Episode1 眠り姫 (4)
「私のご主人様ですか?」
「違うわ!」
自分の部屋に戻ると、少女からのいきなりの謎の質問。
幼馴染というなの元凶は、隣で笑いを堪えている。
「それより腹減っただろ。食べるか?」
ちゃぶ台に、ちょうど3分ほど経ったカップラーメンが三つとお茶の乗ったお盆を置く。
「しゃんちゃん、ありがと!」
有無も聞かずにあゆみがシーフード味を捕獲。
「……」
少女はカレー味に興味を示している。
「カレーって、何ですか?」
カップラーメンには疑問を持たずに、カレー味には何ときますか。
「うまいもんだよ。早く食べないと伸びるぞ」
すでに5分経過していると思う。
俺も、しょうゆ味を食べ始めた。
「……」
そしてさらに5分経過、早いものであゆみは食べ終わった。
俺は若干猫舌なので、食べるのは遅い。
そして、少女はまだカップラーメンを見つめたまま動かない。
「食べないのか?」
「……」
俺の言葉に反応したのかしないのか、ふたを取り箸を割り、そして俺らとまねをするように麺を取り息を吹きかけて口の中に……。
「おいしくない、です」
「当たり前だ。麺がつゆを吸っちゃってるよ」
「しゅんちゃん、勿体ないね」
「お前食べるか?」
「さすがにいらないよ!」
俺も同感、捨てるしかないな。
「そういえば、名前は?」
カップラーメンをお盆に戻しながら、ずっと気になっていた事を少女に聞く。
「あすま、しゅん」
「うそつけ!」
幼馴染を見ると、笑って……いなかった。
「さっき聞いたんだけど……分からない、ないんだって」
だからって人の名前を教えるな……って、え?
分からない……ない?
「そうなのか?」
「はい」
少女はあまり感情を顔に表さないようで、今も何を思っているのか読めない。
「……なら、作ればいいか」
「作る?」
「そ、花子とか」
「しゅんちゃん! それはちょっと……、エリザベスは?」
俺の気持ち察して、すぐにあゆみが会話に乗っかる。
「それもどうかと……てか、猫と名前かぶってる」
名前のかぶってしまっている猫っていうのは、俺が毎朝エサを与えている子のことだ。
「私のなまえ……」
「ウメさんってのはどうだ?」
「それより、あいちゃんとか!」
「それも猫と名前かぶってる」
猫は一匹ではないです、ってどうでもいいか。
「あ、本人にも聞いてみようよ! 名前、何がいい?」
「それはいいな、なんか思いついた?」
少しの沈黙、多分考えているのかな。
「……花子エリザベス・ウメあい」
「それはなしの方向で」
「そ、それも一つの案としてはいいんじゃないかな……?」
フォローしようとするとは、あゆみは優しいなぁ。
というか、もうひとつ俺の中で考えているんだけども、それは単純というかなんというか。
この少女に抱いた気持ちそのまま、かわいい、守ってやりたいっていう気持ちの言葉。
「タマちゃん!」
「違うわ!」
やべ、俺の考えていた事とタイミングがすごく良かった幼馴染に対して大声を発してしまった。
「何が違うの!?」
「違うって訳じゃないけど……、てかまた猫と(以下同文)」
「じゃあ、しゅんちゃんは何がいいの?」
「……カレン、とかは?」
「……かれん?」
聞いていただけの少女が興味を示した?
「そ、どうだ?」
「……カレン」
言葉をかみ締めるように、少女の口から漏れる。
「それより、マリー・アントワ……何とかさんの方がいいよ!」
この幼馴染はもうちょっと自重してほしい気がしなくもない。
猫とは名前かぶってないけど、歴代のフランス王妃の一人を何とかさんとは失礼な。
「カレン、いい」
「……マジで?」
こうして、少女はカレンと呼ばれることが決まった。
「……カレンちゃんか、マリー・何とかさんはダメなの?」
諦めが悪い幼馴染は放っておいて。
「どした?」
少女……カレンが座っていた上体から、ストンと寝転がった?
あゆみが少女に触れる……。
「あったかい……しゅんちゃん熱あるよ!?」
透けなくなったと思ったら、今度は風邪引いたか!?
更新が止まっていましたが、一気に三話更新です!