夕餉
マツバは月子が持ってきた、たくさんの本に興味を示したようだった
見てもいいかと言われるので、どうぞと言うと興味深そうにパラパラとページをめくり始める
月子は気にせず片付けを続けたが、月子の侍女が夕飯の支度が出来たと呼んでも、マツバは気づかないようだった
彼女は失礼にあたるといけないからか、再三呼んだりはしない
月子は仕方なく、マツバか気づくまで声をかけて夕食をいただくことにした
マツバはその本が気に入ったらしい
借りていいかと聞かれたので、どうぞと応え2人は隣に移動した
「はなさん、てるさんは?」
月子は、顔合わせのときに覚えた名前で、自分の侍女を呼んだ
はなはお櫃からご飯をよそっていたのだが、手を止めて驚いたように月子の方を見た
そして椀を月子に手渡すと、どうぞ、はなとお呼び下さいと頭を下げた
「殿下の侍従も、てるとお呼び下さい」
「月姫、彼らにも立場があるから…」
マツバも分かってやってくれ、というように口添えをした
月子は頷く
そしてもう一度、はな、てるは? と尋ねた
「あの子はまだやっと10(とお)になったばかりですので、実家から通いで来られるのですよ」
月子は今度はなるほどというように頷き、殿下…とマツバに声をかけた
「ん…」とマツバは汁を飲んでから、月子を見た
「マツバでいいよ。ここではみんな殿下だから」
「ではマツバさま」と月子が言うと、マツバは面白そうに笑って、何でしょう、月姫さまと応えた
月子は、それから少しだけ考えてマツバさん、と呼び方を変えた
「さすがに呼び捨てにはできません。ですが、私にさま付けは止めてください」
マツバは、分かったというように優しく頷く
月子は、ほっとして話を続けた