第五十八話 『アガッタと昼食を』
フクロウの獣人アガッタちゃんとのデートは続く。
森の町カント散策も後2話です。
畑仕事が思ったより時間が掛かってしまったので、外壁に近いコルゼダの畑から市場に戻りながら散策していると、市場に着いた頃にはお昼となっていた。
く~、と小さくファムのお腹が空腹を主張する。
エリアは恥ずかしそうにしているファムに微笑んで、アガッタにオススメのお店を紹介して貰って昼食を取る事にした。
「ここは、休日にアンジェリーナ様達共良く来るお店なんですよ」
そんなに大きな店ではないが、中は客も多く活気に溢れ、そんなテーブルの間を給仕のウサ耳の2人が慌しく料理を運んでいる。
香ってくる香りは香ばしく食欲をそそり、どの顔も楽しそうで雰囲気の良い店だ。
開き戸を押しのけ、中に入るとウサ耳の1人が此方を見て、パッと顔を輝かせた。
「アガッタ様!」
「こんにちは、2人と猫ちゃんが一緒なんだけどいつもの席は空いてるかしら?」
「此方にどうぞ~♪」
若い方の給仕が奥の4人掛けのテーブルへと案内してくれた。仕切りで遮られている此処はアガッタ達が良く通される席らしい。
「これとこれを、エリア殿はお酒を飲まれますか?」
「いえ、何か他の物で」
「ではマカル茶を2つ」
「あと、苦手な物は有りますか?」
「良く分からないのでお任せします」
「分かりました。では今日のオススメを2つと小皿を1枚お願いします」
「分かりました!」
石蝋で注文を書いてウサ耳少女は元気良くカウンターに戻って行った。
濡れタオルで手を拭いて、ファムの足も拭いてあげる。
その後はアガッタからクオリオンやカントの話を聞きつつ、運ばれて来る料理を待った。
「来ましたね」
テーブルに並べられた料理はどれもおいしそうで、特に焼いた肉の食欲をそそる香りが堪らない。
「それでは頂きましょうか」
そう言って、姿を変えたアガッタを見てエリアは驚いた。梟少女が絶世の美少女に変わったのだ。
エリアが見惚れて、呆けているとアガッタが少し恥ずかしそうに微笑んで此方の方が食べ易いので、と口元を指で指した。
その仕草も可愛く、思わず顔を赤くしてドギマギしているとファムに爪を立てられた。
梟の魔人モウラと違い獣人の変身は特殊能力で、今の様な人に近い姿に変身出来る。
ただ完全な人の姿では無く、何処かに獣の特徴が残る様でアンジェは耳と尻尾、アガッタは前腕の手首から肘までと背中に羽毛が残っている。そして何故か梟顔の時には無かった羽角が頭に生えていた。
だが顔は完全に人間のそれで、しかも超が付く程の美少女なのだ。
そんなアガッタの姿を盗み見ようと男共がザワザワと五月蝿い。
(仕切りの隙間からしか見えないのに・・・だが男としては分からなくもない、いや!分かる!)
前世でも見た事の無い程の美少女なのだから男達が舞い上がるのも仕方無いと思う反面、自分がそれ程そう言う気持ちにならないのだ。
同居していたララや周りの美しい人達やこの姿に慣れた所為だろうかと考察して、少し気持ちが沈んだ。男としてどうなんだろうと。
「すみません、食事の時は何時もこうなので」
エリアが騒がしい外野に気分を害したのかと、慌てて謝るその姿まで可愛くてほっこりする。
「いえ、可愛らしいアガッタちゃんが見られて嬉しいです」
ぽろっと出た素直な言葉にアガッタが赤面した。
「あ、あの・・・」
エリアも自分の言葉に慌てる。
「ああ!?すみませんアガッタ様、可愛らしい仕草につい・・・」
「いえ、その、別に嫌とかではないと言うか、嬉しいと言うか・・・」
徐々に声が小さくなり、シュ~と云う擬音が聞こえそうな程顔を赤くして、小さくなって行く様に見える。
そんな2人を見ていたファムが呆れた様に、なぁ~と鳴いてお互い顔を上げファムを見た。
ファムは頬を膨らませ、不満そうにぺしぺしとエリアの頬を可愛い肉球で叩く。2人はそんなファムにフッと笑い会い、食べましょうか?と食事をする事にした。
森の町カントの料理は肉と野菜、果物がメインだ。パンも有るが硬い。
そんな硬いパンを肉と野菜の濃厚スープに付けて食べるアガッタに習ってエリアも食べてみる。
「美味しい・・・」
染み込んでパンの中を軟らかくした濃厚スープが噛む毎に染み出して美味い。これは軟らかいパンでは逆に物足りないかもしれないと感じた。
「硬いパンもこうすれば美味しいですよね」
少し砕けた感じになったアガッタは、本当に美味しそうに食べている。
新鮮なサラダは勿論、香草で味を付け焼いた肉も美味しいが、塩が極々少量で物足りないと感じた。
肉そのものは絶品だし、香草も合っている。だが、クオリオンは海に面していない為、塩は高級品で中々使えないらしい。岩塩でも採れれば良いのだが、それも少ないそうだ。
エリアはカレーを作った時に仕入れた香辛料を持って来ているので、こっそり塩を掛けてみる。
(うん、やっぱり塩が合う!)
もともと美味しい肉が更に美味しくなってご満悦なエリアを見て、アガッタが微笑んでるので御裾分け。
(これ、試してみる?)
エリアは自分の肉に塩を振って、一口大に切って薦めた。
その肉を躊躇いも無く口にしたアガッタは口元を隠して驚いた。
「美味しい」
(これって、塩ですね?)
(正解。凄く美味しいけど、味が1つ足りない感じがしたの)
エリアは塩の瓶を出して、良かったらとウインクした。
更に美味しく、楽しい昼食も終わり店を出た2人と1匹は、そのまま商店を見て回っる事。
色々な木の看板が並ぶ商店街。食堂だけでなく色々なお店が立ち並ぶ通りを一軒一軒覗いて、アガッタに説明して貰った見た事の無い食材を少しづつ購入。更に見た目懐かしい食材も購入して村の散策に戻った。
西に広がる農場から南の商店、そして今は東の住宅街とやって来た。
木造の家々が乱雑に立ち並ぶ区画と綺麗に並んだ区画で分かれた住宅街は前者を旧区、後者は新区と住民は呼んでいる。
アガッタの説明では、新区には昔ながらの獣人が多く、旧区には新しく来た獣人や人間、魔人が多いのだそうだ。
「クオリオンも周辺国と同盟を結んでから獣人以外の移住者が増えましたから、街を広げた時に新しい住宅と畑や農園を増やしたんです」
アガッタは住宅の境界線を指指してなぞり、町の歴史を説明してくれる。
「じゃあ、100年も経ってない無いんだ」
「そうですね、クオリオンは南のエルトリアに次ぐ古くからの同盟国ですね」
「ふ~ん、国王様は随分早い判断をしたんだね」
感心しているエリアに、アガッタはそれは違うんです、と少し得意げに語り出す。
新興国のファニールと最初に条約を結び和平を結んだ海洋交易国エルトリア。この貿易の国はこれまでの小競り合いが無くなり安全な交易路確保と販路拡大になるのならばと即座に和平交渉を行い、お互いに有益な同盟を結んでいる。
そして、獣王国クオリオンはと言うと国王では無く神獣様のお告げで同盟を結んだのだそうだ。
「神獣様ですか?」
「はい、クオリオンの守り神、神獣アルティキュアス様です」
「アルティキュアス様・・・」
「はい、正確にはクオリオンの守り神ではなくこの大森林と其処に住む獣の神様なんですけどね」
「へ~、ってもしかしてこの森で狩りをしたら、ダメなのかな?」
エリアはこの森に入ってから、食糧確保の為、自身の安全の為に動物や魔獣を狩っている。
「いえ、普通の狩猟は自然の営みなので、問題有りませんよ。種を滅ぼす様な殲滅や森を消失させる様な事をしなければ大丈夫だと思います」
アルティキュオスは自然の摂理から逸脱する様な事をしなければ大丈夫だと聞いて、エリアは密かに胸を撫で下ろした。
少し考えれば当然の話で、もし狩りがダメならこの森では肉食獣は生きられないし危険な魔獣は増え放題って事になってしまう。
「アガッタちゃんはアルティキュオス様に会った事有るの?」
「アガッ・・・」
慣れないちゃん付けに戸惑うも、コホンと咳払い1つしてアガッタは気を取り直した。
「私は会った事は有りませんが、会えない訳ではないですよ。実際オドリック様は会った事が有ると言ってましたから」
「へぇ、親しみ易そうな神獣様だね」
「まぁ、獣の守護神様ですから恐れ多くて気軽に会いに行く、って訳には行きませんけどね」
「へぇ~、そうなんだ・・・」
(私、女王の使いで会いに行くんだけど大丈夫かな~)
「嘘か真か大昔、悪い事をした国が壊滅しかけたなんて話も有りますしね」
取り敢えず、怒らせない様に気を付けようと心に誓ったエリアだった。
住宅街の近く、広場の入り口に屋台の様な物が並んでいたので果物を冷やして串に刺し、クリームを掛け砕いたナッツをトッピングした物を2つ買って隣の公園の様になっている場所に移った。
しゃく・・・。
口の中に冷たい酸味と甘味がふわっと広がる。
「美味しいですね、それに冷たい」
その感想に、ふふっと嬉しそうに笑みを零す。
「あの店主は見ての通り、獣人ですが奥様が人間の方で氷の魔法を使えるそうです」
「その氷で冷やしてるのね・・・」
エリアは子供達に果物を売っている店主を見た。すると横にやって来た女性と親しそうに何か話して抱き合うと何かを受け取って分かれた。
「まさにベアハッグ・・・」
そんな冗談を言いながらもその光景を微笑ましく見ていた。
さらさらと流れるそよ風。そろそろ暑くなって来た季節の日差しを浴びながら冷たい果物と穏やかな時間にエリアは平和を感じていた。
エリアは取り出したカップに飲み物を入れてアガッタに渡した。
「有難う御座います」
カップや飲み物を取り出した事もそうだが、一口飲んでその味にも驚いた。
「美味しい・・・それに甘くてさわやかです」
旅に出る前に作って冷やして置いたハチミツレモンジュースモドキだ。
「酸味の強い果汁とハチミツで作ったの」
「それだけなんですか?」
「簡単でしょ?」
「はい、これならカントでも作れますね」
「氷魔法が使えるなら尚良いしね」
「でも良いんですか?レシピを教えちゃって」
心配そうにエリアを見るアガッタから、カラのコップを受け取ってエリアは微笑んだ。
「料理をする人なら、簡単に再現出来るからね」
「でも・・・」
こんな表情のアガッタも可愛いと、心の中で思っていた。
その思いが、ついつい行動に出ていた。
アガッタの頭を撫でていたのだ。
「ふぁ!?」
「ああ、ゴメン・・・」
少しの沈黙。
「本当、気にしないで」
エリアは優しく言うと、持ってた串をくるくると回してゴミ籠に投げた。
くるくると弧を描く串は籠の縁に当たったって、外に落ちた。
「あら~・・・」
立ち上がり、串を拾いに行こうとしたエリアの横をもう1本の串が舞う。
くるくると同じ様に弧を描いたが、エリアの時と違って既に外れる事が予測できた。がその予測は外れた。
一陣の風が串を籠の中に押し込めたのだ。
驚いてアガッタの方を見ると、私の勝ちですねと笑ったのだった。
エリアはそんな勝ち誇って微笑むアガッタの頬を左手で押さえた。
ドキッとして身を強張らせ、頬を赤くしているアガッタを見詰めるエリア。
エリアの右手が動いた瞬間、目を閉じたアガッタのクチバシをハンカチで拭いた。
慌てて最後の1口を食べたアガッタのクチバシにクリームが付いていたのだ。
「ーーーーーー!?」
その事を理解したアガッタは更に赤くなった顔を両手で覆い、しゃがみ込んでしまったのだった。
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