Episode1 眠り姫 (2)
「……先輩の仕業だな」
風呂場を見ると二人目の眠り姫が横たわっていた。
ようは、気絶したまま放置されてしまったのであろう幼馴染だ。
さらに言うと、二回目。
「面白い反応見たさに待ったのにこの程度とは、お前には笑いのセンスが無いのか?」
「のわっ! なんでいるんですが流雅さん!?」
いつの間にか、流雅さんに背後を取られていた。
「おお、その反応だよ! やれば出来るじゃないか。……それに目が覚めたようだな君、おはよう」
「おはようございます……りゅうが、さん?」
呑気に挨拶してるのはいいけど、いつから侵入しているんだろうか。
「いつからいるんですか? というか、井之上さんは?」
俺の慌てぶりは見られてるとちょっと恥ずかしいんだけどなぁ。
「遊馬より少し後だ。井之上は家柄上、あまり遅くに出歩くのはよろしくないようだ」
少し後って、全く気付かなかったぞ。
「一体どこに隠れていたんですか?」
「遊馬の部屋のタンスの中だ。俺の頭上から毛布を取り出していた時は、流石の俺も少し焦ったがな」
その光景を流雅さん目線で思い浮かべると、変な構図だな。
なんで俺は気付かなかったんだろうかね。
「もういいです。分かりました」
「お前の話を思い出して、お前に一つ言いたい事がある」
「なんですか?」
「やはり、美女がいるなら野獣もいるだろ?」
「お引き取りください」
野獣とは違うけど、合ってる様な気もしてくる。
はぁ……なんで一番意味不明な持論が当たるんだよ。
ってその前に、この少女自体が特殊な能力の持ち主だし、すでに二つも当たっているわけか……。
「まぁいいだろう。そいつのことも3つほど分かったからな」
「はい?」
3つ……?
「では、さらばだ」
一つ目は俺の体温を奪った事だろう。
二つ目は……透明になること?
最後の三つ目は一体何……?
「ここは……っ!? しゅんちゃん!?」
あ、こいつ忘れてた。
「お目覚めですか? お姫様」
「ちょっと、何言ってるのしゅんちゃん?」
俺もちょっとからかおうと思っただけなのに、その結果は痛く冷たい視線。
「あゆみさんが気絶なされたので、先輩がわざわざ俺の家に送って下さったんだよ」
「……ごめんなさい、帰ります」
あゆみはすたっと立ち上がって、こっちに来ると新顔の目が合う。
その姿は布で身体を隠しているだけの格好でありまりまして、それが俺に寄り添うような状況であります。
「しゅんちゃんの……ばかぁああっっ!!!」
その瞬間目の前に何かが飛んできた。
自分の身体が倒れ始めて気付いた、俺の顔面にプロボクサー顔負けの速度で鉄拳が飛んできた事に。
――俺は何か悪い事をしましたか?