宮
月子は藤の家から輿に担がれて宮へと入った
周りを使用人で固めて、わざとらしく往来を行き、都の真ん中にある太く短い大通りへと入る
大通りへの検問を通過すると、そこは政務を執り行う宮へと繋がり、宮はその奥にある陛下や妃の御座所にも繋がっていた
月子たち一行は、そこを早々に左に折れてまた門へと入る
大通りを挟んで2つずつある門のそれぞれが、御子の宮への入り口になっているのだ
第一の門を入ると小屋のある広場に出る
そこで不要な使用人たちは返され、荷物を運ぶのに必要な使用人だけが残される
宮の護衛たち数人が、月子にうやうやしく頭を下げて挨拶をした
それから月子に了承を取ると荷物を小屋に運ぶように指示をして、輿入れの荷物も全て検められることになった
月子は2番目の門の向こうにある大きな柿の木に目をやり、思わず足を向けた
それを「まだいけません」と、護衛が止める
月子は軽く微笑んで、柿の木が気になっただけだと話した
すると護衛は、月子を門の端まで案内してくれた
扉はあるが、門というより家の間を通る路地といった雰囲気で、暗く細く切り抜かれた枠に柿の木がポツンと一つ
その向こうには、小さな平屋が一つあるようだった
月子が切り抜かれた景色に、どこか懐かしいものを感じていると、検査の終わった使用人と長持とが横を行き過ぎ、視界を塞ぐ
ぼんやりとその様子を眺めていると「お妃さまはこちらに」と、宮の女中が声をかけてくる
年は月子の母くらいだろうか、後ろで緩くまとめた髪に、華やかな羽織を着ている