第六十二話『神獣アルティキュアス』
森の町カント編も終わり、今回から新しい旅です。
目指すは幻の池『ユリニウス』!
そこで待つのは・・・ってサブタイトルに書いてますねw
神獣アルティキュアス様、登場です。
森の町カントを出て5日、街道から獣道、そして、道なき道を歩いてやっと辿り着いた其処は何か神聖な雰囲気を纏った、湖と言っても良い程大きな池だった。
池に着く少し前から山奥の神社に来た様な透き通った神聖な感じの空気と雰囲気が漂い、辿り着いた池は透明度の高い澄んだ水面はまるで鏡の様だった。
幻の池『ユリニウス』
カントの町長、オドリックの話に寄れば此処は聖域と云う事らしい。
そして、今エリアは池の前で驚き、ポカンと口を空けて呆けた様に立ち尽くし見上げていた。
「貴様、何をしにここに来た」
空間が震えてるのかと思う程の荘厳な声が掛けられた。
目の前には体が蒼く淡く光っている体高が10mは有りそうな魔物に見下ろされていたのだ。
その蒼い瞳に大きな角。全身は毛に覆われた蒼い鹿の様な、馬の様な4足獣。
そんな獣が普通に話しかけてくる。
「おい!」
呆けていたエリアはハッとなって、膝を折り頭を下げた。
「申し訳ありません、私の名前はエリア。ある方の依頼で手紙を届けに参りました」
「手紙だと・・・」
その獣はエリアとその肩の上の猫を見る。
「にゃ!」
「ここは、幻の池『ユリニウス』で間違いありませんか?」
「うむ」
「貴方様の名前を伺っても?」
「・・・」
獣は訝しんだが、素直に口を開いた。
「我に名を問うとは不敬な小物め・・・我は神獣、麒麟のアルティキュアスである」
「恐れ入ります。間違いの無い様にと相手の確認は義務ですので」
エリアはポーチから取り出す様に見せかけて無限倉庫から、親書を取り出し下を向いたまま両手で差し出した。
「此方、ファニール王国女王、ミリアス・グリーム・フォル・リンドバイン様からの親書で御座います」
「ん・・・」
随分近い場所から聞こえた声、存在感の大きさは其のままだが気配が近くなっていた。
受け取った手紙を開封する音も随分近い。
暫しの沈黙の後、溜息と共にクシャリと手紙を丸める音がした。
「彼奴は・・・」
口調が砕けた感じになっているが、呆れと怒りの雰囲気が感じ取られる。
「貴様・・・いや、エリア達は手紙の内容は知っていたのか?」
「いえ」
「ふむ、だろうな・・・」
(ん、達?)
「よし、もう畏まらなくて良いぞ。ミリィの家族と言うならば私とも親戚の様なものだ」
「え!?それはどういう・・・」
神獣に親戚と言われて、流石に驚いて顔を上げたエリアが固まった。
其処には巨大な神獣の姿は無く、蒼い衣を纏った眉目秀麗な青年が立っていたのだ。
透明感のある白い肌に、流れる様な金髪ロングヘアー、その瞳は先程まで居た神獣と同じ深く蒼い瞳をしていた。
「アルティキュアス様、ですか?」
「他に何に見える?」
「信じられないほど美しい人間に見えます」
神の如き神々しさはそのままに、男でも見惚れてしまう美しさにを持つ青年はエリアの手を取って立ち上がらせた。
「ならば、問題無い。さて、手紙の内容だが・・・先ずは場所を変えよう」
突然目の前の情景が変わり、二階建てのログハウスが現れた。
「入るが良い」
アルティキュアスに招かれ、中に入ると空調でも効いてるのか外とは違い丁度良い温度に調整されている室内に大きな獣が寝ていた。
見るからに強力な肉食獣は、片目を空け一瞥したが其のまま、また寝てしまった。
「好きな所に座りたまえ」
そう言われてエリアは獣とは反対側の椅子に座る事にした。
そう警戒しなくても大丈夫だと言いながら、飲み物を用意して戻って来たアルティキュアスはエリアとファム様のカップを置いて、その巨大な肉食獣を背中に来る様にエリアの対面に座った。
「ありがとうございます」
カップを両手で持ち、一口。喉を通る刺激的で清涼感のある飲み物に驚いて、そのまま飲み干してしまった。
しゅわしゅわとする感覚、果実の様な甘い味!
(これは炭酸ジュースだ!)
「あのこれは炭酸ですか!?」
「ああ、そうだ」
エリアの反応には満足したが、炭酸を知っていた事には、アルティキュアスも少々驚いた。
「あの、この炭酸はどの様に?」
エリアの喰い付きに、気分が良くなったアルティキュオスは近くに天然の炭酸水の湧き水が有る事を教えてくれた。
この世界に来て、まさか炭酸飲料に出会えるとは。
感激の余り、アルティキュオスの手を取って感謝の祈りを捧げたのだ。
エリアの勢いに、少し圧倒されてたが炭酸水の源泉を教える事を約束して話を戻した。
「さて、手紙の内容だが『私の新しい家族を向かわせたので、よろしく』だそうだ」
(女王様アバウトー!)
エリアは突っ伏して、やり場の無い怒りを握り絞める。
「お前の事で分かる事が有ったら教えてやって欲しいとも有るが、どういう事だ」
お前の事で分かる事。それはエリアとしてではなく、葛城涼に付いてという事を意味していた。つまりミリィ女王はこの神獣様には招待を明かしても大丈夫と言っているのだ。
「実は・・・」
亮はエリアの体から抜け出し、本来の姿を現した。人魂の様な姿を。
「ほう、それは?」
「これが、本来の姿です。改めまして私の名前は葛城涼、異世界で死に、天に召される寸前のこの状態でアフィ・アルパイア・アーハートに召喚されました」
「異世界とな・・・」
「はい、その、そもそも生きてるのか死んでるのか、この状態が人魂なのか、何なのかも分からず、またこの世界に来てから使える力も理解出来ずに居ます」
魂を食べたり、呪いを食べたり、物に憑依出来る事や気が付いた事を話した。
「ふむ・・・此方へ」
アルティキュアスは亮を見詰めてその手を伸ばした。触れる事は出来ないが揺れる炎に手を添える。
涼も感触は無かったが、何か暖かいものを感じていた。
「ふむ」
まるで深淵を覗くかの様に見詰めるその瞳を涼もまた見ていた。その吸い込まれる様な瞳に思わず照れてしまう。
「ふむ、森の賢聖などと称された事も有ったが、やはりまだまだだな」
「あの・・・」
手を離し、飲み物で喉を潤して、ふむと話し出した。
「全ては分からぬ」
袖の中に手を入れて、腕組をする神獣様。まるで中国の軍師の様だ。
「先ず、そなたの正体は分からぬ」
「そうですか・・・」
少し期待したのだが自分の正体が判明せず、残念なに感じたがこればかりは仕方が無い。
「ただ、それだけ生命力に溢れてるのだから死者と云う訳ではないだろう」
「ほんとうですか!?」
「うむ、死霊や霊体に思念は有っても、生命力は無いからな。少なくとも私は見た事が無い」
ジッと見詰めるアルティキュオスはこれは、私の予測なのだがと付け加えた。
「これだけ、神聖な気配を持っているのだから、聖属性の神獣か英霊とも違う何かだろうが・・・」
これは、葛城涼にとって朗報だった。少なくとも神聖魔法等で消滅する事は無いという事だ。そして、アフィのターンアンデットが効かなかった理由も分かって、少しホッとしている。
(アフィは魔法が効かなかった事をきにしてたからな~)
「そして、能力の方は実際に見てみない事にはなんとも言えんな。魂喰いも憑依も私の知っている物とは少し違うようだ」
涼も憑依の方は色々試して分かってる事は有るが、魂喰いと呪い喰いは試す機会が殆ど無く実証出来ていないのが実情だ。
なかなか呪いや呪物に巡り会わなかったし、魂喰いは、そうしなければ開放出来ない魂にしか使えなかった。それは魂喰いがその魂の完全な消滅か、例え強制的にでも本来行くべき所への昇天なのかハッキリしなかったからだ。
苦い思い出が亮の心を抉る。その疑念が浮かび上がってから、この問題は常に涼の心に棘の様に刺さったままだった。
「此方に・・・」
立ち上がり、扉へと向かうアルティキュアスを追い掛ける為、エリアの中に戻って後を追う。
「ふむ、それが憑依か」
「え、はい」
「憑依に違いは無い様だ。ただ今の所限定的なのだろう。その理由までは分からんがな」
「今の所?」
「私は物に憑依するそんな能力は見た事がない。今後成長して全ての物に憑依出来るかもしれないだろう?」
「成長・・・成長か」
これまで、この能力の出来る事に付いては色々考えたが、成長に付いてはすっぽり抜け落ちた様に考えてなかった。
外に出るとアルティキュアスはエリアの手を取る。すると目の前の風景が一瞬で切り替わり、大きな枯れ木の前に立っていた。
「ここは?」
「森の何処かだよ。それより見てみなさい」
アルティキュアスの指差す場所には虚が有り、そこには黒い靄が漂っていた。
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