第五十一話 『旅の始まりは人攫いから』
LUCIOLEと言います。『アストラル・ライフ』第二章 獣王国クオリオン編、開始です。
と言っても、まだ3~4話だけですが。
前回と違って書き終わってからの投稿で無いので、すこぶる時間掛かると思います。
クオリオン王国に入って4日が過ぎていた。街道は途中で消え、今は鬱蒼とした森の中、獣道と思われる跡を翼猫のファムと一緒に歩いている。まぁ、ファムはエリアの頭の上なのだが。
一応道は続いているし、問題は無いのだが森の中に変わりは無くどうしても歩みは遅くなっている。
「ねぇ、ねぇファムちゃん、この花凄いね!」
人の背丈ほども有る白百合の様な綺麗な花が1輪咲いていて、近付くエリアをタシタシとおでこを叩いてファムが必死に止めている。
しかし、所詮は小さな猫。どんなに翼をはためかせてみてもエリアを止める事が出来る筈も無く、手が届きそうな距離に近付いた時その綺麗な花が牙を剥いた。
ガチンッ!
先程までエリアの居た空間を正に牙の付いた花弁が噛み付いたのだ。
「おお~!食虫植物だ~」
「にゃ~!にゃ~!」
軽く飛び退いたエリアがファムを抱えながら、その食虫植物を観察している。
「アナライズ」
【ブラディー・リリー】
~白百合に似た巨大な食虫植物。近付いた人や動物を捕食する。捕食すると獲物の血で赤くなる~
「うん、まぁ知ってる」
『アナライズ』はゲームの鑑定魔法等と違って、見た目からの予測値と知識の再確認が出来る魔法だ。特筆すべきは一度得た知識なら例え本人が忘れていたとしても、問題なく思いだせる魔法と云うこと。
この世界に召喚された葛城涼が最初に使った魔法でも有る。そして、今はこの魔法にオリジナルの改良を加えた。それは相手の情報が自分にだけ見えるシステムボードだ。任意で空中に立体投射の画面が出せて、そこに対象のデータが表示する事が出来る。
といっても情報は頭の中に入るので雰囲気を楽しむ為だけのものだが。この改良で葛城涼はこの世界の魔法の可能性を見出したのだ。
魔法はイメージ。最初からルルやアフィが言っていた言葉だ。
「まぁ、こんな場所ならそのままにしていても大丈夫かな?」
周りを見回して再確認。回りは鬱蒼とした森、此処を通る者は人っ子一人いやしない。
「こんな獣道じゃ・・・」
一応馬車も通れるぽいが、痕跡が古過ぎる。
そんな鬱蒼とした獣道だった筈なんだがな~。
今、エリアは両手を縛られて、馬車の檻の中にいた。檻の中には他に獣人の子供や女性が囚われている。
(やっぱりこういう事も有るんだな・・・)
エリアは、いや葛城涼は今まで自分がこの様な事態に巻き込まれる事はなかった。
町の外では冒険者として動いていたし、それ以外では1人で行動した事が無いので獣人の子供が誘拐された現場を見た事は有るが、自分が捕まる事など無かったのだ。
エリアの横に倒れている小さな女の子が、声を殺して泣いている。顔に殴られた痕が有るので、泣き喚いたのを殴って止めたのだろう。腫れた頬が痛々しい。
他の子達も目を真っ赤にしているが声を出していないのは、この子の様子を見て怯えてしまったのだろう。
恐怖で動けないのか、諦めてるのか・・・。
良く見ると、所謂草食獣の獣人ばかりだ。
(いや、あの子は猫科かな?)
殴られた子が嗚咽を漏らしていると、その声も気に入らないのか檻を叩かれ幌が空けられた。
「五月蝿いぞ!泣くんじゃねぇ!」
ガンッ!と檻を剣で殴って脅してまた幌を閉じた。
エリアは黙ってやり過ごすと、小声で少女に話しかけた。
(声を出さないでね)
エリアは体を動かして、後ろ手に縛られた手を少女の頬に翳すと魔法を使った。練習を重ねた回復魔法だ。
怪しまれない様に取り合えず、痛みと晴れだけ回復しておく。
痛みが消えた事に驚いた少女がエリアを見たが、声を出さない様に目配せした。
獣人の子供を乗せた馬車がゆっくりと森の中を行く。道が悪いので速度が出せない事に苛立ちを募らせてる男達が子供に危害を加えないのがせめてもの救いだろうか。
しかし、悪路の所為で御尻が痛い。
そんな御尻の痛みに耐えながら夕刻には何処かの洞窟に辿り着いた。エリア達は馬車から下ろされ、今度は洞窟の中に作られた檻に入れられる。
床が岩の地肌其のままで、やっぱり御尻が痛いが、揺れが無いだけましだった。
洞窟の入り口は馬車が入れるほどの大きさが有り、即席の檻も3つ有った。エリア達の外に2つ檻の中に子供や女性が囚われているのが見える。
洞窟の奥に男達の部屋が有り、其処に約9人、外に2人、入り口の側に2人の気配がする。
(ファムちゃん、聞こえる?)
(にゃ~)
こんな時まで猫のマネって事は何か制約でも掛けられてるのかな?
(取り合えず夜になるまでこのまま待つから、ファムちゃんも見付からない様に気を付けてね)
(にゃ!)
ファムはエリアが捕まった時に直ぐに森の中へと駆け出して逃げていた。その後見付からない様に空から追跡して、今は洞窟の上に身を潜めていた。
会話は所謂念話ではなく、アイテムのお蔭だ。
ファムがエリアとの別れ際に渡した御守り。これには近距離なら念話の様に会話が出来る機能が有ったのだ。
森に入った直ぐ、頭にファムの声が聞こえた時は、本当にビックリしたものだ。
さて、このまま何も無ければ夜になるまでは暇なので、男達の事を探りつつ子供達と話をする事にした。これも情報収集の一環だ。
「みんな、怪我とか大丈夫?」
勿論、男達の気に障らない様に小声で話す。
子供達は警戒してか、黙ったままコクリと頷いた。
「えらいね。あの男達って何者か知ってる?」
ふるふると首を振る子供達。まぁ、そうだろうね。
「私達を誰かに売るって言ってました」
そう言ったのは馬車の中で回復魔法を掛けた子だった。
頭の上の耳と2本の角、その形からヤギの獣人だろう。
その子の『誰かに売る』という言葉に他の子供の不安が再び沸き上がる。
「大丈夫、お姉ちゃんが助けてあげるから。だから今は大人しくしていてね」
皆の恐怖心を和らげる為、優しく話し、微笑み掛けた。
「私の名前はエリア。あなた達のお名前を聞かせて」
その後は子供達の身の上話や、この国の事等を話して気を紛らわす。
程なく粗末な食事を運んで来た男が、嫌らしい視線を向けてきて身震いした。
女性でもするだろうが、中身は男なので、別の意味で悪寒が走る。と思っていたら、もう1人の男は小さな兎獣人の子に同じ様な視線を向けていた。
!?
(いやいやいや、こいつロリコンだ!)
こんな奴らから早く助けなくては。密かにエリアの怒りが沸々と湧き起こる。
食事から1時間程経って、奥の部屋から酒盛りの声が聞こえる。そして、目の前の見張りも酒を飲みだした。
女子供だけだし、檻の中だと完全に舐めきってくれてこっちとしては好都合だ。
エリアも捕まった時は、動き易い様に鎧は着てなかったし、唯一持っていたナイフも見付かる前に次元収納に隠した。
バックは取り上げられたが、隠蔽魔法で隠してた指輪は其のままだ。
そうこうしている内に見張りも居眠りを始め、奥の声も小さくなっていた。
この世界の人間達は寝るのが早い。酒こそ入っていないが入り口の2人もうたた寝をしている様だし、後2時間もしたら逃げ出そうとエリアは決めた。
「皆、夜目は効く?」
獣人達は目が良い。特に哺乳類系は良い筈だ。
「大丈夫です」
気丈に振舞っている山羊の獣人。名前はビノだと教えてくれた。
「じゃあ、夜中まで皆大人しくして体力を温存しててね」
皆は静かに頷き、時を待った。
真夜中、見張りの2人は既に夢の中。入り口の2人も片方は既に眠っていたが、もう1人が起きていた。が、まぁ問題ない。
エリアはイメージする。吸い込めば一瞬で眠りに誘うクロロフォルムの様な空気。
「スリープ」
少し経って、スリープが入り口に届くと見張りの男の力が抜け、眠りに着いた。一応目の前の見張にもスリープを掛けてより深い眠りに落ちて貰う。
次に手枷を次元倉庫に収納する事で外すと他の子供達の手枷も収納していった。
錠前も同様に収納。
いや、次元倉庫便利過ぎでしょう。とか思いながらそっと扉を開ける。
「じゃあ、手筈通りに」
比較的大きな子に前もって脱出計画を話していて、その通り動いてもらう。
馬車を扱える子に馬車で逃げる準備をして貰い、その間に他の檻に囚われている子供たちを救出するのだ。
檻の前に行くと、声を出さない様に口の前に人差し指を立てってウインクする。
錠前を収納して、そっと扉を開けると小声で馬車に乗る様に指示をした。
2つの檻を開放し、他に誰も残って無い事を確認するとエリア達も馬車へと乗り込んだ。
手綱を取っているのは馬の獣人娘のノーザ。馬と会話して出来るだけ静かに洞窟の外へと歩き出した。
「にゃ~!」
洞窟を出た所でエリアの胸に飛び込むファムを抱き止めて、無事合流。静かに、安全に、急いで逃げる。
漆黒の闇の中、御者の横に付いた猫獣人のロッテが細かく指示を出している。そのお蔭で真っ暗な森の獣道を普段の速度で進んでいる。
30分程して、手綱を取るノーザが話し掛けてきた。
「あの・・・このまま馬車で逃げるより自分達で走った方が早く村に着くのでは?」
前を向いたまま、おずおずと提案してきた。
「それはどういう事かな?」
確かに、月明かりが有るとはいえ夜の闇の中、馬車は大した速度は出せないがそれでも小さな娘を連れて月明かりも届かない森の中を進むのよりはマシだと、普通に考えていた。闇に包まれた森は怖い。
「このまま馬車で道を進むより、降りて森の中を走った方が真っ直ぐ村に向かえるし、あいつ等も追って来るのが難いと思うのですが」
山羊の獣人の娘ビノの言う事も分かるが、と思ったところであっ!?と何かに気が付いた。
「ねぇ、この中に夜目の利かない子は居る?」
御者の2人と馬車の中の12人の内3人がおずおずと手を上げた。
「逆に夜の森の中を走るのが得意な子は?」
此方もおずおずと3人が自信無さそうに手を挙げ、別に5人が自信満々で手を上げた。その内の1人がおずおずと手を上げた1人に大丈夫「何時もと変わらないよ!」と励ましている。
彼女達は獣人だ。しかも哺乳類系ばかり、まだ子供だから慣れてないだけで夜の森での移動にも強いのだろう。
だが、まだ懸念は有る。
「最後に、この森に人を襲う様な魔獣や猛獣は居る?」
この質問で、みんなの体がビクリとなった。
「居るんだね」
それに小さな子達は不意の風の音や葉の擦れる音にも過敏に怖がっている子も居る。
「このまま進んで街道に出よう。広い道なら少しは安全なのでしょう?」
「そうですが、このままでは・・・」
そう言うと、闇に?まれた虚空を見詰める。その瞳には何も映ってはいないものの、何かに追われる恐怖を感じている様だった。
エリアは馬車の中で、夜目の利かない3人を中心に三つのグループを作った。もしもの時、少しでも混乱せずグループで逃げる様にだ。
だが、そんな心配を余所に馬車は無事に街道出たのだった。
(こんな所に、こんな街道が有ったのか~)
普通に馬車が行き交う様な広い道を、この国に入って始めて見たエリアは一人何かを納得していた。
「ここからだと、左に向かえば猫系獣人の村ドリトに、右に行けばカントの町に着きます」
「どっちに向かう方が良いと思う?」
エリアの問いにビノや他の子達は顔を見合わせて、ドリトの方が近いですが、カントの方が人も多く守りも硬いと教えてくれた。ならば迷う事は無い。
「じゃあ、カントに向かいましょう」
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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