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第五十九話 『お互い出来る事をしただけですよ』

明けましておめでとうございます。

今年最初の投稿です。森の町カントでの話もあと僅か(本当は今回で終わるつもりでしたw)

今年もよろしくお願いします。

 町の広場でクリームの掛かったフルーツを食べていた2人と1匹。


 一緒に食べていたファムの口元に付いたクリームも拭き、序に機嫌を取る意味でも頭も撫でる。


 最初不機嫌だったが、徐々に気持ち良さそうに目を細め、表情が緩む。


 (かわいい・・・)


 その頃、恥ずかしさの淵から這い出したアガッタは、まだ顔を赤くしていたが平静を装い、外した串を拾いにいくエリアの後に付いて行く。


 パサ。


 串をゴミ箱に入れ、振り返るエリア。まだ少し顔の赤いアガッタにエリアは別の話題を持ち出して、話を変えた。


 大きな木の下に集まっている子供達、よく見れば木の上にも数人の子供の姿が有った。


 「あんな大きな木の上にも子供達が居るけど、大丈夫なの?」


 アガッタは恥ずかしさからエリアと目を合わさず、公園の中央の木を見た。


 「大丈夫だと思います。鳥系の子や木登りの得意な子達ですから」

 

 「そう・・・、行ってみようか?」


 明るく、アガッタの手を取って大きな木の方に歩いていく2人。


 アガッタは繋がれた手とエリアの顔を盗み見て、恥ずかしさに俯いた。 


 「アガッタさんは・・・」


 「!?」


 『ちゃん』から『さん』に変わった事に寂しさと優しさを感じて、複雑な気持ちになった。


 自分が余りにも恥ずかしがるから、気を使って変えてくれたのだろうと思うと申し訳なくもなる。


 今では町の人達とも気さくに接する事が出来る様になったが、最初は一線を引く者も多かった。


 アガッタの人柄も有って、2月もすればそんな隙間も消え去ったが、エリアはたった数時間でその隙間を埋めてしまった。それが嬉しかったし、『さん』付けになった事位でが寂しく感じている自分に驚いてもいたのだ。


 勿論エリアの心の内は違った。子供扱いと迄はいかないが年下扱いしていた事を反省していたのだ。


 成人した女性。しかも獣戦士としても自立している女の子に、会って間もない自分が馴れ馴れしくも『ちゃん』付け!更にはクチバシに付いたクリームを拭うという子供扱いとも取れる行為!!

 そして、今も手を引いて歩いている始末。

 その数々の行為に俯いてしまったアガッタに対し今、更申し訳ない思いが湧き上がったのだ。


 そう、節操の無い無自覚タラシである。


 「あ~!アガッタ様が手繋いでる!」


 子供達の声に、ぱっと手を離したアガッタがハッとなってエリアを見た。


 エリアは冷かされましたね、と微笑んで答え、其のまま歩き出した。


 手を離す切っ掛けをくれた子供にグッジョブ!とお礼を言いたいが、抑えて気に向かって歩き出す。


 木に近付くにつれ、子供達の様子も見えてくる。


 木の上に居たのは、アガッタの言う通り鷹や雀の獣人の子供で時折枝から枝へと飛んでいる。他にも目立つ大きな尻尾を持ったのはリスの獣人が器用に幹を登り、手の長いサルの獣人の子供が枝にぶら下がって、ブランコの様に揺れていた。


 「流石、獣人の子供達。身体能力が高いですね」


 そんな何気ない会話に、アガッタも平静を取り戻そうと答えた。


 「そうですね。子供達は5才にもなれば飛びますし、他の獣人の子供も確りと動ける様になりますから」


 「そんな物なのですね。でも、見慣れてない私には少し怖い光景です」 


 あははと笑った時、何かが落ちた!?


 子供達の悲鳴が劈く。


 目の端に見えた光景にアガッタは咄嗟に腕を翼に変化させた。


 (遠い・・・間に合わない!?)


 アガッタは刹那の時間の中其れを理解した。自分の能力ではこの距離では間に合わない。ならば落ちて怪我をした子供の傷の処置と回復魔法を使う事を考えてた。


 ドン!


 大きな音と衝撃が起き、其方へ目を向ける前に何かが飛び出した。


 落ちた子供への対処方法を考えていたアガッタより早く、エリアが空気の壁を跳ね除け飛び出していた。


 (間に合え!)


 身体強化魔法を使い、今出して良い速度を超える。


 ドン!ドン!


 抉れる地面と衝撃音、その足跡を置き去りにしたエリアは木の側で急制動を掛け軽くジャンプして空中でサルの獣人の子供を抱き止めた。


 空中で子供を抱え、安堵の表情で微笑むエリアを見てアガッタは呆け、声が出なかった。自分が諦めた事を軽々とやってのけたエリア。その姿に神々しい美しさを感じていたのだ。


 「大丈夫、降りるよ」


 トンと地面に降りたが、体勢を崩してしまったので、腕の中の男の子を庇い背中から倒れた。まだ、腕の中で震え泣いている子供の背中を優しく叩いて落ち着かせてあげる。


 「大丈夫、大丈夫」


 暫くして落ち着きを取り戻しだした子供を下ろして、怪我の有無を確認した。


 「エリア殿大丈夫ですか!?」


 横まで来て膝を付いてエリアの体を気遣うアガッタの頭を撫でて、大丈夫だからと微笑んで見せた。が、直ぐには立てない。


 突然全開の身体強化を使った反動で足が痙攣を起こして悲鳴を上げているのだ。


 これまでも身体強化の魔法は練習してきたが、行き成りの全力全開はまだまだ無理があった。


 「お姉ちゃん・・・」


 助けた子供やその友達だろうか、集まった子供達が心配そうにエリアを見ている。


 そんな子供達にも、大丈夫、大丈夫と笑顔で手を振って不安を与えない様にと心掛けた。


 「少し、ビックリしただけで怪我とかはしてないから」


 立つ事は出来ないが上体を起こして座り直す。さっきのジャンプもそうだが、今日はロングスカートの中にズボンを

穿いていて助かった。


 本当なら、すくっと立ち上がり駆け回って大丈夫だと見せてやりたい所だが、流石に無理そうで悔やまれる。


 「でも・・・」


 「じゃぁ、これでお茶を2つ買って来てくれるかな?」


 小銭を受け取った子供は、分かった!と走り出した。


 「エリア殿、本当に大丈夫ですか?」    


 今度はアガッタが心配そうに横に来て、エリアの手を握った。


 エリアは少し考えて、アガッタに現状を話した。そして、回復魔法を使おうとしたが、止められてしまった。


 「回復は私がしますから、御任せ下さい」


 アガッタはエリアの足に手を翳して集中する。


 「ハイ・ヒール」


 足の痙攣が治まり、見えはしないが鬱血も治って腫れも引いていく。  


 手で触り、痛みも疼きも無くなったのを確認して立ち上がった。


 トントン。


 地面を踏み鳴らしても、違和感は無かった。


 「ありがとうアガッタさん、助かりました」


 「いえ、此方こそ有難う御座います。エリア殿が居なければあの子は大怪我をしていました」 


 頭を下げ、不甲斐無さに沈む表情を隠す。そんな、アガッタの頭をふわりと撫でた。


 「そんな顔をしないで下さい。貴方のお蔭で私は助かったのですから」


 「でも、住民を守るのは私がやるべき事なのに、エリア殿に怪我までさせて・・・」


 エリアは落ち込むアガッタの頭をぽんぽんと叩いて微笑んだ。


 「お互い出来る事をしただけですよ。私があの子を助け、アガッタさんが私を助けた。ただそれだけの事です」


 「はい・・・」


 アガッタは直ぐに諦めて、落ちた後の事を考えた。その事で反応が遅れ、全力も出てなかった。その事を恥ずかしく自分を責めている。

 だが、その考え自体は悪い事ではないのだが、目の前で自分が諦めた事をエリアはやり遂げたのだ。自分の怪我も顧みず。


 アガッタは出来ない事を、出来なかったと悔やんでいる。どうしようもない事だと自分でも分かってるのだが自分で折り合いの付けられない感情が滲み広がる。


 暗い顔をするアガッタ達の元にお茶を買って来てくれた子供が帰って来た。


 「お姉ちゃん、買って来たよ!」


 既に立ち上がっているエリアを見た子供が嬉しそうにやってくる。


 「ありがとう」


 エリアは受け取ったお茶をアガッタにも渡して、一気に飲み干した。


 「お姉ちゃん、もう大丈夫?」


 しかし、先程まで立ち上がれなかったエリアを心配した子供が不安そうに見上げている。


 そんな子供にエリアはトントンと軽いフットワークを見せると、その場で飛び上がり後方宙返りをして見せた。


 「この通り、獣戦士のアガッタ様が魔法で治してくれたから大丈夫だよ」


 ぱぁっと子供の表情が晴れ上がる。


 「アガッタ様ありがとうございます!」


 他の子供達もアガッタの魔法を称え、それをエリアが煽った。


 「アガッタ様は強くて、賢い上に魔法も凄いんだよ。それに優しいし、凄く可愛いんだぞ」


 「え、あの・・・」


 エリアの言葉に戸惑うアガッタを取り巻き、子供達が羨望の眼差しで見上げ、その輝く瞳にアガッタは目を逸らした。


 「私の怪我に負い目を感じていたこの子の心を救ったのは貴方なんですよ」


 「エリア殿・・・」 


 「さて、行きましょうか」 


 エリアは幼子を気遣う様に、手を取り歩き出した。

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