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第五話 『ソウル・イーター』

 「魔人族?」


 葛城涼の元居た世界では魔人族と言えば人間と敵対している物が多いイメージである。勿論ゲームや漫画等のメディアの影響だが。


 「ええ、牛角族よ。ハーフだけどね」


 自分の角を指でなぞってホウ・シュウメイは自己紹介をする。


 なるほど頭の横に小さな角が付いている。


 「魔人族の方は初めてで・・・すみません」と、頭を下げた。


 顔を上げると目の前にホウの顔が有った。驚き焦って仰け反るエリアの顔をマジマジと疑いの目で見たが、何も無かった様に「かわいい」と笑ってララに向き直った。


 「で、ララちゃん今日はどうしたの?」


 カウンターに戻ると椅子に腰掛け長いキセルにタバコの葉を詰める。


 「ご主人から、商品の納品を頼まれました~」


 「あら?今回は少し早いわね」


 そう言いながら指先から小さな火を出してタバコに火を着けた。


 「少し入用になりましたから~」


 ホウはエリアを見ると納得して買取金額に少し上乗せしてくれた。そのお金で取り急ぎ必要なものをこの店で買ってねという事らしい。


 とは言え、エリア用として事前に色々揃えて有ったので大した物は無い。強いて言えば服や下着を自分の好みで揃えれば良いとの事だったが服は兎も角、下着は分らないのでララに任せたらセクシーな物ばかり選んできて焦った。


 「ほら、これも持って行きなさい」


 エリアは1本の小刀を渡された。


 「これは?」


 「かわいい女の子が何も持ってないと危ないからね、護身用よ」との事。


 鞘から抜いてみる。波打つ波紋が綺麗な刀身をした片刃の小刀。その波紋に見とれていると突然扉の開く音がした。


 振り向くと其処には冒険者風の男が苦しそうに肩で息をしながら店に入ってきた。


 「ホウさん居ますか~・・・」


 なんだか疲れ果てたといった感じの声。顔色も悪く、足取りも重そうだ。


 「あらザルザザじゃない、どうかしたのかい?」


 「いやぁ~この間の活力液をまた売って貰おうと思って・・・」


 そう言ったザルザザと言う男に違和感を感じる。エリアにはザルザザの体に何か黒い靄の様な物が纏わり付いてるのが見えるのだ。その5つの靄の内2つは体の中に半分入っている感じだ。


 ただ見ているだけでも気持ち悪いその靄が、体に良い物じゃない事は全く知識の無いエリアにも分った。


 「いや活力液って、あれを使っても根本的な解決にはならないって言ったわよね?早く教会に行って治して貰いなさい」


 「行ったさ!でもこの間ですら通常の4倍の寄付を払えって言ってたのに今日は5倍だって言うんだぜ!ボッタクリじゃないか」と、悪態を付く。


 この言葉でエリアは納得した。この男の黒い靄は5つ、つまり前回から1つ増えたのだ。で寄付と言う名の治療費も5倍になったという事なのだろう。


 「俺にはホウさんの活力液の方が効くんですよ、教会の聖水より安いし」 


 教会は色々と施しをしてくれるが当然無料という訳では無く、寄付金と云う名の料金を取っているのだそうだ。


 「全く・・・ちょっと待ってなさい」


 そう言うとホウさんはカウンターの奥へと消えていった。


 そして、ザルザザの興味はこちらへと移る。


 「こんにちはララさん、騒がしくしてすみません」


 「いえいえ~、気にしないで下さい」


 疲労に塗れた笑顔に、にこやかに挨拶を返すララ。


 「そちらのお連れさんは初めて見る顔ですね」


 「はい、今度ご主人様の所でお世話になるエリアさんです~」


 「始めまして、エリアです」


 頭を下げるとザルザザは握手を求めて来たのでその手を取った瞬間、悪寒の様な物が走る。と同時に5つの靄が反応した。

 目が合った。と言う訳ではないがこちらをはっきりと認識された、そんな気がしたのだ。


 「ザルザザです、Eランクの冒険者ですよろしく」


 Eランク、ルルより1つ下のランクだが熟練者だろう、使い込まれたフルプレートメイルにロングソードと一般的な戦士の装備である。


 「Eランクの冒険者でも払えない程、教会への寄付金って高いんですか?」


 素朴な疑問、Eランクといえば熟連者クラスだ、それ程お金に困るレベルじゃない筈なのだ。


 「いや~お恥ずかしい」と、頭を掻くその仕草も力が無い。


 「ザルザザさんは孤児院に寄付をしているの~、だから・・・」


 説明するララをザルザザが止めた。


 「恥ずかしいのでやめて下さい、私の管理が悪いだけなので」と、頭を下げている。


 「恥ずかしい事はないさ、あんたに助けられた子供は多いんだから。ほら活力液よ」


 奥から小さな小瓶を持ってホウが戻って来た。


 「ありがとうございます」


 カウンターまで行って活力液を受け取るザルザザだったが、ザルザザがエリアの横を通った時、靄達がエリアを避けたのが見えた。


 なんで?とホウと話してるザルザザの背中の靄に手を伸ばしてみた。靄は避ける様に動いたが素早く振り払う様に触れてみた。


 ザワ!?


 感触というか何というか手応えの様な物がある。 


 活力液を一気飲みして、プハ~と酒でも飲んだ様に息を吐く。小瓶をホウに返すと少しだけ活力が復活した顔になって料金を支払った。


 「じゃぁ、俺はこれで・・・」


 店を出ようとしたしたザルザザを「ちょっと待ちな」と、ホウさんが止めた。


 チャンスと思ったエリアは振り向くザルザザの隙を付いて素早く5つの靄を抓み上げた。


 「良い、今度症状が酷くなったらちゃんと教会に行くのよ」


 そう念を押されたザルザザは申し訳無さそうに頭を下げて店を出て行った。


 「ちゃんと教会に行きますかね~?」


 「行かないでしょうね、まったく」と、言いつつホウはエリアを見た。


 エリアはその視線に気付かず自分の手元を見詰めていた。


 「どうかしたのですか~」

 

 「あ~、うん・・・」


 歯切れの悪いエリアにホウは溜息を吐いた。


 「エリア、あんた何をしたんだい?」


 言葉の意味が分らず頭の上に?を付けているララを余所に、エリアは手にした靄を2人に見える様に「なんか、取れちゃいました」と頬を掻いた。


 エリアの捕まえた5つの靄だがララには見えず、ホウにも何と無くしか分らないらしい。


 ホウはアイテムの専門家であって、そっち系は弱いという事らしいが魔人族の血なのか、何となくは分るらしい。


 「で、どうしましょう?これ」


 差し出された手の回りに手を伸ばすが、空を切るばかりでララには全く感覚が無い。


 そんな2人を見ていたホウがとんでもない事を言った「喰ってみたら?」と。


 「「はい?」」


 エリアとララが同時に答える。


 「昔読んだ本に魔物の魂を喰って強くなるモンスターの話が有って、そのモンスターも魂を捕まえていたのよ」 


 「魂を喰うモンスターって?」


 何か邪悪なモンスターの様に思われてるのかな?


 「モンスターと言うよりは悪魔に近い感じだったけどね」


 悪魔という言葉にドキリとする。と言うかモンスターより性質が悪い!

 

 しかしだ、実はこの世界に来てから今まで味わって来なかった感覚は感じていた。


 「あなたが必要無くてもエリアの体にはエネルギーが必要なの」


 アフィの家では夕食と朝食を頂いたが、未だ空腹を感じた事は無かった。これも自分が幽霊だからだと納得していたのだが・・・幽霊って食事が必要なのだろうか?


 触れるなら喰えるだろうと言う論法もどうかとは思うのだが、エリアは恐る恐る黒い靄を口元へと運んだ。


 スゥと吸い込むと何か体を満たす感覚がする。少しの高揚と満足感、更には全身に力が漲る充実感。確かにこれは食事かもしれないと思った瞬間何かが体の中で弾けた。


 初めての感覚。


 「味とか満腹感とか無いし食事と言うより補充、吸収って感じかな?」


 「補充?」


 「そう、なんと言うかただ桶に水を入れただけと言うか・・・」

  

 「何かしら満たされた物は有ると?」


 そう言われて気が付いた。確かに何かは入った、満たされたのだ。ただそれが何かは分らない・・・。


 なので「何かは分らないけどね」と、自嘲気味に笑った。


 こうも自分の事が分らないのは少し不安になるが、少しづつでも解明していかないといけないなと思う。自分に何が出来るかが分らないと今後の方針にも関わってくる。

 取り敢えずは、黒い靄の様な物を捕まえ、吸収出来る事は分った。それがどう影響するかは分らないけど。 


 翌日、エリアはリリとルルに剣術と魔法を習う事にした。最初、魔法はアフィに頼んだのだが忙しいと断られたのだ。


 そこでルルに頼むと最初は「最初からボクに頼めば良いのに」と少し拗ねた様子を見せていたが、一生懸命お願いすると最後には「良いよ」と、笑って快諾してくれた。


 なので先ずは魔法から。


 魔法のある世界なら当然使ってみたい!


 「よろしくお願いします!」


 溢れんばかりのやる気で勢い良くお辞儀をする。


 「まっかせて!」と、ルルも元気に親指を立てた。


 エリアはアフィやルルの見立てから何かしらの力はある事は分ってるのだが、どんな力かまでは分らないので、その属性を調べる所から始まった。 


 「はい、これ」


 エリアが渡されたのはソフトボール位の大きさの水晶だ。


 「これは?」


 「冒険者御用達!魔力判定クリスタル~!」


 このクリスタルに触れると水晶の中に色が浮かぶらしい。その色と輝きで種類と強さを調べる物だそうだ。勿論魔力が無ければ何も反応しないが、この世界の生き物で魔力の無い者はいないそうだ。


 「どうするんだ?」


 「ただ手を乗せれば良いんだよ」と、ペチペチと水晶を叩いてにっこりと笑ってる。


 どうやらルルはエリアの力に興味が有るらしい。というか単に楽しんでいるだけかも。リリも興味津々で小さなテーブルでお茶をしながらこちらを見てる。


 「じゃあ、行くぞ」


 エリアはそっと手を置いた瞬間クリスタルが強烈な光を放ち、ピキィッと音を立てて割れた!


 「え!?」「うわ!?」驚く2人の声。こちらを見ていたリリも驚いてる。


 目を瞑っていたエリアには何がなんだか分らなかったが、ルルはその瞬間を見ていた。白銀に輝くクリスタルを。


 「ご、御免!」


 「あ、うん、良いよ良いよ、ご主人の書斎で埃被ってたやつだし」と、言いながらも冷や汗一滴。


 「そうなのか?・・・で、どうだった?俺の魔力」


 「う~ん、それが初めて見る色だったwでも凄い輝きだったから魔力量は凄いと思うよ。そもそも霊体は魔力の塊だしね」


 「なるほど。で、色は何色だったの?」


 「白銀・・・」


 リリがいつの間にか側まで来ていてそう答えた。


 「白銀って珍しいの?」


 「見た事は無いけど、でも神聖系に近いと思う」


 「人魂なのに神聖系なの?」

 

 「良く分らないけど、エリアの一番強い魔力は神聖系だと思うよ。本来は白なんだけどね」


 「基本の火が赤色、水なら水色、土は茶色、風は青色・・・」


 「闇が黒で聖が白なんだけど、伝説レベルの聖職者や神獣は金色だったって言われてるんだよ」


 「白銀は白と金にイメージが近いからって事?」


 コクリとリリが頷く。 


 「ふ~ん」


 取り合えず納得するエリアに割れたクリスタルの大きい方の欠片を渡して「ほら、今度は火や水といった具体的なイメージを思い浮かべながら魔力を込めて他の属性も使えるか調べるよ」と、テストが再開された。

(割れた状態でも使えるのかこの水晶!?)


 結局全ての属性を使えるが、どれも最低限の力しか無かった。魔力の総量は凄い筈なのに全ての属性が最低限というのは珍しいらしく2人の理解を超えていたので色の事も含めて後でアフィに聞く事にしたがアフィが外出して居なかった為、昼食後剣術の訓練に移った。


 「そもそもその体はご主人が作った最新作、基本能力は私達より上」


 だから、後は使い様。詰まり慣れだという事で行き成りの模擬戦となった。勿論訓練用の剣なのだが・・・。


 「当たると痛いだろうな・・・」


 訓練用の剣を見て思わず出た呟きにリリは「当たらなければ問題ない」と、表情一つ変えずに言った。


 「リリさんは何処かの赤い人かな?」


 アニメやゲームを少しでも齧った人なら知ってそうなセリフに突っ込みをしたが、この世界では通じない。


 リリは小首を傾げたが、直ぐに真剣な顔になり「じゃあ、始める」と剣を構えエリアの戦闘訓練が始まった。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

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