Prologue(3)
「本当に行くんですか?」
目の前には鬱蒼とした森林が広がる。
俺がこの町で来た事の無い、数少ない場所。
「それ以前の問題があると思わないか? たまに一緒に行動すると思い出すが」
「恐かったよぉ……」
「遊馬くん、あなたは呪われているようね……。現地集合にすればよかったわ」
「だったら途中で止めればいいのに……」
話は1時間ほど前に遡る。
「さぁ、みんな乗っていいわよ」
黒くて長い車って、テレビでしか見た事なかったな。
ベンツだっけ? よく覚えてないけど、これに乗れるのは光栄かもしれない。
「お願いしまーす!」
「すまん」
見とれている間に、みんな乗り込んだので俺も後に続く。
「ありがとうございます」
井之上さんの家は金持ちであるって噂は聞いていたけど、本当だったんだなぁ。
「それでは、月木山の麓までお願い」
「はい、かしこまりました。お嬢様」
この執事さん、完璧だ!
さっきも俺らが乗り込むまで扉を開けていてくれてたし、ちゃんと最後に乗ったし、感情の読めない笑顔をずっと作っているし。
「では……、ぁっ!?」
などと考えている次の瞬間、目の前に車が突っ込んできた。
ハンドルを回し、右側をするような形ですんだ。
そして、止まった車内では沈黙が流れる。
「こわっ、こわっかたよぉ……」
驚きのあまり声が出ていなかったようだ。
「忘れていたが、遊馬と一緒に移動するのか?」
「……どうしましょうか? 本人は、スタントマン顔負けの勢いで、扉を開けて外に転がり出て行ってしまいましたし」
「さっきのを考えると得策かもしれないですけど、自分の経験だと一番危険だと思います」
井之上さんの提案により、学校の屋上に移動するとヘリがやってきた。
「でも、試した事はなかったはずよ? それに、パラシュートならちゃんと4人分あるわ」
「私、会長を信じます!」
「高度が低ければパラシュートは役に立たないと思うんだが」
とかいいつつも、3人とも乗り込んで行ったので着いていくしかない。
「……パイロットのパラシュートは別にあるんですか?」
「何を言っているの、あなたの分を抜かして4人分よ?」
「自転車だろうと、走ってだろうといいんで、自分で行きます。降ろしてください!」
自分の運の無さは自覚しているんだよ……多分死ねる。
「そろそろ着くわね」
「よかったぁ……」
「心配無用だったな」
その言葉を聞いていても、俺は安心できない。
取り合えず、非常時の扉の開け方は分かったし、多分木の枝の部分だったら一番死ぬ確立が低いはず。なぜ、俺がこんなに真剣に悩んでいるかと言うと、中学生の時にくじ引きに当たる確率で初めての飛行機が墜落したからだ。
あの時は、父さんに助けられたなぁ。
「非常事態が発生しました……操縦が利きません!」
「あらら……ホント?」
「ウソでしょ……?」
「……遊馬は本当にパラシュートがないと思って、勝手に扉を開けて飛び降りたようだぞ。俺も続くがな」
流雅さんの声も遠くに聞こえるか聞こえないかの時、俺の頭には走馬灯のように今までの思い出が……。
「パラシュートの使い方なんか分かりませんよぉ……」
「大丈夫よ、急いで」
飛び降りの結果、なんとか全員無事であるが、俺の格好は見れたもんじゃないぐらいに制服がボロボロの傷だらけ。
「壮絶な1時間だったが、行くぞ!」
「取り合えず、二手に分かれましょ?」
「えっと、私……」
「みんなで固まって行った方が安全ですよ!」
「「それはない」」
みんなが思い思いにしゃべっているのに合わせていうと、すごい勢いで否定された。
「……」
二人の先輩にはものすごい恐い目で睨まれた上に、あゆみには目を背けられた。
「遊馬はあっちに行きたまえ。何かを見つけ次第すぐに俺に連絡を。何かを見つけることに関しては期待しているぞ」
「死ぬ気で頑張りなさい。あなたなら死ねるわ」
「えっと、ごめんね? しゅんちゃん」
そして俺は、置いていかれた。
「呼んどいてそれはないだろ……、俺が悪いのかな?」
しばらく歩いて、方位磁石を見るとぐるぐると回っていた。
「……帰れないかも」
不安が募る一方です。
腰あたりまである草と垂れてくる蔓、虫やくもの巣と戦いながら、半ばヤケになりつつ進む。
もしかしたら、山を超えた向こうに何かあるかもしれない。
なんか、若干傾斜を上り始めちゃったし。
まぁ、でも今は春。
夏だったらもっと大変だったろうな……、そう考えるとまだましなのかな?
そういえば、熊とか出てくるのかな……先輩たちなら倒しちゃいそうで恐いけど、俺だったら逃げるしか無さそうだ。
あ、遭難した時のためにお菓子を持ってくればよかったかも、甘い物があれば、なんかやっていけそうな気がするんだよね。
「いてっ!」
どうでもいいことを考えていたため、視線がだんだん下になっていき、木に頭突きをかましてしまったようだ。
みんなでいた時はあまり感じなかったけど、結構暗いな。
上には、木の葉が空をほとんど覆い隠している……。
「そこの青年! 頼みたい事がぁーっ!!」
と、上を見上げていると前から清清しい印象を受ける声。
少女を抱えた男が草木を掻き分けこちらに向かって走ってきた。
「……」
その男は特徴的で、金色の髪に欧米人特有の顔立ち、上半身裸、そして一番の特徴は背中にワイルドな翼なんかを付けちゃったりなんかしている所。
「……関わっちゃいけないタイプの人間だ」
俺は方向転換し走り出す事に。
「こいつを助けてほしいんだ!!」
遠くに聞こえるその言葉に、一瞬見えた少女のことが脳裏を過ぎる。
「うわっ!?」
一瞬考えて振り向くと、想像以上の速度で3メートルほどまでその男は近づいていた。
少女を見ると、なんか……透けている?
というか、大きな布に巻かれているだけの格好に見えるんですけど。
「いやぁ、優しいな。待っててくれたってことは、この子のことを育ててくれるってことだな?」
待て待て待て!!
「どれだけ、話が飛躍してるんですか!?」
「まぁ、動揺するのも無理はないだろう。……こいつ可愛いから」
なんか、的外れなこと言ってるんですけど。
「そんなことよりあなた誰なんですか!」
「俺はタイプ鷹(Falcon)、バトルスタイル翼(Wing)の……獣人だ」
だから的外れ……って、この人今何ておっしゃった?
Prologue、次で終わりです。