第六話 『剣と体の使い方』
アフィの家の庭先でエリアの訓練が始まった。剣術の講師は寡黙な美少女リリだ。
リリは表情一つ変える事無く極当たり前の様に背中から剣を抜く。
リリの両刃の剣は体のサイズに合わせた特注品で両手で使える様にもなっている。様は小型のバスターソードである。剣自体に何か力の様な物も感じるし、魔法の武器かもしれない。
エリアも正眼に構えると、もう目の前にリリが迫っていた。
「うわっ!?」
ガシィ!
リリの打ち下ろしをギリギリ剣で受け流す。一旦後ろに離れたリリがまた突進して今度は打ち下ろし、薙ぎ払い、切り替えしと3連撃を繰り出すがエリアはその全てを辛うじて受け流した。
リリの速攻と重い剣筋に恐怖が沸き上がる。
そんなエリアの心情に気付く事無くまた距離を取ってリリは剣を下げた。
「エリア、剣術の心得は?」
「な、無いよ、どうして?」
リリの猛攻に冷や汗が滲む。
「私の攻撃を受け止めずに受け流してる」
「ああ、受け止めたら痛そうだから受け流してるだけだよ」
「そう、ならもう少し速度を上げるね」と言った瞬間リリが消えた。そしてエリアの左下、低い姿勢から足を狙って剣を振り払う。その攻撃を咄嗟に後ろに飛んで躱すエリア。だがリリは一足飛びで追い掛け着地前のエリアの腹を狙って回し蹴りを入れた。
グワンッ!
更に追撃を仕掛け様としたが、踏み堪えたエリアが剣を前に突き出した為そこでリリは攻撃をやめた。
「剣での防御・・・」
「大剣使いとしての基本だろ」
エリアはリリの蹴りを剣の腹で辛うじて防いだのだ。
「そんな基本は無い」
リリがジト目でエリアに刺さる。
「・・・剣は中止」
剣を収めるとテーブルに伏せて眠そうにこちらを眺めていたルルを呼んだ。
「何、何~?」
暇をしていたのだろう、ちょっと眠そうなほわほわの笑顔で駆け寄って来る。
「鬼ごっこ。手伝って」
「ボク、知性派なんだけどな~」
セリフは面倒臭いと言いたげだが、暇だったのだろう軽く準備運動を始めている。
「鬼ごっこって?」
緊張を解いて剣を収めながら訊ねた。
「エリアは・・・涼はその体の力が全然分ってない。だから先ず体の動かし方と限界を知って貰う。技術はその後」
「この体の力・・・スペックね・・・・」
(と言うかアレで技術を教えてるつもりだったのか!?見て盗め的な・・・)
「捕まったら罰ゲーム、ねっ!」
先程より早い動きでリリが迫る。
リリの突進をギリギリで躱すと後ろからルルが迫ってきた。
「た~!」
両手を広げエリアに抱き着こうとしたが軽く避けられる。
「なんで避けるんだよ~」
地面をスライディングしたルルは抗議をしつつも楽しそうだ。
「なんでって、罰ゲーム怖いし」
申し訳無さそうにルルを見つつリリの攻撃を躱すと間髪を入れず飛び掛るルルをも軽く躱した。
「ルル・・・」
少し迫力の有るリリ。
「真面目にやってるって~」
楽しそうに答えてる時点で真剣みは感じられない。
「分った」そう言ったリリは殺気を放ちながらゆっくりと歩き出した。それに合わせて後ろに下がって距離を取る。徐々に速度を上げるリリ。エリアも速度を上げる。遂に走り出したリリに対し、エリアも前を向いて走り出した。
必死になって逃げるエリアと其れを追うリリ、2人の速度が徐々に上がって行く。
「うん、その速度で逃げられるとボクは付いていけないかな?」
涼は驚いていた、自分の、ホムンクルス『エリア』の身体能力がこれ程の物とは。そんなエリアにリリが迫る。
「まだダメ、涼の常識を超えて、エリアの限界に近付いて、全身の動きに神経を研ぎ澄ませて」
「全身の動きに神経を集中させる・・・」
すぐ後ろ、あと1歩分で手が届くという所でエリアの速度が上がった。
「くっ!?」
リリが徐々に離される。
「凄い・・・」
回りの景色が凄い速度で後方へと流れて行く。エリアは自分の力に驚いていた。後ろを見ればリリとの差が徐々に開くのが見えた。
その時だ「エリア、前!」ルルの声に咄嗟に反応した、目の前に迫る大きな岩を飛び越えたのだ。が、その先空中にルルは居た。
「え!?」
空中で咄嗟に方向を変える事の出来ないエリアはバタバタと暴れたものの、そのままルルの胸に飛び込んだ。
ぽよん♪
そのまま落ちる2人。
ドスン!
「あ痛たたた・・・」
どうにか体を捻って、ルルを庇う事は出来たが強かに背中を打ってしまった。
唸るエリアに抱き付いたまま「捕まえた」とルルは笑顔でエリアに告げるのだった。
☆
結局涼はエリアの身体能力を理解するのに3日、初歩的な修行に1週間掛かった。
リリ曰く「まだまだだけどね」らしい。
まぁ、そんなに簡単に剣術が身に付く訳が無いので当たり前だ。
そして、今日から本格的に魔法の練習に入る。
エリアの魔法に付いてアフィに聞いた所基本の魔力値は高い、修練が足りない、未知の力が作用している。だそうだ。色に付いてはアフィも知らず未知の力に付いても今考えても仕方ないので、魔法の基本を習得する事にした。(後は訓練有るのみ!)
今日の先生はボクッ娘美少女のルルである。
「ルルちゃんよろしくお願いします」と、お辞儀をすると「任せて!」と胸を叩いた。
リリはと云うとアフィと街に行っている。
「今日は2人だけだからね、ビシバシ行くよ~!」
いつも元気なルルだが、今日は更にやる気満々だ。
「ルルちゃん、私も居ますよ~」
寂しそうに訴えるララの声も聞こえない。
「さて、エリアはちゃんと魔力を感じられるのかな?」
「いや、魔力とは無関係の世界に居たからまったく分らないよ。昨日も何と無くだったし」と、手を振る。
じゃあ、と修練は最初に自分の中の魔力を感知する所から始まった。
「血や生命力とは別に体を循環してる力と云うか流れというか、そう言う物が有るんだけど・・・」
説明するが、今一つ要領を得ないエリアに項垂れる。
「魔力はこの辺から発生してるんだよ」
「わっ!?」
突然下腹部を触られて驚く。わさわさと動かされて少しくすぐったい。
「ルルちゃん?」
大丈夫、大丈夫とウインクで返す。
「この奥に何か感じない?」
触られたまま、くすぐったいのを我慢しながらお腹の中に意識を向けると確かに体の中に少し暖かい物を感じる。
「ここで生まれた魔力がじんわりと体中に広がるんだよ。で余った魔力が体外に漏れ出るの」
「何もしなくても体外に魔力を放出してるって事?」
お腹を触るのをやめて顔を上げたルルがその通り!と笑った。
・・・顔が近いです。
「その魔力を意図的に動かしてみて」
「わかった・・・」
目を瞑り意識を集中する。確かに下腹部にある暖かい感覚は分る、其れを動かすイメージ、イメージ、イメージ。
動いている気はするが、今一つ実感が無い。
「よしっ!じゃあ手を出して」
エリアが素直に両手を出すとその手を掴まれた。
「ボクが魔力を流すから、自分の中を魔力が流れる感覚を覚えてね」
ルルがエリアの顔を見上げて、にししと笑う。
その笑顔に一抹の不安を感じているエリアの手を自分の胸元へと持っていった。
えっ!?と驚いていると徐々に手が暖かくなる。右手から入る流れの感覚は体を巡り左手へと抜けていく。
無理やり流された魔力に全身がぞくぞくと身震いを起こした。
更に魔力の量を増やすルル、速く、大量に、全体に。
「ちょっとルルちゃん?」
2人の混ざり合った魔力が体中を駆け巡りルルの中に戻っていく。
暫くしてルルはエリアの手を握ったままにっこりと笑った。
「どう、感じた?」
エリアは額に汗を浮かべ肩で息をしている。異質な物が体を駆け巡る初めての感覚に未知の恐怖を感じたが、何かが体の中を流れる感覚は確かに感じた。恐ろしい程に。
無言で頷くエリアにルルは少し心配になる。
「大丈夫?」
「あ、うん問題無いよ。初めてだからちょっとビックリしただけだよ」と微笑んだ。
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