第四十九話 『鎮魂の花』
『アストラル・ライフ』も今回を合わせて残り2話です。
少し長くて、詰込み気味ですが、読んでやって下さい。
祭りの最終日、突如街中に現れた魔獣達は討伐または捕獲され、また首謀者らしき者達も捕まり一先ず事件は収束となった。
街の人達や建物にも少なくない被害が、出たが規模の割にはかなり少ない被害で治まったのは、その場に居た人々の協力と献身の賜物だった。
つい先程まで壊れた家の応急処置や亡くなった者達の埋葬をしていた者達が、一段落付け自然と中央広場に集まって来ている。
領主や女王の計らいで屋台や商店からは無料で軽い食事や飲み物が提供され、お互いに労を労い、慰め合う。
空は茜色に染まり、魔法と篝火の炎が疲れ切った人々を照らしていた。
そんな中、楽隊の音楽と共に近隣国の旗が掲げられた。そして広場に作られた壇上に各国の大使達が姿を現した。
何事かと観衆の目が壇上に集まると女王と女王に誘われ、アラクネの少女、キラファが壇上に上がった。
キラファは使用人にお礼を言うと用意されたクッションに座り、持っていた本をそっと開く。
少しの静寂の後、楽隊が奏でる静かなメロディーの中、穏やかに本のタイトルが告げられ、朗読が始まった。
「そこに1人の旅人が居ました。町へと急ぐ人間の旅人さんが歩いていると突風で大事な帽子が飛ばされてしまいました・・・」
キラファの優しい声が風魔法を使った拡声魔法で街中に流れる。
人間の旅人から始まり、色々な種族が自分の特技を使って人を助け、その人もまた別の人に助けて貰う。助け合いの輪の物語。
そんな物語がこの多種族国家の街に流れる。
祭りの最終日、突如起こった事件に亡くなった者、肉親や友をなくした者、家屋を、店を潰された者。
この街の被害は計り知れない。
この規模の事件でこの程度の被害で済んだのは奇跡だと、誰かが言った。
しかし、何かを無くした者に街の被害の規模など関係なかった。失った者の悲しみはそんな言葉では癒されない。
そんな悲しみが影を落す街にキラファの声が染み渡る。優しく、穏やかに広がる聖母の声。
鎮魂の思いが昼と夜のしじまに解ける。そして物語は終わり、静寂が街に戻る。
ぱちぱち・・・。
静寂の中、誰かの小さな拍手が響いた。
ぱちぱちぱちぱち・・・。
あちらこちらから拍手が沸きあがり、広場を埋め尽くす喝采。
キラファは自分に向けられた拍手にあたふたした様子。そんな割れんばかりの歓声と拍手の中キラファに手を差し出す女王の手を取ろうとした時、しゅるる~と幾筋の光りが空に上っていった。
ドン!ドドン!
中央広場の正面。民衆の後ろで花火が打ち上がる。住民は勿論、女王達も夕闇に染まったばかりの南の夜空に花咲く色取り取りの光りの大輪に心奪われた。
今日、突如住居やお店を無くした者や家族や友人を亡くした者も少なくない。そんな突然降り掛かった不幸。悲しみや嘆き、焦燥感や喪失感、何より怒りや憤りそんな気持ちを一瞬でも忘れさせてくれる花火に皆が引き込まれた。
自然と涙が零れ落ちる・・・。
美しい鎮魂の花。
皆が花火を見上げている最中、キラファの一番上の目が近くの屋根から飛び出した何者かを捕らえた。
「!?」
闇夜に溶け込む黒ずくめの男は手に一振りの剣を持っていた。そして男はその剣を大きく振りかぶる。
(捉えた!)
男はそう思っただろう。街を襲った厄災は終わり、女王やその周辺の者の注意は花火に向けられていた。
心が緩んだそんな中、キラファだけが虚空に飛び出した男に気が付いたのだ。
女王を始め他の人は気が付いてない、私がなんとかしないと!と思った時には既に体が動いてた。
男が振りかぶった剣を女王に斬り掛かろうと構えた時、目の前を白い何かが飛び去った。
(なに!?)
驚いたその瞬間には腕と剣にその白い何かが絡みつき、更に体の自由も奪われ男の体が白い糸に絡め取られ動かなくなったのだ。
「なんだ!?」
男を絡めとる白い粘着性の糸。
キラファが放った蜘蛛の巣状の糸はもがけばもがくほど男に絡みつき、受身も取れないまま地面に叩き付けられたのだった。
その状況に気が付いた人々から悲鳴が上がる。
更に男をぐるぐる巻きにして縛り上げるキラファに視線が集まり、その視線に気が付いたキラファは焦ってあたふたしてしまう。
「あの、あの・・・」
何か言おうとしたキラファの頬に手を当て女王は顔を近付けた。
「ふぇ!?」
目の前の女王の顔に変な声が出る。
「ありがとう、貴方のお蔭で助かったわ。でも、どうして分ったの?私には地面に落ちるまで目では見えなかったのだけど?」
連行されていく男をチラリと見て訊ねる。
「はい、私には生き物の生命力と云うか気の様な物が見えるのです」
「生命力・・・」
「はい、その丁度上の目の視界に狂気に満ちた気が見えたのに姿が無かったので・・・」
「成る程ね」
そう言って納得した女王はにっこりと笑うと女王はキラファの背中を押してステージの前へと押し出した。
「不届き者から私達を守ってくれたアラクネの少女、シスターキラファにファニール王国女王、ミリアス・グリーム・フォル・リンドバインから感謝の言葉を送りたいと思う・・・・・・ありがとう、シスターキラファ」
「あの、あの・・・」
突然の展開と人々の声にしどろもどろになり、頭が真っ白になりそうになる。
「さぁ、キラファ。皆に答えてあげて」
「へっ!?」
ステージの上から見える、広場を埋め尽くす人々の顔、顔、顔。
女王に代わってみんなの前で朗読をすると云う大役を無事終えたと思った瞬間の事件と皆の視線と期待の表情に完全に頭が回らなくなったキラファはグッと抱きしめていた絵本に気が付いた。
(今こそエリアお姉ちゃんの絵本を宣伝しないと!)
「あの・・・」
抱いていた絵本を高く上げてキラファが放つ。
「絵本を買って下しゃい!」
盛大に噛んだ。
壇上のキラファは顔を真っ赤にして俯いてしまっているが、皆は「可愛い♪」とか「がんばって!」とか言っている。
一部異様に盛り上がっている男達が居るけど、アレは見なかった事にしよう。
全員が笑顔とは行かないが、それでも未曾有の事件に見舞われたお祭りはキラファのお蔭で笑顔の中で終わりを告げたのだった。
その日の夜の内に領主と女王の間で話し合いが持たれ、翌日の朝には復興が始まった。多くの人々が手を携え壊れた街が修復されていく。
2日目の朝になって、やっと体が回復したエリアも復興を手伝おうとしたがアフィに止められ、昼過ぎに見舞いに来たファムやキラファ達の見舞い攻勢を甘んじて受けた。
そして、エリアの回復を待って3日目の朝キラファ達は女王様達と一緒に王都に帰る事になった。
「エリアお姉ちゃん・・・」
「泣かないで、また会いに行くから」
「トゥク、エイナ、サリオン・・・」
子供達の名前を呼んで1人づつ頭を撫でていく。そして最後にキラファとファムの頭を撫でた。
勿論ファムの角には触れない様に。
キラファは恥ずかしそうに俯き、ファムはエリアに抱き着いている。
「キラファ、女王様を守ってくれてありがとうね」
「うん・・・」
「ファムもまた王都まで会いに行くから」
「・・・はい」
エリアは2人を優しく抱いて、別れを告げた。
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女王達を見送った後、もう1日様子を見て、次の朝から身体強化魔法を徹底的に訓練した。
シャルバとの闘いで有効なのは分ったが全然使いこなせなかったからだ。
実際丸1日以上エリアの体は動かせなかったし、その所為でキラファが暗殺者を捕まえる所を見られなかったのだ。
今日の訓練でもダメダメだった。
「全身に、均等に魔力を流す練習からだね~」
と、ルルの提案で習得するまでリリとの訓練だけでなく1日中魔力を流して過ごす事になった。
ただ魔力を流すだけなら直ぐに出来た。エリアは最初に体内に魔力を流す訓練をしていたのだから。
それを満遍なく、必要な場所に必要なだけ流しコントロールするのは流石に難しい。心落ち着かせた状態ならまだしも戦闘中となると、その状態で剣で闘ったり魔法を使うのだから一筋縄には行かない。
「慣れだよ、慣れ」
ルルは明るく言って身体強化魔法を使いつつ、ぴょんぴょんと飛び跳ねたり魔法を使ったりして見せる。
この娘は天才肌だからと、黙って話を聞いていたアフィが本を読む手を止めてやって来た。
「両手を出して」
言われるままに手を出すと、その手をそっと取られた。
「魔力を流すから集中して感じなさい」
すると右手から暖かな魔力が流れ込み、体を巡っていく。
自分の魔力を流している時よりも穏やかで暖かい流れ。
揺らぎの一切無い静かな魔力の対流を感じていると、少しづつ量を増やすわよと言われ同時に魔力の流れが少し激しくなった。
「違いが分る?」
「ああ・・・」
流れの穏やかさは変わらないのに、魔力量だけが増えた圧を感じる。
「じゃあこれは?」
今度はとても少ない量を流されている。
極々僅かな量の魔力が滲み広がる。他者の魔力でなければ気が付かないだろう、それ程に穏やかで微かな魔力が全身に広がる。
「身体強化魔法を使うなら、これくらいの魔力量を常に流す練習からしなさい」
そこでエリアはこっそり常時身体強化魔法を使う事にした。エリアの体に入っている間は常にだ。
昼からの勉強には通常の魔法が追加された。アフィ達の独特な解釈だけでなく、一般的な認識も勉強する事にしたのだ。
これにはイメージだけでは難しい魔法を魔法陣と詠唱で実際に使ってみて、実物を見る事でイメージしやすい様にして、無詠唱でも唱えられる様にする為でも有った。
それに、普通の魔法を知っていれば相手に使われた時に何の魔法か素早く判断して対処する事も出来る筈だからだ。
ただ、詠唱の言葉も魔法陣も多少、流派とか地方で差異が有るらしいのだが今は一番普及している魔法を学んでいる。
そして今日から新しいメニューが追加した。それは世界情勢だ。
この世界情勢に冠してはアフィ達だけでは偏るので、新しく講師を頼んだ。
「こんにちは~」
カランカランとドアベルを鳴らして店に入ると牛角族のホウさんが、いらっしゃいと笑みを浮かべてる。
ホウさんは商人としての立場から世界情勢に明るいし、他に街の情報にも精通している。アフィ達とは違った商業や市民目線の世界の情報を得るには打って付けだろう。と云うか近場で他に適任者を知らないのだ。王都に行けば別だが。
魔物関係の知識は本とギルドから得ている。エリアの使っているアナライズ(鑑定)は、何も知らない相手の情報を浮き彫りにするのではなく、自分の知っている知識を思い出させたり、経験則から相手の強さを予測する魔法だ。
なので、知識を増やすイコールこの魔法の精度を上げる事になる。
これは魔物だけに限った話ではない。なので何でも屋的なホウさんの店は一石二鳥なのだ。
この国は元々戦いの絶えなかった幾つもの都市国家を女王が纏めた国なので街々での特色が有る。更に周辺の国の事となると正に別世界だった。
この国の各都市、周辺国の情報、そしてこの大陸の歴史、ホウさんはエリアの質問1に対して10で答える様に様々な事を教えてくれた。
嘗ての大きな戦争、人々の心の底に残る過去の悲劇、そしてこの大陸の外の世界。
「この大陸って、世界全体では小さい方なんですね」
「そうね、セイルン大陸は5大陸の下から2番目だからね」
ホウさんは古い地図を広げて左下の大陸を指差す。
大陸は大2、中1、小2といった感じだ。他に大小様々な島が有る。
「この一番近い隣の、カーウィル大陸まで距離はどのくらいなんですか?」
「船で何日も掛かるって話よ。確かこちらからは2週間、向こうからだともっと掛かるとか・・・」
一応定期便も有るらしいが、旅行気分で気安く行ける場所では無いらしい。
エリアは他大陸の話は、本を借りる事にしてホウさんから他の国、特に周辺国の話を重点的に教えて貰うことにした。
ホウさんの分らない事は本やその国出身の人を紹介して貰ったりと多くの時間を費やした。
こうして多くの知識と訓練と経験を積んでエリアの旅の準備が整って行くのだった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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後、『豆太郎と僕 異世界転移 勇者豆太郎と巻き込まれた僕』という短いシリーズも書き始めました。出来ればそちらも読んでみてください。
https://ncode.syosetu.com/n0713hv/
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