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ナタリアとフィリップの恋心(2)

三人の男女が、夜のバピアの街を歩いていた。

 そのうち二人はすこぶる不満そうな顔をしており、イライラを隠そうともせずにもう一人の人物であるダンテ・ジャアノーネにぶつけた。

 「あのね、ダンテ。私はあなたのために色んなつてを使って縁談を組んできたのよ?だというのに、まだあなたは私の提案を拒むというの?」

 「すみません、お母様。どちらかと言えば”ナタリアさん”の方が嫌がっておられまして…」

 「…本当にそれはナタリアさんなのか?妙な小細工しようとしたら許さんぞ」

 「”あれ”はそういった類のものではないので困っているのですよ。何卒彼女の怒りを鎮めるのにお力添えをお願いいたします、お父様」

 「ケッ、何をしようが我々の意見は変わらん」

 ダンテの父は路上に唾を吐き捨てた。

 「…母さんも言っていたが、お前の為を思ってのことなんだ。もうナタリアさんの事は忘れろ」

 「…助言いただき、ありがとうございます」

 よく言うよ、とダンテは心の中で毒づいた。俺のためだ?全部”あんたらのため”だろうが。バカバカしい。

 ダンテはこの二人にかなり辟易としているが、嫌な素振りを一切見せずにニコニコと二人を案内した。

 ダンテが案内した先には、ダンテの叔母であり、ダンテの父の実姉であるカルメンが立っていた。

 「お久しぶりです、姉さん。一年振りの再会がまさかこんな形になるとは」ダンテの父はカルメンと抱擁を交わした。

 「久しぶり、私もこんな再会になるとは思わなかったわ。…まあ、でも”あれ”を見ちゃったらね、信じるしかないわね」

 「…本当にそれはナタリアさんなんですか?」

 「ええ。私が一番信頼している霊媒師の方がそう断定したわ。ダンテくんの枕元に出てくるのはナタリアさんで間違いないそうよ」

 「…にわかには信じ難いですね。やはりどうしても目に見えないものですから」

 「大丈夫よ、そのためにこれから儀式を執り行うのだから。さ、どうぞ中へ」

 小屋の中に通された一同は、その異様な光景に息を呑んだ。床の真ん中に怪しげな円形の紋様が描かれており、それを囲うように火のついた蝋燭が均等に並べられていた。そして、全ての中心となる場所には、黒い布がかけられた箱が置かれ、禍々しいオーラを放っていた。

 「…なんだ、これは…」

 ダンテの父はその場が放つオーラに呑まれてそう言うのが精一杯だった。

 「皆さんに紹介するわ。霊媒師のニセモーノ・パチモッティさんよ」

 「どうも、ニセモーノ・パチモッティと申します。ナタリア氏の魂を鎮めるべく、何卒ご協力お願いいたします」

 「あ、ああ。よろしく」

 ダンテの父は引き攣った笑顔で霊媒師と握手をした。

 「…では、これより霊を召喚し、皆様にはその声に耳を傾けていただきます。皆様、陣の周りにお座りくださいませ」

 箱の正面に霊媒師が座り、その横にそれぞれ二人ずつが腰を下ろした。

 「ゾル・スイレ・シツラカイガフエフエ。ナタリア・ロゼッティの霊よ、どうかこの場においでくださり、その声をお聞かせください」

 霊媒師の声が小屋の中に響き渡り、気まずい沈黙が一同の元を訪れた。

 「…なんだ、くだらん。何が霊を召喚だ?笑わせてくれる」


 その時だった。

 「ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 叫び声とともに、布の中の”何か”が手足をバタつかせて突然暴れ始めた。

 「キャアアアアアアア!!!!」

 ダンテの母は恐怖のあまり気絶した。

 「…あ、…あ、うわあああああ!!!!!」

 ダンテの父は短剣を握りしめ、ガクガクと足を震わした。

 ダンテとダンテの叔母も引き攣った顔に冷や汗を浮かべた。

 「憎い…」

 「へ?」

 「憎い…、憎い憎い憎い憎い憎い憎い、憎いっっっっっっ!!!!!」

 ダンテの父は完全に腰を抜かした。

 「ナタリア・ロゼッティの霊よ!あなたはなぜそのように怒りを振りまいていらっしゃるのか!」

 箱の中の”何か”はしばらく動き回っていたが、突然パタリと動きを止め、やがて”顔”のような何かを突き出し、ダンテの父の方を睨みつけた。

 「…フランコ・ジャアノーネ。一度しか言いません。よく聞きなさい。…今すぐダンテの縁談を破断にするのです。わかりましたか?」

 「は、はい…」

 ナタリアのものと酷似した声が、ダンテの父に静かに語りかけた。

 「それができぬのであれば、貴様ら全員、最も苦しい死に方で死に至ることになる。…返事は?」

 一秒前とは打って変わり、ナタリアのような何かはドスの効いた声でダンテの父に問うた。

 「は、はい!!!!!」

 ダンテの父は涙ぐみながら、必死で心の中で神に祈りを捧げた。

 やがて小屋の中に静寂が訪れ、空間を支配していた緊迫感が過ぎ去った。

 「た、助かった…?」

 ダンテの父は胸を撫で下ろした。しかし、その状況で沈黙を破り、再び空気を張り詰めさせた者がいた。それは、他ならぬダンテ自身であった。

 「なあ、ナタリア、いるんだろ、そこに…?なあ、抱きしめさせてくれよ…」

 「お、おい、よせ!」

 ダンテの父は必死に止めようとしたが、遅かった。

 ダンテは箱にかけられた布をめくった。中は、箱型の木枠が存在しているのみの伽藍堂であった。

 「…そうか、ナタリアはもういないんだな…。…ああ、あああああ!!!!!」

 「お、おお…。神よ…」

 ダンテの父はただただそこに跪くことしかできず、ダンテは子どものように泣きじゃくった。ただ、ダンテの父と母だけが、ダンテの涙が偽りである事を知らなかった。

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