第七話 『魔法の使い方』
今日は庭先で魔法の訓練をしている。魔法の講師はアフィでは無く元気な魔法少女ルルだ。
「さて、前回の復習、魔力を体に循環させてみよう!」
「分った」
魔力は何故かお腹の辺りから溢れ出て来る。その魔力を思い通りに全身に隅々まで行き渡らせる。
それに因り魔力の扱いも上手くなるらしい。
エリアは自然体で体の中に意識を向ける。すると下腹部にもやもやと言うかふわふわと言った感じの力を感じる。じわじわと漏れ出す魔力を意図的に全身に広げ、隅々まで循環させる。するとその効果か全身が活性化して少し高揚し、上気した様に白かった肌に赤みが指す。
何故そんな風になるかは分らないが、魔力が循環してるのは間違いない様だ。
「うんうん、循環は出来てるみたいだね~じゃあそのまま次、行ってみようか」
循環する魔力の奔流を感じながらこくりと頷く。
この世界の魔法とは詰まる所、現象を想像して魔力で顕現するという事象である。
プロセスは無属性の魔力を各属性の魔力に変化させ、実際に具現化するといった感じだ。
勿論無属性のままで使う魔法も有るが、属性を付けた魔法の方がイメージし易いらしい。
そして、人には得意な属性と言う物が有る。エリアの場合は魔力の色が白銀なので聖属性らしい。
魔力を使って炎をイメージすれば火属性の魔力に変化し本物の火となり、水をイメージすれば水属性の魔力に変化して、本物の水として出す事が出来る。
魔力には質が有り、具現化のし易さが得手不得手に影響してくる。
そのイメージを強固にする為の暗示が魔法詠唱であり、図式化した物が魔方陣なのだ。
が、近年は詠唱や魔法陣にばかり拘って、本質を分ってないとルルは嘆いた。
「だから」と言って指先に炎を灯す。
十分な魔力とイメージさえ有れば、詠唱も魔法陣も要らない。と指先の炎を鳥の形に変え空へと放った。
「イメージか・・・」
エリアは水晶での測定で全属性を使えるし魔力量も多いが、魔力が弱いと診断されている。つまり、桶は大きいがちょろちょろとしか水が出せない感じらしいのだ。
そんなエリアを見るルルの目がやってみて、と言っている。
「最初は身近な物を思い浮かべると良いよ。竈の火とか、川の水とか」
「身近な物ね・・・じゃあ、先ずは火から・・・・・・」
ボッ・・・指先に小さな火が灯る。恐々でイメージしたのはライターの火だ。
「上手い上手い!」と、手を叩いて喜ぶルル。
エリアも上手く行って、ほっとしている。
「じゃあその火に魔力をもう少し注いでみて。少しづつゆっくりね」
分った、と言ったがやり方が分らないので、取り合えず指先に集中すると突然炎が大きくなった。
ゴオオオオオオーーーーーー!
今では人1人くらいの大きさになっている。
「ちょっ、これ大丈夫?」あまりの炎の大きさに焦るエリアに対し「大丈夫、大丈夫。人や家に向けなければね」と、楽しそうに笑ってる。
エリアは顔を顰めたが、気を取り直して自分が出してる炎を見詰める。
もっと強力な火力・・・・・・燃焼に必要な空気を送り込む。
ゴオオオと云う音が、シュウウウーーーと云う音に変わり、指先の炎は青白く変わった。
「へぇ・・・」と、ルルも感心している。
勢いのある青白い炎。小学生の頃、理科の実験で使ったガスバーナーのイメージだ。
その炎を岩に向け、より細く、鋭く、搾り込む。
シュウウウーーーと云う音が更に高くなりフィーーーーーーと云う甲高い音に変わった。
炎もまるで細身の剣の様だ。その炎で岩を斬り付けた。
当然だがなんの抵抗も無く振り抜かれた炎の剣は岩の表面を黒くするだけで削れたり、ましてや切れたりはしなかった。
「やっぱりだめか」
指先への魔力を断って炎を消す。
「今の何?」
ルルが好奇心満々の表情で詰め寄ってくる。
「炎で剣が作れないかと思ったんだけどダメだったよ」
少し恥ずかしくなって頬を掻いたがルルは「岩はダメでも魔物にはそのままでも効果が有ると思うよ。本当に斬りたいなら剣で斬るイメージをしないとだけど、普通の剣に炎を纏わせる方が簡単だし、普通の炎の魔法の方が使えそうだよね」と、フォローしつつ小さな火球を指先に作って、先程の岩に放つ。
「要は使い方だよ。魔法は想像の具現化と相性だからね」と、人差し指を立てて笑った。
その後も魔法の練習は続いた。
水属性ではシャワーの様な温水が、風はクーラーの様な冷風が出た。地属性は最初イメージが難しく上手く行かなかったが、自分の足元を揺らすイメージをしたら僅かに横揺れを起こした。流石地震大国出身。光属性、指先がLEDライトの様に光る。闇属性、これも難しくやっとの思いで影を動かす事が出来た。
「後は回復魔法かな?」
「回復魔法ってどんな魔法なんだ?」
「まぁ、基本は治癒だよね。傷付いた体を元に戻すっていう」
楽しそう。
「しかし、こればっかりは怪我人が居ないと・・・」
言ってる横でルルが指先をナイフで切った。
「何してるの!?」
エリアが慌てて傷を押さえる。
「何って治癒魔法の練習だよ。エリアは得意そうだし早く治してみてよ」
ルルは期待に満ちた顔をしている。エリアは思う所も有ったが兎に角今は治療を優先させた。
「治療も難しいな・・・」
切った傷が治るプロセスが上手くイメージ出来ないのだ。仕方無いので逆再生の様なイメージで魔力を流したらルルの傷が治った。
「流石だね~!判定の魔石の結果通りだ・・・うにゅ?」
ね。と言おうとしたルルの頬をエリアは抓んだ。
「ふぇ?何?いふゃいよ」
何事?と慌てるルルにエリアは顔近付けて怒った。
「自分で自分を傷付けるなんてしちゃダメだろ!」
ルルは怒っているその瞳の奥に真剣さと悲しみを読み取って「ごめんなさい」と、素直に謝った。
「上手くいったから良い様なもののもし俺が治癒出来なかったどうするつもりなんだ」
ルルはヒリヒリする頬を擦りながらエリアを見上げる。
じっと見てくるルル。
「どうした?」と、聞くと「いやね、ボクも治癒魔法は使えるからエリアが使えなくても大丈夫なんだよ」
・・・・・・暫くの沈黙。
と、突然エリアは両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
(そうだよね、ルルちゃんは魔法使いだし冒険者だしあんな事をするくらいだから自分で治癒くらい出来るよね!魔法じゃなくても薬くらい持ってるよね!)
耳まで真っ赤にしているエリア。
「エリア・・・?」
突然の行動に心配になって近付いたルルが顔を見ようとエリアの前にしゃがむとエリアは真っ赤な顔をルルに向けた。恥ずかしそうに目が狼狽えている。
「ごめん、でも治ると分っていてもルルちゃんに傷付いて欲しくないんだ」
最後に真剣な眼差しでルルの目を見た。
ボフッ!
ルルの顔が真っ赤になって爆発する。今度はルルが熱い顔を押さえてそっぽを向いてしまった。
なるほど、この人は単純にボクに傷付いて欲しくなかったのか。だからあんなに真剣に・・・とエリアの気持ちに気付いて更に赤くなった。
うう~~~と唸るルルを今度はエリアが心配しておろおろする。
エリアこと葛城涼は天然のタラシだった。ただ残念な事にその能力は現世では結実しなかったのだが。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
ほんの少しでも
・面白かった
・続きが気になる
と思って頂けましたらブックマークや評価をお願いします。
評価はこのページの下の【☆☆☆☆☆】をタップで出来るそうです。
※無断転載・無断翻訳を禁止します。