第五十二話 『荷物を取りに戻ろう』
獣王国クオリオン編、第二話です。
翼猫のファムとの2人?旅です。
まぁ、後々旅の友は増えるのです。
街道をカントの町に向かって走り始めて数分、エリアの目の端を何かが過ぎった。見れば馬車の上、大きな鳥が飛んでいる。
(あれは?)
人程の大きな鳥は此方をチラリと見たと思ったら、そのまま前方へと飛び去ってしまった。
「どうかしましたか?」
ビノがエリアの視線を追ったが其処にはもう何も居ないので疑問に思った様だ。
「鳥が見えただけよ」
「こんな暗いのにですか?」
「見間違いかもしれないけどね」
不安を煽らない様に大した事じゃないと話を終らせた。
それから30分程経って事態が動いた。正面から何かが近付いて来ていると、兎の獣人、あのロリコンに見られてた子が体を強張らせ恐る恐る前方を指差した。
「何か来る!」
ロッテも何かに気が付いて前方に目を凝らした。
「何か来るね。それも複数・・・」
どうしようかと悩んだが、どうしようもないな、と諦めたエリアの頭をてしてしと叩いて、前を指す。その様子に緊迫も動揺も感じなかったので、このままの速度では危ないからとエリアは馬車の速度を落とさせた。
程無くして、目の前から現れたのは数騎の騎馬だった。
先頭を進む大きな影、それは近付くに連れ全容が見えてきた。
大きな角を持つ水牛、その水牛に跨るのは・・・カバ!?
鎧を着たカバの獣人、その後ろには馬に乗った戦士が3人。
「そこの馬車、止まりなさい!」
空気が揺れるほどの大きな声が、星明りの照らす街道に響く。
ノーザは用心して相手と距離を取って馬車を止めた。
「貴方は誰ですか?」
ビノが聞き返した時、横のロッテが笑顔で飛び出した。
「アンジェリーナ様!」
(アンジェリーナ様?)
「ロッテ!本当に?」
確認を取るビノに、カバの獣人は水牛を降りてゆっくりと此方に歩いて兜を取った。
「ビノだな、私だ!アンジュだ!」
星明りの夜の街道でも視認出来るまで、ゆっくりと近付いて両手を広げたその姿を見てビノとノーザが目の端に涙を浮かべ、安堵の笑顔を零した。
「エリアさん、味方です!カントの獣戦士長のアンジェリーナ様です!」
「そう、良かったね」
子供達の様子から味方だろうと、馬車を降りてアンジェリーナ達を見る。
「人間・・・!?」
アンジェリーナの後ろの戦士の1人があからさまな敵意を向けてくる。
「エリアさんは私達を助けてくれた命の恩人なんです!」
戦士の敵意に敏感に反応したノーザがエリアの前に出て、説明してくれた。
「危険を冒してまでわざと捕まって、私達を助けてくれた方なのです」
ビノもエリアを庇う。
エリアも敵意の無い事を両手を上げて真っ直ぐアンジェリーナを見た。
目が合う2人。
アンジェリーナはエリアの人柄を見極め様と鋭い視線を送っていたが、不意に軟らかくなって礼を持って答えてくれた。
「失礼しました。私はカントの町の獣戦士長アンジェリーナ。この度は子供達を助けて頂き真にありがとうございます」
「いえ、人として、同じ女性として見過ごせなかっただけですから」
(まぁ、中身は男ですけど)
「そうですか。このまま立ち話もなんですし町に戻ってお話しを聞かせて貰えないでしょうか?部下の無礼もお詫びしたいし、民を助けて貰った御礼もしたいので」
キリリとした表情で、胸に手を置き礼を尽くすアンジェリーナの申し出だったがエリアは首を横に振った。
「いえ、先程も言った通り当然の事をしたまでなので」
「ですがこのままお礼もしないままでは我が獣戦士隊の面子にも関わりますし、国王にも怒られてしまいます」
国王にしたらこんな辺境と言える場所での些事等気にしないとも思ったのと、エリアにも都合が有るのだ。
「お構いなく、それに急ぎの用事も有りますし」
「エリアさん、私達もお礼がしたいので取り敢えず町に行きませんか?」
ビノや他の子達がお願いするが、それも断った。
「ありがとう、でも良いわ」
「どうして!?」
子供達は全員がエリアも一緒に来るものだと疑っていなかったのだろう。
「私、あいつ等にちょっと用事があるので、後の事は御任せしますね」
エリアはアンジェリーナにそう言うと、寂しそうに見詰めてくるビノの頭を撫でた。
「あいつらの所に一人で戻るのですか!?」
ビノは不安そうにエリアを見上げる。
「うん。追い掛けられても困るし、どうせまた子供を攫うだろうからね。ちょっと懲らしめてくるよ」
それに背負い袋も取り戻したい。
「1人で戻るなんて危険です!いくらエリアさんでも武器も無しに・・・」
本当に心配そうにエリアを見る子供達に、ふふん♪と余裕の顔をみせた。
「多分大丈夫!」
そう言うとエリアは外套を外して空に投げた。
次元倉庫の指輪を貰ってから毎日練習していた技が有る。オタクな親友から見せられた特撮ヒーローからヒントを得た技だ。その技をやっとお披露目出来る!
最初に思いついた技名は接着剤の様だったので、止めてこう名付けた。
「瞬装!」
そう唱えた瞬間、エリアに武器と鎧が装備されていた。この間、0.001秒!
因みに技名は叫ばなくても使える。
落ちてきた外套を取り鎧の上から羽織る。
「ね、これなら大丈夫でしょう?」
ぽかんと呆気に取られてる子供達。獣戦士達も同様に驚いてる。
「私、これでもC級冒険者だから安心して」
・
・
・
自信満々だったが反応が無く、恥ずかしくなってきたエリアが頬を赤くして視線を反らす。
「かっこいい・・・」
子供達の誰かがポツリと呟いた。
「凄い!?」
「かっこいい!」
「今の魔法?」
突然の子供達の反応に気圧されながらも、次元倉庫を使った技で有る事を説明しつつ声を抑える様に宥めた。
「ま、まぁそう言う事だからちょっと行って来るね」
エリアは側にいた兎の女の子の頭を撫でた。
「待て!」
元来た道を戻ろうとしたエリアをアンジェリーナが止めた。
「私達も一緒に行こう」
「え、でも子供達は良いの?」
「部下に任せれば大丈夫だ」
「でも私そこそこ足早いですよ」
「それも問題ない」
アンジェリーナはそう言うと、姿を変えた。その姿は人間其の者の姿でとても美しい20代半ばの女性の姿となった。夜でも煌く美しい金髪に蒼い瞳の美人だ。しかも頭の上の小さな耳がピコピコ動いていて、とても可愛い。
(かば耳かわいい・・・じゃなくて、人間の姿の方が足が速くなると言う事だろうか?野生のかばは結構速かった筈だけど確か時速30キロ位だっけ?)
「本当に着いて来るんですか?」
「当然です。そもそもこれは私達の仕事なのですから」
そう微笑んだ仕草も美しい。
「ロクサーヌとクィナは子供達を町まで護衛して下さい。エルザは私ときて下さい」
3人は敬礼をして、復唱すると行動に移った。
そして、エルザと呼ばれた騎士は獣人の姿から動物のそれへとその姿を変える。
トムソンガゼル。鋭く長い2本の角を持つ草食動物だ。
「急ぎますので、遅れる様なら置いていきますよ」
「ええ、お好きに」
相当自信が有るのだろう、アンジェリーナは子供達に洞窟の場所を聞いていた。
「お姉さん!?」
大丈夫だからと、後ろ手でビノ達に手を振ると、エリアは夜の闇の中を駆け出した。
走り出して数分、闇夜の森の中を駆け抜けるアンジェリーナ。だが、その前方にはエリアの姿は無い。
(そんな、私が人間の、それも女の子に走り負けるなんて・・・)
昼間なら此処まで離される事は無かっただろうが、エリアは逃げる時に戻る事を考えて通った道をマッピングしていた。そのストリートビューの様な地図を脳内で再生しているお蔭で一切の躊躇無く走り抜ける事が出来ていた。
(アフィに教えて貰った脳内マップの魔法は優秀だな)
街道から獣道に入ってからはその差は歴然で、暗さと足元の悪さで全力が出せないアンジェリーナはエリアの姿を完全に見失っていた。
エリアが人攫い達の洞窟に辿り着いて数分、中の様子を伺っているとアンジェリーナがやって来た。
ハァハァハァ・・・。
明かりも無く、足元の悪い道を走って来たのだ、疲労はかなりの物の筈だ。
「アンジェエリーナ様、大丈夫ですか?」
「こ、この暗闇の中あんな速度で走れるなんて・・・」
本当に人間?と疑う様な目で見てくるアンジェリーナは、息を整えつつ洞窟に目をやった。
少し空も白染んで来ている洞窟では誘拐した子供達が居ない事に気が付いた男達が騒いでいるのが微かに声が聞こえる。
「まだ、中に相当居るみたいね」
「途中で斥候を2人捕まえてますが、最低11人は居ると思います」
「え!?」
「囚われている間に洞窟内に居たのが13人だったので」
「そうじゃなくて、斥候が居たの?」
「はい、先に追いかけて来たのでしょうね、街道に向かっていたので倒して拘束しておきました」
振り返り、エリアを驚いた顔で見た。足には其れなりの自信が有ったのだが、これだけの差を見せ付けられた上に、斥候まで倒していたとはアンジェリーナは世の中は広いと思いつつ、エリアに実力に興味と驚異を感じていた。
「・・・そ、そう」
戦士長としての自信が少し揺らぐ。
「アンジェリーナ様、大丈夫ですか?」
「・・・アンジェで良いわ」
「え?」
「私の名前、長いでしょ。だからアンジェって呼んで」
「そうですか、ではアンジェ様、私もエリアと呼んで下さい」
「・・・分かったは、ではそろそろ行きましょうかエリア殿」
そうですね。と言ってエリアはスリープの魔法を唱えるのだった。
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