、どうしよう?!こんなことははじめてだ。道端に佇む霊類は私に気が付くことはあっても襲ったり、追い掛けることはしなかったのに。


「あれ・・・ここ、は」


 悪霊から逃げることに精一杯だったので、私は屋敷とは真逆の道に向かって走っていたことにようやく気が付いた。しかもこの先は行き止まりだった・・・!


「あ、やだ、わた、し」


 じりじりと悪霊は私に近づく。あぁ、近道さえ通らなければ悪霊は姿を現さなかっただろうに。これは完全に判断ミスだ。一体、どうすれば・・・!?悪霊は勢いよく私に襲いかかろうとした、その刹那。


「澪ちゃん!」

「!」


 突然腕を引っ張られ、悪霊の攻撃を避けることができた。悪霊からかばうように私の前にいるのは定九郎さんだった。


「定九郎さん、どう、して」


 定九郎さんにはあの悪霊が見えるのだろうか?霊感はこれっきり無いんだよなんて、以前話していたと思うのに。定九郎さんは私へ顔を向けた。その表情はひどく優しかった。


「澪、眩しいから目を閉じていなさい」


 私は定九郎さんの言われた通りに目をつぶった。すると、暗闇の中、なにか大いなる力の気配が前方にした。好奇心に負けた私はゆっくりと目を開けた。


「!!」


 前方には信じられない光景が広がっていた。目の前には定九郎さんはおらず、髪の長い美しい成人男性が、眩い光を漂わせ立っていた。でも、雰囲気は定九郎さんに似ていた。


「定九郎さん・・・?」


 その美しい成人男性は、首だけ振り向かせて私の問いに黙って頷いた。そんな、彼が定九郎さんなんて、一体どういうことなのだろう。定九郎さん(?)らしき男性は悪霊に向かい右手をかざした。その瞬間、彼の長い髪が風もないのにゆっくりと舞い上がり、その一部が光り出した。その後、悪霊の頭上から光の雨が降り出した。その雨をもろに喰らった悪霊は、たちまち浄化されるように消えていった。


「澪、大丈夫かい?」


 はっと我に返り、彼に返事する。あまりに非日常的な光景に、私は何も考えられず呆然としていた。目の前の男性は、いつの間にか私のよく知る斧定九郎さんになっていた。


「君に話したいことがある。一旦屋敷に戻ろう」


 屋敷の裏庭、柳の木の前へ定九郎さんは私を連れてきた。定九郎さんは少し悩んだ表情で私の前に考えながら立つ。


「さて、どこから話そうか・・・まずはそうだな、自己紹介からだな」


 定九郎さんが目を閉じると同時に光に包まれた。やがて光が弾き飛ぶように散ると、先程の美しい成人男性に姿が変わっていた。神楽の鈴のような音が響く中、艶のある長い髪は、風もなくゆっくりと舞っている。足元からはたくさんの白い花びらが吹き上がり、上空へ消えていく。その美しい佇まいに周囲の空気が澄んだ気すら覚えた。


 彼は静かに微笑み、ゆっくりと口を開いた。


「我は【柳に小野道風】に対応する五大神の一神、涙柳神るいりゅうしん

「!! 定九郎さんが、華神さま?」


 目の前の涙柳神さまはそうだと頷き、彼の背後にある柳の木に白い花が一瞬で咲き誇る。

 ――この力は、本物だ。

 本当に、本物の華神さまなのだと、なんとか目の前の状況を飲み込もうとする私をよそに、涙柳神さまは目の前に近付いては腰を下ろし、ひざまずく。そして私を真剣な表情で見上げた。


「え、えっ、涙柳神さま?」

「――そして、我が真名は【雨柳うりゅう】――澪、君にしか頼めぬことがある」

「私に、だけ・・・?」


 涙柳神さまは、右手から【柳に小野道風】の札をふわりと出現させた。それらは、祈りに応じるように現れた、華神から差し出された【名】と【札】だった――


「左様。――どうか、私の親友を、救ってはくれぬか」


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