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ナタリアとフィリップの恋心(1)

 「えーこの人が婚約者!?…初めまして!ダリア・ワイエルビューと申します。13年ほどロゼッティ家でメイドをしておりました。何卒よろしくお願い致します!」

 「ダンテ・ジャアノーネです。こちらこそどうぞよろしく」

 ダリアは興奮気味にダンテと握手した。だが、ダリア以外の面々は驚くほど冷ややかだ。

 「おいナタリア、俺に何か言うべきことがあるんじゃないのか?」

 「…?何?」

 「…なんでお前死んだフリなんてしてんだよ。…俺がお前の葬式で泣いたのがバカみたいじゃねえか」

 「…それはごめんよ。色々あってね。…君も内密にしてくれると嬉しいんだけど」

 「…俺の仕事に支障をきたさなければ考えてやらなくもない」

 「まあ頼むよ、そこんところ」

 「理由を聞かないことにはな。まあお前のことだからどうせ碌でもない理由なんだろうけどな」

 「おい、なんだその言い草は。ナタリアに喧嘩売ってるのか?」

 フィリップが怒りを露わにし、ダンテに詰め寄った。

 「…君、もしかしてフィリップ・アハート?」

 「…だったら何だってんだ」

 「…いや、別に。ただしばらく見ないうちにいい男になったなって」

 「おいダンテ、そういう目的でフィリップに近づくのやめてもらっていいか??」

 ナタリアは怒りに身を任せてダンテの胸ぐらを掴んだ。

 「…!?何やってんだ!触るなよその男に!!!」

 「…あのー、皆様方なんで揉めてらっしゃるのかよくわからないんですけど、とりあえずダンテさんは仕事してもらえますか?」

 ダンテの部下と思しき女性が、人攫い二人をどうにかするように促した。

 「ああ、そうだった。んじゃマシーノ、そいつらを拘束して馬車の中に突っ込んどいて。あ、あと一応そいつ止血しといてね。死なれたら困るから」

 「人使い荒いですね……。あなたも何かしなさいよ…」

 マシーノと呼ばれた女性は悪態をつきながらも、テキパキと男二人の手足を縛り、襟首を掴んで馬車へと引き摺っていった。

 「…さて、あんたらはどうする?俺はこのままバピアまで戻る予定だが、あんたらも俺の馬車に乗って一緒に行かないか?」

 「あたしはいいけど…。フィリップとダリアは荷物を宿に取りに行かなきゃならないし、モニカさん(フィリップの愛馬の名)も多分サントタオエンでフィリップを待ってるだろうからさ、どっちみちあたしらはサントタオエンに戻らなきゃいけないと思う」

 「そうか。じゃあマシーノにフィリップ君とダリアさんをサントタオエンに連れてってもらって、ついでにその人攫いどもを刑務所にぶち込んでもらおう。…で、ナタリア。あんたには個人的に用事がある。あんたは俺と一緒にバピアまで来てもらうよ」

 「却下!」

 フィリップはピシャリとダンテの提案を拒否した。

 「お前がナタリアと行動を共にするのは絶対に認めない。ふざけるのも大概にしろ!」

 「おや、フィリップくん、ナタリアは君の所有物じゃないんだよ?ここはやっぱりナタリアの意志を尊重すべきなんじゃないのかな?」

 「…なあナタリア、念の為聞くが、お前はこの男に着いていきたいと思うか?」

 「うん、あたしはダンテと行こうと思ってるよ」

 「え?」

 フィリップは終末のラッパの音を聞いてしまったような顔をした。

 「まあ積もる話もそれなりにあるし、わざわざ葬儀に来てくれたみたいだからさ、ぞんざいに扱うのも悪いかなって思って」

 「…そうか、わかった………」

 フィリップは意気消沈し押し黙った。

 「よし、じゃあマシーノは二人を頼むよ。ナタリアは俺と行こう」

 ダンテは人攫い達の馬にナタリアとまたがり、ダンテの治める町であるバピアを目指し走り出した。

 「お!いい子だね〜。人攫いの馬にしとくにはもったいないね!んじゃあ、フィリップもダリアも元気でね!」

 「うん、またねー!」

 「………気をつけてな」

 

 二人を乗せた馬車が見えなくなるまで、ナタリアは手を振り続けた。

 「…あのさ、フィリップにちょっかいかけるのはやめてくれない?お前がもしフィリップにずっと目ェつけるつもりなら、…あたしも手段を選ばないよ?」

 「二人きりになって第一声がそれかよ。…何する気?」

 「ルイくんにチクる」

 「…それは、結構困るねえ」

 「…だったらあっちゃこっちゃで男遊びなんかするんじゃねえよ」

 「いやいや、これは逃れられぬカルマってやつだからさ、俺が悪いわけじゃないよ」

 「アホぬかせ。…やっぱお前ダメだわ、金輪際フィリップに近づくの禁止な」

 「んな殺生な…。…つーかさ!ナタリアさんさあ、何で死んだフリなんかしてんだよ!とりあえずそれを説明してくれよ」

 「…そうだね、確かに言わなきゃだな。話せば長くなるんだけど…」

 ナタリアは今までの出来事を洗いざらいダンテに話した。

 「…ふぅん、なるほど。そりゃ災難だったねえ。…だが、枢密院委員会の一員としては、見過ごすわけにはいかないねえ。…教会の存続に関わりかねないからねえ、それは」

 「じゃあ、バラすのか?」

 「…いや、俺は口外する気はない。ただ、その代わりといってはなんだが、少しばかり俺の”手助け”をしてもらえるかい?」

 「うわ…、絶対ロクな事じゃないな…」

 「いやいや、この枢密院委員会一等書記官のダンテが秘密を守るって言ってるんだよ?それぐらい飲み込んでくれないかい?」


 ナタリアは諦めたように押し黙ってため息をついた。

 「…まあ、とりあえず話だけ聞こうか」

 「協力感謝するよ。…実はあんたが死んだことになってから、俺の元に新しい縁談が持ちかけられててな」

 「ええ…。…言っちゃなんだけど、節操ないね、君のご家族」

 「まあ俺も心底気色が悪いとは思うが、貴族家っていうのはそういうもんだからな、仕方ないね。…とはいえ、俺もこのまま黙って受け入れる気はないけどね」

 「…それであたしに力を貸せって?」

 「そういう事。まだ具体的に何をするかは決めてないけどねえ」

 「…わかった。協力してやる」

 「ホントか?助かる」

 「いや、君のためじゃないから。ルイくんのためだから」

 「あんたはルイ”には”いつでも優しいよなー。俺にも優しくしてくれよー」

 「…君が男遊び止めたらもうちょい優しくしてやるよ。…あとマジでフィリップに手を出すのはよせ」

 「…何?あんたにとってフィリップくんは何なの?別に俺じゃなくてもさ、言い寄ってくる奴いっぱいいるだろ。どうすんだいその時?」

 「……いや、お前以外でちゃんとしてる人だったらフィリップが誰と交際しようが別にあたしは構いませんけど?まあフィリップとは昔から一緒にいるからさ、お前みたいないい加減な人間と交際するのは絶対に止めますけどね?」

 「……ふーん。…そう。…まあもうフィリップくんに本気でちょっかいを出すことはないから安心していいよ」

 「は?何?フィリップには魅力がないって言いたいの?」

 「何言っても噛み付くじゃんあんた…。…違うよ、ナタリア・ロゼッティっていうめちゃくちゃ面倒くさい番犬が彼についているからだよ。…本当に面倒くせえな」

 「あっそ。…つーか助けてくれたのはありがたいんだけどさ、何であんな時間にあんなとこにいたんだよ」

 ナタリアは、人攫い達と交戦した時のダンテに言及した。

 「あんたの葬儀で遅くなったけど、明日の朝までにやらなきゃいけないことがあったからバピア目指して帰ってたんだよ。そしたらあんたと戦ってて魔法使ってる人間がいたからしょっぴいただけだよ」


 悪魔と契約すること、また悪魔の術である魔法を使用すること、その全てがこの世界では処罰の対象だ。


 「…そうか、悪かったな」

 「気にすんな、あんたが悪いわけじゃないんだからさ」

 「…君は男遊びしなかったら普通にいいやつなのにねえ。何とかならないの?」

 「無理だねえ、俺が俺である限りはね。これでもセーブしてるんだぜ?本当はこの半島の成人男性を全て抱きたいと思ってるんだよ??」

 「…嘘でしょ?」

 「ウ・ソ♡」

 「…おもんない嘘つくんじゃない!!」

 ナタリアはダンテの背中をボコボコ叩いた。

 「痛い、痛いって。やめてくれよー」

 「…やめて欲しけりゃルイくんだけ大事にしてな」

 「…本当にお前はルイに優しいな」

 「まあ同じ退魔師だしね。ルイくんは優秀だから一緒に仕事してると楽だし」

 「そうか、よかった。これからもルイと仲良くしてやってくれ。…お、見えてきたぞ」

 ナタリアとダンテはシディック川に架けられた橋を渡りバピアの街へとたどり着いた。

 「…そういやあたし検問通れるか微妙なんだけど…」

 「大丈夫。見てな。…私だ」

 ダンテが身分証を見せると門番は恭しく一礼し、すぐさま門が開けられた。

 「…な?」

 「…『私だ』だって!面白!」

 「…うっさいな、ほっとけ!…ほれ、そこの小屋俺のもんだから使っていいよ。ちと仕事してくるから終わるまで待っといてくれ」

 「了解したー。カギある?」

 「ほれ、カギ。じゃあ待たせてすまんがよろしくな」

 「いいよー」

 ナタリアは小屋のカギを開け中へと足を踏み入れた。小屋の地味な外見とは打って変わって、中はダンテがこだわり抜いて集めた調度品であふれており、しかししっかりと整理整頓されていた。

 「へえ、やるじゃん。…ここがあいつとルイくんの秘密の花園ってことか」

 ナタリアは偉そうにそう呟き、靴を脱いでベッドに上がった。

 「…眠い」

 あまり眠れていなかったこともあり、ナタリアはベッドですぐに眠ってしまった。

 それから4時間ほどが経過した頃、ナタリアは誰かの話し声で目を覚ました。見ると、そこにはフィリップとダリア、ダンテの部下のマシーノ、そしてナタリアにとって懐かしい人物がテーブルを囲っていた。

 「皆無事来れたんだね。ていうかルイくんもいるじゃん!久しぶり!」

 「おう、久しぶり。お前殺されかけたんだって?大変だったな」

 「そうなんだよー。っていうかその様子だと全部聞いた感じ?」

 「ああ、二人に全部聞いた。…すまんな、お前が寝てる間にそういう話してて」

 「なんで?別に全然いいよ!」

 「…お前はそういう奴だったな。…何にせよ無事でよかった」

 「まあ、完全に無傷というわけにはいかなかったけどね。色々と変わっちゃったし」

 「なあ、話が盛り上がってるところ悪いんだけど、俺からもお前に伝えたいことがあるんだが、いいか?」

 突然、フィリップが立ち上がった。

 「え、いいけど、どしたの?」

 「…俺はな、ちょっと個人的に落ち込んで色々とモヤモヤしてたんだけど、もう覚悟決める事にしたわ。お前が誰を好きでも関係ない。…俺は、お前が好きだ」


 「?おう!あたしも君のことが好きだよ!だから友達なんだしさ」


 「…お、おう……」

 フィリップはヘナヘナと脱力した。

 「…強敵だな」

 ルイはフィリップの肩をポンと叩いた。


 「いいや、関係ない。決めたから。何度でも言うよ。俺は、ナタリアのことが、」

 「やあやあ皆さんお揃いで!大変お待たせいたしましとぅあ!!!???」

 扉を開けたダンテに、ルイが全力で殴りかかった。

 「てめえ、いらんことしやがって…。鉄拳制裁だ!」

 「は!?何、もしかしてナタリア、俺がフィリップ君に色目使ったのバラしたの!?」

 ナタリアは全力でブンブンと首を横に振った。

 「は?お前そんなことしてたの?」

 「あ…、墓穴掘っだぁああああああああ!!!!ぎゃあああああ!!助けでええええ!!!!」

 ダンテの悲鳴がバピアの街に響き渡った。

 「まあすまんね、フィリップ。あいつ男しか恋愛対象に見れないらしくてね、あいつに無理矢理嫌なことされたりしたらあたしとルイくんが全力で懲らしめるからさ、いつでも教えてね」

 「…そうなのか。……じゃあ完全に杞憂だったな」

 「?何が?」

 「いや、いい。また今度改めて話す」

 「えー何それ。今話してよー」

 「……いい。今はなにかと忙しいから、また改めて話す」

 「…まあ確かにね。また教えてくれよ」

 「ああ、待っていてくれ」

 「ごめんよーお二人さん、決着ついた」

 ルイが、ダンテだったものを一同の前に引き摺ってきた。

 「ほらダンテ、皆様に言うことがあるだろう?」

 「…はい。この度は私めがフィリップ・アハート様にご迷惑をおかけいたしましたことをここに謝罪致します。誠に申し訳ありませんでした」

 「よろしい。すまないけどフィリップ君、俺に免じて今日のこいつの非礼は許してもらえないだろうか。こいつが何かしでかしたらいつでも俺が飛んでいってお仕置きするからさ」

 「いえいえそんな、俺の方こそ失礼な態度を取ってしまったので…」

 「いやいや、こいつが全て悪い。何か要望があれば何でも言ってくれ。どんな要望でも受け入れさせる」

 「…じゃあ一つ、質問に答えてもらってもいいでしょうか。ダンテさんとナタリアは婚約者だという風に聞いてますけど、…ダンテさんはナタリアに恋愛感情を持たれていた事はあるのですか?」

 「いや、全くないね。ナタリアに限らず、昔から女性に対して恋愛感情を抱いたことはないよ」

 「あたしもないよー。こいつが昔から男好きだっていうの知ってたしね」

 「…そうだったんだ」

 フィリップは内心ガッツポーズをしていたが、喜びを見せる事なくフィリップは淡々と振る舞った。

 「…そうだ。それでナタリアに相談があったんだ」

 ダンテはかしこまってナタリアに向き合い、言った。


 「…ナタリア。幽霊になって俺の家族を騙してくれ」

 「…は?」

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