真実の愛、応援します! ~真実の愛の相手がいるのは、貴方だけではありません~
小鳥が小さな羽を動かし、楽しそうに西へ飛んでいく。
雲の影が通りすぎて、日差しが再び直接私に注いだ。斜めに差し込む光線は、ガゼボの影を花壇に作っている。
「……ユーディアルお嬢様、もうお帰りになられた方が良いのでは……」
「……そうね、帰りましょう」
斜め後ろに立って控える従者の男性に促され、読んでいた本に栞を差した。
また約束をすっぽかされた。
私はこの国の王太子と婚約している。
しかしトパーズ殿下は学園で出会った男爵令嬢シトリィに夢中で、月に一度のお茶会にすら顔を出さなくなった。元から私に不満があるようだったとはいえ、王族が簡単に約束を破るなんて。
お茶会なんて、私だって別にやりたい訳じゃない。交流も義務だからと、仕方なく付き合っているだけよ。
王子の従者が申し訳なさそうに何度も頭を下げている。殿下が遅刻する旨を伝え、今回は必ずお連れしますからと、私を引き留めていたのだ。従者も手に負えないようね、かわいそうに。
「……今日は卒業パーティーの打ち合わせをしたいから、絶対に来てくださるように念を押したのに」
ため息が出るわ。きっと、男爵令嬢をエスコートするのね。ドレスも装飾品も、何も贈られてすらこないわ。
「もうパーティーは来週に迫っています」
「カルサイトがエスコートしてくれる?」
「それは……」
冗談めかした問いかけに、カルサイトが口ごもる。従者ではなく、せめて家族よね。
カルサイトが私の従者になったのには、特別ないきさつがある。
彼の母が路上でうずくまっていたところを、私の父である公爵が助けたのだ。彼の母はその時、既に彼を身ごもっていた。
侍女として仕えていた家の主と、不義をしてしまったのだ。奥様が大変激怒されて、身の危険を感じて逃げ出したのだとか。奥様もちょうど身重だったので、余計に憤慨されたのだろう。
ただ、まだお腹は出ていなかったので、妊娠はバレていなかったようだ。子を身ごもったと分かっていれば、ただでは済まされなかったはずだと、いつか体を震わせながら母に話していた。
私の母も、私を妊娠していた。母とカルサイトの母は、父のはからいで同じ医師にかかり、母子はそのまま我が家の従者となった。私の母とカルサイトの母はとても仲が良く、穏やかに暮らしている。
カルサイトは私より三ヶ月早く生まれ、子供の頃から一緒にいるの。学園も一緒に通っている。父がカルサイトも存分に学ぶように、取り計らってくださったのだ。さすがに貴族と従者なので、教室は違うわ。
私はカルサイトに視線を向けた。短い銀の髪は、日を帯びてほんのり黄色に輝いている。青い瞳からは、何を考えているのか読めない。
「……もしこのまま、婚約が破棄されてしまったら、どうしたらいいと思う?」
規則的な馬車の車輪の音の間に、聞くでもなく呟いた。答えは期待していなかったが、ややあって彼が口を開く。
「……ユーディアルお嬢様と結婚したくない男は、いませんよ」
「……あなたもそうなの?」
「ご想像にお任せします」
なんだかちょっと元気が出たわ。町は夕方になり、買い物客で活気づいている。その中にトパーズ殿下とシトリィの姿を見つけた気がしたが、人混みに紛れてすぐに掻き消された。
パーティー当日。
私は結局、卒業生である兄にエスコートしてもらっている。私も兄も赤い髪に濃い緑色の瞳なので、ドレスは瞳に合わせたグリーンにした。肩口は薄い黄色で、下にいくほど緑が濃くなる。
銀の髪のカルサイトは爽やかなブルーの衣装で、とても似合っていた。先に入場していた生徒と楽団が奏でる軽快な音楽で、会場は賑わっている。
会場には卒業生の両親も招待されていて、中央に集まる学生の中から自分の子の姿を捜したり、これ幸いと商談を進めたりしていた。
最後に入場するのは、トバーズ殿下。隣にはシトリィ男爵令嬢が鮮やかな黄色のドレスを身にまとい、ネックレスや指輪など、これでもかと宝石を輝かせている。
殿下はそのまま私たちの方へ、カツカツと踵を鳴らしてやってきた。
「ユーディアル。お前との婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲がざわめく。私の隣でお兄様が体を強ばらせた。目元が険しくなる。
「……理由を伺っても?」
「白々しい! お前は私が懇意にしているからといって、身分を笠に着て男爵令嬢であるシトリィをいじめたな!」
「トパーズ様……私は大丈夫です」
わざとらしく震えるシトリィ。意地らしく見上げる大きな瞳に、トパーズ殿下はすっかり騙されているのね。
「いじめなどはしておりません」
「全て露見しているんだ! お前は仲間と共謀して、シトリィを仲間はずれにしただろう!」
「さあ? そもそも彼女は私の友人でもありませんわ。仲間はずれどころか話す機会がありませんから、状況も存じ上げません」
王妃の座を狙うあの女の味方も私の敵、と言ったことはあるわね。そりゃ政敵だもの。それで人が離れるのは仕方ないわ、男爵家と公爵家のどちらに与するかなんて、火を見るより明らか。
殿下はイライラしていらっしゃるご様子。
「白を切るつもりか……! では、これはどうだ。教科書や筆記用具を捨てたりしたな!??」
「私とご令嬢では教室が違いますわ。わざわざしません」
誰かがしたかも知れないわね。私じゃないけど。
王族とあろう御方が感情をむき出しにして、なんとも低劣な姿かしら。
「侮蔑的なあだ名で呼んだらしいな!」
「あら、それは殿下が私との約束をすっぽかして、彼女とデートをするからですわ。さすがにそこまで馬鹿にされて黙っていられませんでしたの。私から見れば、どろぼうネコちゃんですわよ。淫売の方が良かったかしら?」
隣で静観している兄が、怒りのあまり拳を強く握っている。さすがに殿下を殴ったらこちらが悪くなるので、殴るならシトリィにしておいて欲しいわ。
「殿下! そちらこそ、俺の妹にずいぶんな言いがかりですね!??」
「私のシトリィを浮気相手扱いするからだ! いいか、私とシトリィは真実の愛で結ばれている。真実の愛こそ尊く、美しいものなのだ! 彼女こそ、私の妻にふさわしい!」
「な……」
堂々と言い切るトパーズ殿下。
お兄様が叫ぶ前に、パンっと手を叩いて言葉を止めた。
「まああ、真実の愛! それでしたら、最初に仰ってくだされば良かったのに。真実の愛の恋人を引き裂くなんてできませんわ、私も応援します!」
「……ユーディアル?」
お兄様は呆気にとられている。トパーズ殿下も毒気を抜かれたのか、口をポカンと開けた状態で止まっている。
婚約破棄してくれるんなら、ありがたいほどよ。言いがかりは迷惑ですけど。
「そうか、ものわかりがいいな!」
「ええ、真実の愛は素晴らしいですもの。私も貫く勇気が持てました。殿下、お幸せになってください。そして紹介します! 私の真実の愛の相手、カルサイトです!」
「……え?」
カルサイトは遠巻きに眺める人の、一番前にいた。突然話を振られて、困惑している。周囲の視線が彼に集まっていた。
「……そんな気はしていたが……。まあ仕方ないな、こんな場所で婚約を破棄されたんじゃ。次の相手がいるだけいいか」
お兄様は額に手を当てて、悩ましげに目を伏せた。認めてくださるのね。
「……そいつは常に側にいる、お前の使用人だろう? ユーディアル……、お前、浮気をしていたな!!!」
殿下は自分のことを棚に上げて、私を指して声を荒らげる。よく言えたものよ。隣のシトリィはまあ、と一言だけ。
「そちらと一緒にしないでください。私は適切な距離を保っておりました。ですが、婚約は破棄されましたから。晴れて真実の愛を貫けますわ!」
「お嬢様……!!!」
カルサイトは頬を赤くして、立ち尽くしたまま顔を逸らした。
「……はっ。だが使用人と恋人になって、いずれ庶民になるつもりか? その者は片親で、母子揃って使用人だったろう?」
トパーズ殿下は蔑むような眼差しで、なんとも嫌な言い方をする。私が幸せになるのは許せないのかしら、狭量な男ね。
「私よりも御身の心配をされてはいかが? 男爵令嬢が正妃になった記録はございませんわ」
「身分など、真実の愛が……」
「なにをしておる!!!」
凜と通る堂々とした声が、殿下の言葉を遮る。
国王夫妻がお見えになった。生徒は陛下から私たちまでの直線距離から身を引き、道を空けた。
今日は卒業生の両親のみならず、国王夫妻や学園長も参加されるのだ。
本当によくこの場を婚約破棄に選んだわ。蛮勇としか言いようがない。
「陛下、実は……」
陛下の視線を受けた学園関係者が、サッと近づいて状況を説明した。みるみる険しく眉をつり上がらせ、陛下は殿下を睨みつけた。
「……勝手に婚約破棄をした上、真実の愛……だと?」
「父上! 先走ったのは認めます……。しかし愛しのシトリィがユーディアルに傷つけられるのを、我慢できなかったのです。しかもユーディアルは、こともあろうに従者と関係していたのです!」
「関係なんてしていませんわ。やっと婚約がなくなったので、これから口説くんです!」
都合の表現をするわね、全く。殿下は大げさな手振りで陛下に訴えている。
「……アイツよりカルサイトがいいのは事実だよな」
お兄様がポソリとこぼした。お兄様もトパーズ殿下を嫌いなのだ。私が粗雑に扱われていると、いつも怒ってくれていた。
「従者とは……」
陛下の目がカルサイトに向けられる。その時、保護者のいる方から女性の声がした。
「陛下! 恐れながら、私の……私の話を聞いてください!」
私の両親であるウィルバーフォース公爵夫妻に侍女として同行している、カルサイトの母、タンビュライト・フリントだ。
人前に姿を現さないようにしていた彼女だが、今日は息子の晴れ姿を見るため、母ではなく従者としてひっそり参加していた。
「侍女風情が父上の言葉を遮り、直接声をかけるとは、無礼な!!!」
トパーズ殿下が怒鳴る。これは珍しく正常な反応だ。普通は許されない無礼なのよ。
タンビュライトは顔を隠していたヴェールを外し、まっすぐに陛下へと視線を向ける。二人の視線がぶつかると、陛下は驚いたように目を大きく見開いた。
「……君は……まさか、タンビュライト……?」
「はい、陛下。タンビュライトにございます。そちらのユーディアル公爵令嬢の従者であるカルサイトは、私と陛下の子なのです……!」
「余の……息子!??」
会場中が驚いて、大音量のどよめきが部屋の壁を叩く。王位継承者が一人増えるかも知れないのだ、しかも王太子であるトパーズと年齢は同じ。
「まさか……」
扇を持つ王妃の手が震えている。陛下と通じたことに腹を立て、追い出したはずの侍女が目の前にいるのだ。陛下もすぐに事情を悟ったようだ。
「私は公爵様ご夫妻に助けられ、このまま静かに侍女として暮らすつもりでした。ですが、トパーズ殿下の“真実の愛こそ尊く美しい”というお言葉に感銘を受け、全てを隠し平穏に生きようとした己を恥じたのです」
まさかの殿下の一言で名乗り出ちゃったんだ。
ちなみに彼女は暗殺を恐れ、陛下にも王妃にも、自分と息子であるカルサイトの存在を隠していた。今回は息子の卒業なので、いてもたってもいられなくなり、ヴェールで顔を隠して公の場に姿を現したのだ。
「おお……タンビュライト……」
こんなに人が大勢いるのに、二人の世界に浸っている。隣の王妃様が嫉妬のあまり扇を折った音すら、耳に入らない。
「私の真実の愛は今も昔も、常に陛下のものでございます」
「素晴らしいわ。よく言ったわ、タンビュライト」
隣で私の母が泣きながら、カルサイトの母の背中を撫でている。あの人、涙腺が脆いのよね。恋愛小説が好きだし、実写版くらいな気持ちだろうな。
「……そうだな。真実の愛は素晴らしい。トパーズよ、ユーディアル・ウィルバーフォース公爵令嬢との婚約破棄と、男爵令嬢であるシトリィとの婚約を認めよう。ユーディアル嬢、苦労をかけたな。君がいいのなら、我が息子であるカルサイトと新たに婚約を結んでくれ」
「ありがたき幸せにございます」
やったわ。陛下が認めてくれたから、両親でも覆せないわよ。カルサイトの身分も復活させて、王位簒奪計画を練らなきゃ。
目指せトパーズ殿下の廃太子!
カルサイトはまだ状況が呑み込めず、目をしばたかせていた。そして、それ以上に理解していない人がもう一人。
「え、どうなってんだ? お前も父上も母上も、カルサイトが陛下の御子だって知ってたのか? なんで俺だけ知らないの?」
お兄様も混乱しているわ。私に説明を求める。
「私は側に置くので、聞かされていましたわ。万が一の時は、誰よりカルサイトを生かさなければならない、と」
陛下の血筋ですからね、知らなかったでは済まされないわ。
お兄様はあまり関わらなかったから、教えられなかったのね。秘密は知る者が増えるほど、漏れやすくなるもの。
「あのー、そうなるとトパーズ様って、どうなるんですか? カルサイトさんの方が優秀ですよね」
トパーズ殿下の横にいる真実の愛シトリィが、殿下を見上げた。
分かっていたんだ、トパーズ殿下の成績がイマイチだって。ちなみにシトリィの方が少しマシなくらいだ。王族と下位貴族の教育格差を考慮すると、殿下ダメすぎ。
「うむ……、まずはカルサイトを王族と認定し、お披露目をしてからだな。ウィルバーフォース公爵家の支持がカルサイトに移るとなると、王太子の選定をやり直す可能性もある」
「そんな、父上! 従者をしていた男と、王として期待されている私とでは、立場が違います!」
王太子の交代の可能性を聞かされて、殿下が焦っているわ。考えてなかったのかしら? 婚約者の交代を、有力な家門のご令嬢にすればまだ良かったのに。
あ、真実の愛だったものね。
「その足元のひび割れは、お前自らが作ったもの。そのような迂闊な者に、国を軽々しく任せられるか? その男爵令嬢と結ばれて、男爵位を継がせてもらうのが良いだろう」
「陛下、ご無体な!」
王妃様が一番に批判する。そりゃそうだ、王妃様の立場も危うくなるわ。冷たい声色で、陛下の本気度が伺える。
「えー、無理っぽいんですねえ。男爵家にはいらないでーす」
返す言葉を失うトパーズ殿下と反対に、シトリィはマイペースだった。
「シトリィ……? いらない……って……」
殿下が戸惑っている。意味が飲み込みきれず、聞き返した。
「トパーズ様、これまでってことです」
「ほわ?」
思わず変な声が出たわ。あっさり捨ててるー!
「……これまでとは、なぜ……? 君は私を愛しているんじゃないのか?」
「私、トパーズ様が色々と贈ってくださるから好きだったんです。もう無理そうだし。私の真実の愛は、お金に捧げてます~」
「も、ものが目当てだったと……いうのか……?」
今まで見たことがないくらい、トパーズ殿下が悲壮な表情をしているわ。真実の愛って、両方向とは限らないのね……。
私はカルサイトに視線を移した。見返す瞳に、優しさを見つける。安心したわ。
「ええ~、全部説明しないと理解できないんですか? 仕方ないですね」
いったん言葉を句切って、咳払いするシトリィ。大勢いるのに会場の中はとても静かで、彼女がどんな話をするのか、みんなが待っていた。
「まず殿下が素っ頓狂な言いがかりをつけていたのを、正させていただきます。私が仲間外れにされた件です。これは公爵令嬢の婚約者と仲良くするんで、想定内です。殿下との噂のせいで遠巻きにされたのもあります、やり方の下手な男だと思いました」
「わ、私の……せい……」
シトリィは無邪気な表情で続ける。殿下は既に満身創痍だ。
「次に、私の勉強道具が壊されたり、紛失した件について。教室が違うユーディアル様が犯人ではないのは、明白です。目撃証言もありません。どういう罪のなすりつけ方をしてるんだろうなって疑問でした。きっと殿下との仲のせいですよね。なので殿下からのプレゼントの一部は、損害賠償として受け取っています」
「私が……損害を……」
そうよね、ウチの派閥の家の子が、殿下と仲良くしている姿に怒ってやったに違いないわ。殿下もせめて学園では、そ知らぬふりをしていれば良かったものを……。
まあ私が敵だと煽ったのもあるわ、そこは認める。
「それと最後のどろぼうねネコちゃんですね。別に可愛いじゃないですか。そもそも約束をすっぽかす方が悪いですよ。先に婚約者と約束していると教えてくだされば、私もデートなんてしませんでした。……ていうか、なんで先約があるのに誘ったんですか? 常識を疑います」
なんでさっきの断罪ごっこを、彼女が論破しているのかしら……。
殿下がすっかり燃え尽きて座り込んでいる。もう反論する余裕もないわ。
「あなた、私が待たされていたのを知らなかったのね。悪いことを言ったわ」
「いいえ、いい金づるを貸していただきました。トパーズ様からのプレゼントで母親が夜会に新しい衣装で参加できましたし、父も登城する服を誂えられました。その点は感謝していますが、金銭感覚ヤバいなって若干引いてもいました」
「金銭感覚……やばい……???」
やっと絞り出したような、喉に何か詰まっているような話し方のトパーズ殿下。
「それは男爵令嬢と王族ですもの、感覚は違って当然ですわよ」
私が発言した。そこにも気づいていない。きっと、与えれば喜ぶと単純に考えていたのね。
男爵家では手に入らないような宝石やドレスを幾つも贈られたんだろう。もらって喜んでいるだけだと思っていたのに、家族のために換金していたなんて。私はシトリィを見直したわ。
「殿下は全て侍従任せで、自分では会計もできないし、馬車の手配も服を着るのもできません。王族ならそうなのかも知れませんが、男爵家に入られても役に立ちません。むしろ介護かよって」
「介護……」
「か、介護! うはは、ぷは!!!」
お兄様のツボにハマって、笑っている。シトリィが話し始めてからずっと、笑うのをこらえていたのだ。むしろよく今まで耐えたわ。
トパーズ殿下は砂になりそうなほど存在感を失い、カルサイトは気の毒そうに目を細めている。
「なので私、殿下とは付き合いきれません。今までありがとうございました!」
爽やかに別れを告げる。ずっと見守っていた側近が、倒れそうな殿下に声をかけながら立たせていた。
さすがに王妃様も国王陛下も、かける言葉が見つからない。
「シトリィ男爵令嬢。お金に真実の愛を捧げているという君の価値観に共感したよ! 俺と結婚を前提に付き合って欲しい。俺は次期公爵で金も地位もあるし、知力もあるよ」
「お兄様!??」
お兄様がシトリィに突然の告白をした。これには両親もびっくりよ。
実はお兄様には幼い頃からの婚約者がいたのだけれど、“好きな人と一緒になります”という書き置きを残して、姿を消しているのだ。由緒正しい伯爵令嬢で品行方正だった淑女の失踪に、お兄様は半年くらい立ち直れなかった。
それ以来、恋なんて幻想だ、と呟いていたわね。
「……プレゼントの値段と、将来性を考慮させてもらいます」
二人が固く握手をしている。
最後に真実の愛が増えたわ。
「……みなの者。卒業おめでとう。騒動はあったが、これで解決したろう。さあ、パーティーを始めよう!」
国王陛下の一声で、楽団が演奏を始める。止まっていた人たちがまた動き出す。
私とカルサイトは両親と話をして、カルサイトの母タンビュライトは、国王陛下と旧交を温め合っている。お兄様は早速シトリィの両親に挨拶に行ったが、さすがにあちらが恐縮しているわ。
真実の愛って素敵ね、三組の幸せな恋人たちの誕生ね!
王妃様はトパーズ殿下を伴って、すぐに会場を後にした。叱られるんでしょうねえ。
その後、トパーズ殿下の廃太子と、臣籍降下が発表された。すでに抜け殻状態だった殿下は、反論も反抗もしなかったそうだ。王妃様は離宮に引きこもり、王宮では陛下とタンビュライト様の仲睦まじい姿が見られるようになった。ちなみに我が家の侍女を辞めて、正式に側室として召し上げられたわ。
タンビュライト様はフリント子爵家の方で、身分的に王妃にはなれない。側室でもいんだって。
フリント子爵家には、タンビュライト様が失踪されてしばらくしてから、こちらで保護していると連絡していた。すぐだと王妃に勘づかれる恐れがあったので、当時はかなり慎重にしていたらしい。
陛下は早くカルサイトに王位を譲って、タンビュライトと海辺で暮らしたい、と仰っているそうな。
私が王妃になる日は近いわね。
読んでくださり、ありがとうございます。
ちなみにタイトルの~真実の愛の相手がいるのは、貴方だけではありません~の部分は、お前の父親もだよ、という意味です(笑)