目覚め
気がつくと、どこかの部屋に寝かせられていた
薄く空いた襖の向こうから明かりが漏れて、誰かの話し声が聞こえる
「じゃあ、そういうことで、宜しくお願いします」
誰かが頭を下げて、明かりが一瞬だけ遮断される
とりあえず夜なのだろうと思いながら、天井を見上げる
目がなれると、部屋の端に長持がいくつか積まれてるのが分かった
しばらくぼんやりとしていると、隣の明かりが消え、人の気配もなくなった
そして、そのまままた眠ってしまったらしい
また目が覚めたときには、襖は全て開いていて、朝の光が薄く部屋を照らしていた
昨日見た長持がよく見える
この部屋に窓はないらしい
隣の座敷には、柿渋染めの着物に濃い袴を履いた70くらいの男性が、月子に脇を見せて座っている
その座敷の引き戸も、その先の廊下の引き戸も全て開け放たれて、爽やかな朝の雰囲気が庭から流れこんでいた
月子が身動ぎすると横を向いて座っていた男性が、顔だけをこちらに向けた
「おはようございます」
「おはようございます」
反射的に挨拶を返すが、ここはどこなんだろう?
起き上がると、普段着のまま寝ていたらしい、見慣れた絣の藍色が目に入る
月子は布団の上で、男性を向いて座った
「ここはどこですか?」と尋ねるが、男性は困ったように笑って、目線を戻した
月子は、耳が遠いのかもしれないと思った
そうしているうちに、足音が聞こえて、今度は夫婦らしい1組が姿を見せた
黒いスーツを着た男性と、絹にオレンジの花模様を染め付けた着物の女性だった
男性は軽く頭を下げて、月子の視界から消えるように座ったまま後ろへ少し下がる
月子は、挿絵以外で初めてスーツを見たと思った
スーツの男性は心なしか戸惑っているようで、女性は伏し目がちで表情が読めない
2人は柿渋染めの男性の隣に、月子に顔をむけて座る
そして急なことだが、自分たち2人が後見人になると口にした