矢口泰河の家
「藤木は二年生のある日、数人の男たちに襲われます。それを俺は阻止したい」
「な、そんなことが………てか、未来のことだろ? 何でそれが分かるんだよ」
「樹、ゆっくり話をさせてやろう。矢口———泰河が困っているよ」
「大丈夫です————その、ラノベとか漫画やアニメで、異世界召喚ってあるじゃないですか。あれって、現実の世界で本当に起こっていることなんです」
「ちょっと待て、確かに俺らは翔といて、それまでの常識は覆されてきた。でも、そんな召喚までって———」
少し悟が混乱している。
「もし、これ以上関わりたくなかったら、悟先輩は聞かなくても大丈夫です。ただ、翔先輩だけは聞いてもらいたい」
「いや、俺も大丈夫だ。ただ、あまりにも世界は出鱈目だったって思って……」
「悟、大丈夫? 無理しなくていいよ」
「続けてくれよ。悟は大丈夫だ。俺と悟は翔平の力になるって決めている。どんなことでも受け止めていくつもりだ」
「そうだったな。悪い」
「あ、誰か来たよ」
「俺の弟ですね」
部屋のドアが開いた。
「兄ちゃん、友達来ているの? 毅とかじゃないって本当?」
まだ幼い可愛い姿が現れた。矢口とよく似ている。
「慶河、お客さんだから、また後でな」
「でも、俺、兄ちゃんと遊びたい」
可愛いなあと思った。なんか、明を思い出す。
「じゃあ、俺が遊んでやろうか? 何して遊びたいんだ?」
「本当? ゲームでなかなかできないとこがあるんだ。一緒にやってくれる?」
「いいよ」
さっきよりもずっと優し気な顔で、樹はベッドから立ち上がって、矢口の弟へ近寄っていった。
「なんか、すみません」
「いいよ。俺も小さな妹いるしさ」
「じゃあ、話は明日にして、みんなで遊んであげようか」
矢口は僕の言葉に少し驚いた顔をしている。
「えっ、でも……」
「まあ、そこまで急ぎじゃないだろ? 今度、翔の家でもっとゆっくり時間取って話を聞くぞ」
悟も立ち上がって、矢口の弟と樹の方へ行く。
「とりあえず、連絡先だけ交換しようか? もし、急ぎなら、僕だけでも話を聞くけど?」
大変なことがあるのは来年の様だし、僕の手伝いということだから、今日じゃなきゃ駄目ってことでもないだろうと僕も思った。
「まあ、それで大丈夫です。それなら、次の日曜とかいいですか?」
「うん。今度は僕の家に来ていいからさ。一日中全部を開けておくよ」
「はい。お願いします」