Episode2 少女の記憶 (4)
私は深い深い眠りの中にいました――。
まって……置いてかないで……
暗い… さびしい……
生きてちゃいけないの……?
――ひとりにしないで……
「……ぁ」
目を覚ますと記憶がぽっかりと無くなってる。
何も思い出せない……さっきの夢のことでさえ……。
いつも見ているように思うのに……。
「やっと、目ぇ覚ましたか」
声がして、ぼーっとしていた意識がしっかりし始める。
暗くて何もない四角い部屋。
唯一の光が差し込める場所には柵がついていて……部屋はずっと揺れている。
声はその柵の向こうから聞こえているみたい。
「だれ……ですか?」
「なんだ、また飛んだか。もう、教える必要ねぇよ。自分で思い出せ」
思い出すも何も、記憶は違和感があるぐらいすべて思い出せない。
「冷たいねぇ~、寝不足なんじゃないの? ……僕が運転変わってあげようか?」
それに頭が痛い……なんだか寒い……。
暗闇に目が慣れて周りを改めて見渡すと、大きな布を見つけてそれに包まる。
「……俺に話しかけるなって言ったろ? てめぇら能力者を俺は信用しちゃいねぇんだよ」
「そんなこと言わないでくれよ。僕たちは同じ輸送任務を受けた仲じゃないか」
寒さは凌げた気がするけど、頭の痛みは直らない。
「しゃべるな、てめぇの仕事に専念しろ」
柵の向こうから聞こえる声が頭に響き、顔をしかめる。
「そろそろ、受け渡しの研究所には着くだろ? それに、護衛のために来たけどやつらにはこの任務の情報が流れているように思えないよ。よって僕の仕事はあってないようなものさ」
「もう一台はちゃんと着いてきてるか? てめぇは着くまでずっと見てろ! とにかくしゃべんじゃねぇ」
頭の痛みが少し弱くなって、思考が回り始める。
……ここはどこ?
「大丈夫でしょ、一本道で迷子になるわけじゃあるまいし……あれ?」
「どうした?」
「……なんか、燃え上がってるよ?」
「は?」
ドンッ
「きゃっ!?」
強い揺れ、そして部屋が急に回り始めた!?
「くそっ、タイヤをやられた!!」
壁に叩きつけられる。
気持ち悪い、動けない……。
「斬ってちょうだい」
部屋横向きになって動きが止まった時、部屋の外から声が聞こえた。
柵のある壁とは反対側の壁に光の線が入ったと思うと、壁はきれいに崩れた。
「まぶしい……」
目が慣れてくると、大きな道路とその両側に広がるジャングルを思わせる茂みがまっすぐに見えてきた。
その真ん中に二人に人影。
「この子か?」
「多分ね……可愛い子」
細くてすらっとした少女と、腰に棒を巻きつけ深く帽子を被ったおじさん。
「だな」
「私の子には負けるけどね!」
話しながら二人は近づいてくる。
「何言ってんだよ。……雑談してる暇もねぇぞ」
「そうね……というか、ほんとにこの子でいいのよね? シドさんって最低限のことしか言わないから」
「大丈夫だろ? てか、全員助けりゃその中にいるだろ?」
ぶつかった体が痛い……いったい何の話をしてるんだろう?
「それじゃだめなの。おまじないしてあげなきゃいけないんだから」
「お前……他にも能力あるのか?」
「さぁ?」
バチッ
「きゃっ!?」
「っ!?」
いきなり、体中がしびれた!?
「僕にケンカ売るなんて、君たちバカかな?」
「眼帯の奴、時間稼ぎにもなりゃしねぇじゃねぇかよ」
「カイトくん、敵の相手してくれてたんでしょ!! 大丈夫なの!?」
「こんなんにやられるほど軟じゃねぇよ……。ちょっくら行ってくるから、こいつはお前に任すぞ」
「分かったわ。頑張ってね?」
体は痛いし、びりびりする感覚がまだ残ってるから逃げた方がいいと思うんだけど動けない。
「さてと……、透けてる可愛い子ちゃん?」
「……私ですか?」
誰なんだろう?
よく分からないけど……なんだか温かそうで優しそうな人って思う。
「そうね、あなたしかいないし……。怪我してるわね? ちょっとじっとしてて」
そっと手を握ったと思うと、私の体から光の粒がいっぱい現れて当たりを明るくした。
「……あれ?」
気がつくと体が痛くもしびれてもいない。
「不思議でしょ? 今度はおまじない、うまくあなたが逃げれるように……。本当に効果があるか分からないんだけどね」
温かい笑顔に思わず、見入ってしまった。
「その子を連れて行けばいいのか!?」
おまじないと言われたけど何も起こらなかったので不思議に思っていると、翼の生えた男性が現れた。
「あなたは誰?」
「俺はカイトって奴に助けられたタイプ鷹(Falcon)――」
「名前だけでいいわ」
「……イカロスだ。手伝えることがあれば何でもやるって言った所、少女を逃がしてほしいって言われたんだ!」
「そう……信用しても大丈夫そうね」
細身の少女は、しばらくイカロスと名乗った男を見つめると私から離れた。
「私はまだすることがあるの。しっかり頼むわね!」
「任してくれ!!」