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悪魔様にお願い!  作者: 海月 灰
2/2

姫子マンデー

 夕方の5時、外でカラスがカーカー鳴いている。

 目が覚めると目の前に女の子の顔があった。

 これが朝チュンってやつか? 意味はしらないけど。というか夕方だし。

 月曜日なのに休日より遅い時間に起きてしまった……ニート最高だ!

 私は昨日から悪魔と一緒に暮らすことになった。起きたときに誰かいる安心感が半端ない。でもこれが見知らぬおっさんとかだったらただただ怖いんだろうな。


「可愛い寝顔をしおって……」


 ついほっぺたをつつく。


「んん……」


 つついた途端コハクは顔をしかめた。おもしれーなこいつ。


「ほれほれ」


 コハクのほっぺたをめっちゃつつく。


「ん……!」


 まるで起きているのかと思うほど正確に、コハクは私の指を噛んだ。


「痛ってえ! こいつぅ!」


 思いっきり、ガブリと噛まれ、人差し指は第一関節から上が赤く腫れあがった。痛い。

 起きてるんじゃないかと疑うほど力強く噛まれたが、コハクは何事もなかったかのようにすうすう寝息を立てながら眠っている。眠っているコハクにちょっかいかけるのはやめよう。今度は第一関節だけじゃ済まない気がする。なんなら指1本噛み千切られて持っていかれる気がした。恐ろしい悪魔だ。

 というか昨日晩ご飯を食べずに寝たせいでお腹がすいてる。でも家にご飯はないのでコンビニに行かないといけない。コハクもまだ寝てるし散歩がてら行ってくるかぁ。ついでに酒も買おう。

 コンビニ程度ならいいかと私は部屋着にズボンを履いて外に出た。


「じゃんけんぽん!」


「俺の勝ち〜! ぐ・り・こ!」


 ちょうど家の前にグリコをしながら帰ってる男子小学生三人組がいた。

 懐かしいなぁ……私も昔お姉ちゃんとよくやったなぁ。

 グーチョキパー、グリコ、チョコレート、パイナップル。

 それが今は……グーチョキパー、酒、タバコ、賭博。馬鹿じゃねえの?

 私にだってあんな子供たちのように輝いていた時代があったんだ! いつからこうなっちゃったんだろうなぁ。過去を思い出すと黒歴史で死にたくなるし、未来を考えると借金しか出てこない。今日という日を存分に楽しむことにしよう。もう夕方だけど。

 ハアとため息をついた。

 少年よ、立派になれ……。


「私みたいにはなるんじゃないぞ~」


 小声でボソッとつぶやきながら小学生たちの横を通りすぎてコンビニに向かった。

 家から徒歩10分程度の場所にあるコンビニに着いた。


「いらっしゃいませー!!!」


 声のでかい女性店員だなぁ。と思いつつ。カゴを手に取る。

 もうこんな時間だし晩ご飯も買って帰ろう。

 とりあえずお酒お酒~♪

 アスヒ・スゥゥゥパァァァチョレェイ。5本買っちゃおー。

 晩ご飯はもやしでいいや。とカゴにもやしを5袋入れた。

 あとはつまみを買って、タバコも買おう。

 よし、つまみはカラアゲちゃんだ。


「こちらのレジで! 私がお伺いします!」


 レジに並んでいると他に並んでいる人もいないのにサササッと現れレジに誘導してくるさっきの元気の良い女性店員さん。

 苦手なんだよなぁ、ああいう元気過ぎる人。


「袋お願いします」


「はい!!!」


 くっ、なんて眩しい笑顔なんだ! 笑顔に殺される……。

 目を合わせないよう注文しなきゃ。


「あとカラアゲちゃん濃厚チーズ味2個と新作のワサビマヨネーズ1個お願いします」


「かしこまりました!」


 うっ……! 店員の声がでかくてSAN値が削られる!


「あとタバコの……」


「マルボロのボックスですよね! 持ってきますね!!!」


 あっもうこのコンビニには来れない……そう思った。

 認知されてるコンビニに来たくない!!!


「合計2470円になります!」


 あっ意外と値段がする……でも、昨日競馬で勝った金がある!

 お母さんに渡した封筒の中には実は5万しか入っていない! ふっふっふ……つまり私の財布の中には10万が入っている!!!

 1万円札をポンとトレイの上に出す。


「競馬で勝ったお金ですかあ? こちらお釣りです」


 お釣りを受け取る手が震えた。怖いよこの人。なんで知ってるの? ストーカー?


「あ……はははは」


 早くその場を去りたくて買ったものを持って店の外に出ようとする。


「また来てくださいね! 姫子さん!」


 言葉にならない悲鳴が私の心の中に響いた。外で自分の名前を晒したことないのに……。

 いや、忘れよう。うん、その方が幸せだ。

 寝てたとは言えコハクを1人で家に置いて来ちゃったし早く戻らないと!

 そう自分に言い聞かせ足早にコンビニを去った。

 昨日と今日で私の周りで色々なことが起こりすぎている気がする。悪魔が現れて、ストーカーかよって思えるコンビニ店員に出会って……言うて2つか。まあいっか。


 自分に都合の悪い話は忘れる。世の大人はそうやって生きているのだ。知らんけど。

 でもコンビニ店員の件はあのコンビニに行かなければいいだけだし……問題はコハクの方だよなあ。あいつ何食うのかわかんないし食費もその分かかるよなぁ。

 奥の手で臓器売るか。コハクの。

 まあ1人暮らしから2人暮らしになってもなにかが変わるわけではないだろ。なら深く考えるよりも、その場の成り行きに任せたりしたほうが楽だし。

 帰っても待ってるのは虚しい生活だけ。寂しさが紛れるくらいだろ。

 あれこれ色々と考えている間にアパートまで帰ってきた。


「ただいま~」


「……おかえり」


 ふんわりと、私の中に謎の感覚が入ってくる。

 感じたことのない暖かさ。

 なんだ。

 この感覚。

 胸に手を当てる。ただ家にコハクがいるだけで、なんでこんな気持ちになるんだよ。

 だって、昨日会ったばかりのやつが家にいるだけなのに……

 そうか、ああ。

『おかえり』って、こんなに暖かいんだ。


「コハク~ご飯買って来たよ~」


 コンビニの袋をコハクに見せる。


「こんなにもやし買ってどうしたの?」


「え? これが主食だけど?」


「?????」


 なんで宇宙をみた猫みたいにアホ面になってんだこいつ?


「あんた……主食って意味わかってる?」


「うるせぇ! もやしが主食でビールが副菜だ!」


「なんで飲み物が副菜なのよ……」


 あきれた顔でため息を吐くコハク。別にいいじゃんかよ。


「というかこれ全部でいくら使ったの?」


「2500円くらい」


 眉間にしわを寄せるコハク。


「どこから出たお金?」


「競馬で勝った金」


 コハクはおでこに手を当てて下を向いた。


「残りのお金は?」


「9万7500円くらい?」


 私が口を開くほど、どんどんコハクの表情が曇っていく。

 

「はあ……。財布、出して」


「なんで?」


「いいから出せ」


 目が獲物を捕らえる目に変わった。その目は怖いからやめてほしい。

 私はしぶしぶポケットから財布を取り出す。

 あれ? 財布どこ行った?

 取り出したばかりの財布が手の上から消えた。

 コハクの方をみると、すでにコハクの手に私の財布があった。

 あまりにも早すぎる手さばき……スリの常習犯か?!


「何をするおつもりですかコハクさん?」


「はい」


 ポイッと投げ返される財布。話を聞けガキ。

 確認すると財布には7000円だけお札が残っていて、残りの9万が消えていた。


「おいガキ、金を返せ」


「これより私がこの家のお金を管理します。姫子に拒否権はありません」


「んな横暴な!?」


「姫子にお金を任せると2か月後には借金してそうで嫌」


 言ってくれるじゃねぇかガキ……もう3か月は金利から金借りてねぇわ。

 澄ました顔をしやがって。


「ぬかったな! コハク、体格では圧倒的に私の方が有利。さあ金を返してもらうぞ!」


 大人気もなく、小柄なコハクにとびかかった。

 その身ぐるみ、剥いでくれるわ!


 * * *


「……言いたいことは?」


 床に跪き腹を押さえる私。そして私の頭の前で仁王立ちするコハク。


「調子に乗ってすみませんでしたコハク様」


 圧倒的な体格差を利用しても勝てなかった。

 なんなら私がコハクに触れる前に腹をグーパンされワンパンKO。

 うぅ……自称300歳のロリに負けた。私、大人なのに……!


「これより姫子は私に絶対服従」


「罪が重すぎる! ぐえ」


 私が顔をあげた途端、コハクは私の顔面に足を乗っけてきやがった。

 こいつ……。いつか絶対立場をわからせてやるからな。覚えとけ。

 

 * * *


 まあ色々とあったけど、茶の間で一緒にもやしのナムルとカラアゲちゃんを食うことに。


「もやしちょっと味付け濃すぎない?」


 ほおばりながら文句をいうコハク。コハクって意外と行儀が悪いんだな。いや、土足で家に上がった時点で相当行儀悪かったわ。


「ビールと一緒に胃袋に流し込むからいいんだよ」


 私は酒を片手にタバコに火をつける。


「吸うなら外で吸ってきて。私タバコの匂い嫌いだから」


「外に灰皿はねえよ」


「なら吸うな」


 私はちょっと迷ったけど、タバコの火を消した。

 コハクはさっき味付けに文句を言っていたにも関わらず、バクバクもやしのナムルを口に運んでいる。私の分まで食ってるじゃねえか!


「あんたの財布に残ってる7000円は好きに使っていいけど、お金がなくなっても追加であげないから」


「……はい」


 さっきの腹パンが脳裏によぎって強く出れない。

 コハクよりまだお母さんの方がやさしい。お母さんなら金くれって言ったら何も言わずに1万円くれるのに。


「マザコン」


「人の心を勝手に読むな」


「なんで私マザコンと一緒に暮らすことを大丈夫だと思ったのかしら」


 マザコンで何が悪い! 全国のマザコンに謝れ!

 私は本日2本目のビールを開けようと缶を手に持つ。


「これからビールは週3日しか飲んじゃダメだから。あと1日1本だけ。タバコも1か月に1箱ね」


「それ死ねって言ってんか?!」


 あまりにキツ過ぎる。死んでしまうぞ。

 あぁ、ああ! 手に持っていたビールをコハクに奪われた。


「あんたは禁酒を覚えなさい」


「なにおー! 禁酒にはすでに10回成功している!」


「永遠に禁酒してろ」


 ひどいめう……。人の心とかないんか?

 酒がなきゃ私は何に酔えばいいんだ。

 せっかく酒のつまみにしようと思ってカラアゲちゃんを買ったのに酒を取り上げられたら意味がないだろ!

「せめて、今日だけ……2本目をください。明日から頑張るので……どうかお慈悲をください。コハク様」


 土下座で頼み込む。借金をしはじめた辺りから人に頭を下げることにためらいがなくなった。むしろ積極的にするようになった気がする。


「……今日だけだから」


 へへチョロい。


「やったーコハク大好きだー!」


 私はコハクに抱きついた。


「ああもう、くっついて来ないで……」


 私はコハクが食べなかった大量のカラアゲちゃんを酒で胃袋に流し込んだ。

 満足満足ぅ!

 やはり酒は良い。嫌なこと全てを忘れさせてくれる。

 実際、なんかこれからもどうにかなるって感じてる。

 そうしてまた、私の1日は幕を閉じた。


 * * *


 ドンドンドン! ドンドンドン!

 朝の7時。気持ちよく寝ていたのに勢いよくドアを叩く音に起こされる。


「おはようございまーす!!!」


 どこかで聞いたことがあるような元気のいい声がドア越しに聞こえてきた。


「こんな朝っぱらから誰だよ……」


 コハクは寝ていたので私は重い腰をあげて玄関に向かい、ドアを開ける。


「どちらさ……ま」


 その顔を見た瞬間、一瞬で目が覚めた。


「挨拶が遅れました! 先日隣の部屋に引っ越してきた田中です! よろしくお願いしますね、姫子さん!!!」


 昨日のストーカー店員だぁ!!!!!


 一言”嘘”次回予告『田中と姫子』


 こんにちは! 海月 灰です!

 悪魔様にお願い! 2話いかがでしたでしょうか?

 面白いと思っていただければ幸いです! ブックマークや評価をよろしくお願いします!

 感想のほうもお待ちしています! 一言二言だけでも嬉しいです!!!


 海月灰でした!

 次回またお会いしましょう!

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