Episode1 眠り姫 (3)
少女を風呂場に押し込み、あゆみの鉄拳によって意識が半分以上飛ばされつつも、俺は少女について洗い浚いしゃべった。
「そうなんだ。私が気絶していた時、しゅんちゃん大変だったんだね」
まだ顔がヒリヒリする。
「まぁね」
「はぁ……私もしゅんちゃんに送っていってもらいたかったなぁ」
「重いだろ」
「ばか!」
流石に二回目の鉄拳は避ける。
「二人もいたらって意味だよ。お前は俺を殺す気か!」
「……そっか、それよりこんな時間なら帰らなきゃね」
といって、あゆみは立ち上がる。
「どうせ、旅行好きな親は家にいないんだろ?」
「……なんで知ってるの?」
旅行好きなのは知っていたが、流石に今日いない事は知らない。
とはいえ、先輩のことだからいないのを知ってたからこんな遅くまで俺の家に放置したんだろうなと思っただけ。
「泣き虫なお前だから一人は寂しいだろ?」
「泣き虫っていつの話よ!」
「前見たく泊まってっていいぞ。空いてる部屋なら幾つかあるし……俺が少女と二人きりってのもまずいだろ?」
と言って、俺は扉の方を見る。
「……泊まってく! 絶対に泊まってく!!」
「お、おう……」
なんでそんなに気合い入ってるんだ?
「それと服持ってきてくれないか?」
「どうして?」
「少女の着替えがなくてさ。お前よりも背は高いから、服を取り合えず俺の貸すけど……な?」
「うん、分かったよ!」
取り合えずはこれで大丈夫だな。
あゆみが部屋を出たのを見送りつつ、服とタオルを風呂場の前に運ぶ。
「そういえや、シャワーの使い方分かるよな?」
ずっと風呂場の中にいるはずの少女に話しかける。
「……分からないです」
「は?」
ってことは、こいつは風呂場でずっと突っ立ってたのか?
「付け根の右側を捻ればお湯が出るぞ。試してみろ」
「くしゅん……はい」
今の可愛らしい声は……いいな。
じゃなくて、風邪引いちまったか?
しばらくすると無事水のはねる音がした。
今度、あゆみと一緒に入ってもらう事にしよう。
どうやら、こいつはいろいろなことを知らないようだ。
「ベトベト感がなくなると、大分違うなぁ……」
コーヒーによりずっと気持ち悪かった体をさくっと洗い、風呂場から出た俺は階段の方を見る。
さっき俺が入る前にシャワー浴び終わったあいつは、着替えてあゆみと一緒に俺の部屋にいるはずだ。
多分心配ないだろう。
リビングでカップラーメンでも作って持っていくとしよう。
そっけないけど、一応あゆみの分もね。