03 社畜女、歩き出す
「えっと……ちょっと整理しよう。って! そんなこと言ってる場合じゃない!! 仕事行かなきゃ! 遅刻するじゃない!」
「昨日あのまま寝ちゃったから、シャワーだけはして行かないとね!」
「急がないと! って、着替えは?」
「……ってここ何処ぉーーーーーーーーーーーー!!」
とりあえず鎮座してあった靴を履いてみる。
「うん。オッケー」
いや、何がオッケーなんだ? そこじゃない気が多少してきたが、まあ私の靴に間違いなさそうだ。
人の靴を勝手に履いた訳じゃないからオッケーと言うことにしよう。
次に、バッグを手に取る。
恐る恐る中を見てそう、アレを手に取る。
スマホだ。
そうだ、思い出した! 昨日会社を出る時5%切ってたんだった……。
電源ボタンを何度も押してみるが無反応。
「はぁ……コンセント……ナイよね…」
周りをゆっくり見渡す。
どこまでも続く草原と木々。
ココハドコデスカ……。
でも何故か怖いとか、辛いとか、泣きたいとかの気持ちはなかった。
「ハハハッ。何にもないや。ハハハッ」
何故だか私は独りで笑っていた。
再び、真っ暗になった画面のスマホを手にとる。
社会人になり、彼とお揃いにしたくて買い換えたスマホ。それ以来ずっと同じメーカーのを使い続けていた。
何だか、全てがどうでも良くなった。今までずっと真面目に学業に、仕事にと頑張って来て、職場では皆に「室長」「室長」と頼りにされている? と思っていたのは自分だけで、結局は皆自分のことだけで便利に使われていただけなんだ。と思うと全てが馬鹿らしく思い、使えなくなったスマホをジィーっと眺めていたら、何だか自分のことを指しているようで、もう用済みなんだお前は! と言われているような気がした。
──気づいたら、涙が溢れていた。
「ハハハッ。君は私と一緒だね?」
そう言って私は真っ黒の画面をしたスマホをカバンの内のポケットに、まるで封印するかのようにしまい込んだ。
「さて、これからどうしましょう?」
いっぱい泣いたからか? 何だか不思議にこの時の私はスッキリした気持ちだった。
これからの不安とかよりも、これからどうして歩んで行こうか? と、驚く程前向きだった。
この時の私は、これから後に起こる私が生きてきた中では考えられない、理論や経験、常識では考えられない状況が待ち受けていて、その渦中の真ん中へと導き落ちて行くなどとは、到底思ってもみなかった。
「しかし、ここ一体何処なんだろう? 東京じゃないわよねぇ……。」
遥か彼方まで続く草原、目ぼしい建物は一切なく、都会の中心部に住んでいた自分の家とは、流石に似ても似つかない状況に私は困惑していた。
「まあ、ここでずっと居ても仕方ないし、誰かこの状況がわかる人を先ずは、探さないとね。そして、何故こんな状況になったか? 此処は何処なのか? どんな目的でこの状況になったか?」
「こんなところかしら? 解決していくべき点は?」
そう一人で呟きながら、手帳に問題点を箇条書きにしていた。
「さて、何処に向かって先ず行こうかしらねぇ? スタート時間はっと……」
左手首にしていた時計に目をやる。
「アレ? ない!!」
「え? 落ちた?」
10年使っていた時計、途中ベルト交換や電池交換はしていたが、たいしたメンテナンスもせずに使い続けていた時計。最近少しベルトの金具が緩くなってきてはいた。ベルト交換に次の休みには行かないとな。と思っていたのだ。
「はぁ……これも駄目か」
10年左手首にあった心地よい重みがなくなった左腕を上下に上げ下げしてみた。
少しだけ、文字盤があった位置が白くなっていた。
「とりあえず、ここに居ても仕方ないし、何処か水辺がある所を探して歩いてみましょうか」
そう言いながら私は歩き出した。水辺付近になら、何らかの小さな集落があるのでは? と思ったからだ。
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