はじまり
2023/07/29 加筆修正しました
2023/8/14 国名削除(完全ファンタジーより、日本国っぽくしたかったため)
目が覚めると外が赤かった
夕日…? とぼんやり思いながら、揺れる影に違和感を覚える
ゆっくり起き上がって土間へと向かう
草履をつっかけて、引き戸に手をかける
ギュッと目を閉じる
見ちゃいけない、と思う
それと同時に、月子はいつも起きなきゃと思う…
何度も反芻した夢は、いつも気だるさを連れてきて、部屋は昨日引き出した本たちで散らかっている
こんなとき、側にいてくれたら好きになりそうなのに…
そういうときに限ってひとりで目が覚める
月子が寝ている頭の方角からには大きなガラスの出窓があって、明るく柔らかな日差しが射している
ガラス向こうにある花や蔦模様の面格子の影が、月子の上にも落ちていた
月子は部屋の真ん中、少し高くなった場所に設えられた布団からゆっくりと起き上がる
月子の左側の壁には腰ほどの高さの本棚があり、右側は居間へと続いている
窓の反対側には広い洗面所があり、そこから浴室とトイレが繋がっていた
月子はのろのろと顔を洗いに行くと、同じく窓の反対側に作り付けられた収納を開けて、いつもの藍絣の着物に着替えた
まだ寝ぼけた頭で、居間に行くと、お付きの侍女が静かに引き戸の脇で控えている
「おはようございます」
「おはよう」
お早くないのは分かっているが、同じように返す
彼がまた、「いいから。寝かせてあげて」と言ったのだろう
柱時計を見やると10時だ。ぼんやりしている間にも、侍女がすみやかに朝餉の支度をしてくれる
彼女は40くらいで、いつも華やかな羽織を着ていた
畳敷きの居間は、窓際真ん中に柱時計と部屋の真ん中に机、そして入り口側に風景の書かれた衝立があるくらいで、さっぱりとしている
机に並べられた、彩りのよい御膳に、いただきますと手を合わせる
ここに来て、いったいいくらになっただろうか?
2ヶ月か、3ヶ月か……
真綿に包まれたような、ぬるま湯のような心地よさに、漫然と日々が過ぎていく
月子はぼんやりと朝餉を食みながら、都に来たばかりの頃を思い出していた